「今のままでは絶対に負ける」と選手たちに発破を掛けたという原晋監督原晋監督インタビュー 前編 表情の険しさが、現状の厳しさを物語っているのだろうか。青山学院大学陸上競技部の原晋監督に今季の新戦力について話を聞こうと思ったら、前のめりになって…



「今のままでは絶対に負ける」と選手たちに発破を掛けたという原晋監督

原晋監督インタビュー 前編

 表情の険しさが、現状の厳しさを物語っているのだろうか。青山学院大学陸上競技部の原晋監督に今季の新戦力について話を聞こうと思ったら、前のめりになってこう話す。

「まあ、駒澤大の一強でしょう。今までの歴史のなかでも非常に質が高くて勢いもある。はっきり言って強いですよ」

 追われる側から、追う側へ。今季の青学大の立場は明確だ。昨季、駒澤大に大学駅伝3冠を献上し、その実力差があらわになった。新チームが始動し、春からのトラックシーズンを経て、現在の戦力図を次のように分析する。

「駒澤でしょ、中央、青山、創価、早稲田。これが来年の箱根駅伝で優勝を狙えるチームだろうね。当然、うちも優勝を目標にやっている。この10年で何度も優勝を経験してきたチームですから、目標を下げることは考えていません」

 話しぶりからは余裕も感じられるが、新チーム発足直後はそうではなかった。全部員を集めたミーティングで、監督は熱くこう訴えかけている。

「現実問題として、今のままだと箱根の10番手だぞと。一歩間違えばシード落ちもあり得るという話をしました。学生たちは真剣な表情で聞いていましたね。やはり、現実は突きつけないといけないですから。『ドンマイ、ドンマイ、なんとかなるよ』ではどうしようもない。今のままでは絶対に負ける。誰が2区を走るんだ。誰が山を登るのと。けっこう熱いんですよ、私は」

 戦力ダウンの主な要因は、「青学史上最強世代」と呼ばれた4年生たちが卒業したことだ。5000mと10000mの青学大記録を持つ近藤幸太郎、1年生の時から主力を担った岸本大紀ら、華々しい活躍をしてきたエース格がごそっと抜けた。前回の箱根駅伝では10区間中7区間を4年生が占め、最上級生が抜けた影響は他大学よりも大きいと思われた。

 いわばチームの再建待ったなしの状況で、その中心になるのが今の4年生たちだ。志貴勇斗キャプテンを筆頭にどんな組織を作りあげていくのか。三大駅伝未経験の選手も多く、この世代はこれまで先輩の陰に隠れてきた印象が否めない。

 だが、力がないわけではないと原監督は話す。

「仲がいい学年なんですけど、それは困ったことでもあって、アスリートの世界では仲のよさがあだとなることも多いんです。やはり勝負の世界は蹴落としてなんぼですからね。闘争心を持って、我が強く、自分からポジションを奪いにいくくらいでないといけない。そういう動きが昨年はあまり見られなかったです」

 ふと苦い笑みを浮かべる。

「いい先輩が多い年ほど、下級生が勝負の時に引くんですよ。うっとうしい先輩の時は絶対に負かしてやろうと思うんだけど、可愛がってもらったり、いい先輩だと本能的に引いちゃう。それもあって彼らは伸び悩んだのかもしれない」

 裏を返せば、それだけ昨年のチームは心技体で強かったと言うことだ。箱根ではエントリー16人中13人が10000m28分台の記録を持ち、「2チーム出場できる」というほどの層の厚さを誇った。

 それでも駒澤大と中央大に及ばず、総合3位と苦杯をなめた。あれだけの戦力を有しながらなぜ勝てなかったのか。

 敗因はもちろん分析済みである。

「箱根駅伝の10日前までは僕も楽勝で勝つと思っていましたからね。それがコロナでバタバタと最後に崩れて、レース本番では取りこぼしにつながった。今の駅伝はひとつでも取りこぼしがあったら勝てない。それくらい厳しいです。だって駒澤は出雲の6区間、全日本の8区間、そして箱根の10区間でブレーキがなかったじゃないですか。24区間で一番悪かったのがたしか箱根と全日本の区間5位でしょ。だからもう昔のように往路勝負とか、復路勝負なんて言ってられない。往路だろうと復路だろうと、穴がひとつでもあったら勝てないんです。全員が往路を担えるような布陣を敷かないと勝負に勝つのが難しい時代になりましたね」

 箱根で敗れたあと、記者に囲まれた原監督はこんな言葉を述べていた。「もう平成の駅伝では勝てない」と。その真意は何だったのか。

「要するに1㎞3分ペースで押していけばいいという時代ではないということ。極端な話、最初の5㎞を14分10秒くらいで入って、そこから3分ペースで耐えて、最後にまた14分台に上げるとか。それくらいスピードが必要なんです。私が昔、10000m28分台の選手を10人揃えると言ったらみんな笑ったんですよ。チームに2、3人しかいない時代だったから、そんなの無理だって。でも今では5000m13分台、10000m28分台が当たり前になったじゃないですか。我々が4連覇した頃よりも全体のレベルが格段に上がった。これからはよくて2連覇、3連覇......。いや、連覇すること自体が難しいかもしれないね」

今はまさに戦国駅伝と呼ばれるが、それほどトップで居続けるのは難しいことなのかもしれない。