スタジアムがにわかにザワついていた。4日のオリックス戦(ヤフオクD)。7回に入っても、スコアボートに表示されたオリックスの「ヒット」の欄は「0」のまま。ソフトバンク先発の石川柊太投手のノーヒットノーラン達成への期待が高まり始めていた。■先発…

スタジアムがにわかにザワついていた。4日のオリックス戦(ヤフオクD)。7回に入っても、スコアボートに表示されたオリックスの「ヒット」の欄は「0」のまま。ソフトバンク先発の石川柊太投手のノーヒットノーラン達成への期待が高まり始めていた。

■先発へ配置展開で4勝1敗、防御率1.42、躍進するソフトバンク石川

 スタジアムがにわかにザワついていた。4日のオリックス戦(ヤフオクD)。7回に入っても、スコアボートに表示されたオリックスの「ヒット」の欄は「0」のまま。ソフトバンク先発の石川柊太投手のノーヒットノーラン達成への期待が高まり始めていた。

 7回1死から小谷野が放った打球は鈍い当たりで三遊間を抜け、左前安打に。この日21番目の打者に初の安打を許し、育成出身者初の無安打無得点試合達成という快挙は成らず、球場全体がため息に包まれた。それでも、石川は気落ちすることなく、1死一、二塁とこの日初めて得点圏に走者を背負っても、T-岡田を遊飛、中島を右飛に打ち取った。7回1安打無失点。文句のつけようのない出来で、今季4勝目をマークした。

 昨季途中に育成選手から支配下登録された石川。今季は中継ぎながら、初の開幕1軍の座を掴み取り、好投を続けてきた。和田、武田、千賀といった先発陣に故障者が続出したチーム事情から先発へと配置転換。5月31日の中日戦(ヤフオクD)でプロ初先発すると、6回2失点でプロ初勝利を挙げ、6月7日のヤクルト戦(ヤフオクD)で6回2安打1失点、12奪三振で2勝目。同14日の巨人戦(東京D)では6回途中2失点で初黒星を喫したが、同27日の日本ハム戦(ヤフオクD)では7回1安打無失点、12奪三振で3勝目。そして、4日には4勝目。先発5試合で4勝1敗、防御率1.42の好成績をマークしている。

 彗星のごとく現れた育成出身の右腕。好投を続けている現状の投球について「大きい変化球(パワーカーブ)でカウントを取れるようになったし、小さい変化のボール(スライダー)も使える精度が出てきていることが、今の自分を支えているかなと思います。パワーカーブとスライダーが軸になっています」という。その中でも、特筆すべきは、独特の変化を見せる「パワーカーブ」の存在ではなかろうか。

 ファームでも石川のボールを受けてきた同じ育成出身の女房役、甲斐拓也は、この石川のパワーカーブの変化をこう表現する。「ブレーキがすごく利いているし、一度打者に向かってくるような軌道を描きます。打者は一度『オッ』となる。なかなか見ない軌道です。あのパワーカーブがあるから、真っすぐも生きますね」。

■“魔球”パワーカーブ、その秘密とは 握りは「伊藤智仁さんのスライダー」

 映像で見ているファンならば、その軌道が独特なものであることが分かるはずだ。一度、右腕から放たれたボールは打者に向かい、そこからブレーキを利かせ、急激に斜め左下へと変化していく。カーブの名手と言われるチームメートの武田翔太とはまた異なる軌道を描く。

 右腕の投球を支える“魔球”パワーカーブ。そこには、どんな秘密が隠されているのだろうか。

 石川のパワーカーブ。その握りを「伊藤智仁さんのスライダーと一緒です。それを真似して握っています」と明かす。かつて高速スライダーの使い手として名を馳せた名投手・伊藤智仁(現ヤクルト投手コーチ)。そのスライダーの握りは、幅が狭くなる部分の縫い目に沿って人差し指、中指を掛け、やや回転させるというもの。2シームに近い握りだった。

 その握りから、投じる際のイメージは「叩くイメージが強いですね。右打者の顔に叩き込む感じ」だという。独特のフォームから繰り出されるボールはスライダーの横回転ではなく、カーブの斜め回転となる。カーブでよく言われる「抜く」イメージではなく「叩く」のだという。

 以前から投げていたこのボール。ただ、石川自身の中では「スライダー」の位置付けだった(現に最近まで「スライダー」と呼んでいた)。ただ、その「スライダー」は「大きく曲がってどうしようもないボールだったんです。ずっとスラーブみたいな形で。どうしようもないから、それをスライダーと呼ぶしかないという中でずっとやってきました。決め球にしようとして、空振りを取れるようにというのもやってきましたけど、そうなるとどうしても安定しなかった」。

■首脳陣評価も使い道に苦心した球種、いかにして効果発揮できたのか

 曲がりが大きく使いづらいボールで、石川自身、使い道に苦心してきた。それを唯一無二の武器に変えたのは、ちょっとした意識の変化だった。

「今年になって、カーブみたいな使い方で使えるのに気づいたというか。高低差や緩急をズラす球、カウント球のような感覚で投げるようになってから、あの球の良さというか、使い分けというか、自分の中であのボールの立場を確立出来た」のだという。スライダーではなく、打者のタイミングや目線をズラすカーブの意識に変えたことが、覚醒の一因にあった。呼び名も「スライダー」から「ちょっと格好良い」という理由も相まって「パワーカーブ」に変えた。

「もともと(投手コーチの)佐藤さんや高村さんには『他の人が持っていないボール』と言ってもらっていましたし、(ヘッドコーチの)達川さんにも『あの球がお前の中で1番いいボールだと思っている』と言われていました。それを聞いて、自分の中で、試合を投げて行く中で掴めたところもありますし、あのボールの立場を確立出来た。意識させられるボールなんだという良さを自分の中で分かったことが大きかったですね」

 パワーカーブがゾーンに決まりだすようになったことで、相乗効果も生まれた。「自分は高めの真っすぐが多いので、あの球があると、その高めの真っすぐが生きてくるとすごく感じられた」。

 ストレートは150キロ前後を計時する。打者は、その真っすぐを意識すると、同じような軌道で高めに一度浮いてくるカーブにタイミングが狂う。カーブを意識すると、高めのストレートを捉えることはなかなかに難しくなる。

 都立総合工科高校から創価大を経て、2013年の育成ドラフト1巡目でプロへの扉を開いた石川。プロ4年目で開花の時を迎えた右腕の素質。ソフトバンクに現れた新星・石川に、そして、右腕から繰り出される「パワーカーブ」に、是非とも注目してもらいたい。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)