7500人ものサポーターが、はるばるチリからロシアまで飛んできて、コンフェデレーションズカップ(以下:コンフェデ杯)を戦う代表チームの後押しに回った。「モスクワ、カザン、モスクワ、サンクトペテルブルク……。もう…

 7500人ものサポーターが、はるばるチリからロシアまで飛んできて、コンフェデレーションズカップ(以下:コンフェデ杯)を戦う代表チームの後押しに回った。「モスクワ、カザン、モスクワ、サンクトペテルブルク……。もう15日間、ロシアを回っているよ。ロシア人は親切で、楽しく過ごせている」。決勝戦のキックオフを目前にして、チリサポーターのひとりはそう語っていた。


ホイッスルの瞬間、ドイツは歓喜し、チリはピッチに倒れ込んだ

 かつてFWマルセロ・サラスとの「ササコンビ」で相手ディフェンダーを恐怖に陥れたFWイバン・サモラーノですら「自分たちの世代はまだ、本当のウイナーズ・メンタリティは備わっていなかった」と述懐するほど、タイトルとは縁のなかったチリ代表。しかし2015年、地元開催のコパ・アメリカを制したことでその殻を破ると、続く2016年のコパ・アメリカ・センテナリオでも優勝を果たした。今やチリは、すべてのタイトルを奪いにいく「ウイナーズ・メンタリティの塊(かたまり)」と化している。

 コンフェデ杯は「6大陸の王者」「W杯チャンピオンのドイツ」「W杯開催国のロシア」という選ばれし者による大会だ。「この大会で優勝すれば、チリは世界を征することになる」。そう信じているからこそ、今大会のチリはものすごく高いモチベーションでロシアに乗り込んできた。

 一方、チリの決勝戦の相手であるドイツにとって、コンフェデ杯はリザーブチームの修行の場だった。正直に言って、サッカーの世界でコンフェデ杯が持つステータスは決して高いものではない。

 それならばと、代表チームとの両立で過密日程を過ごしたGKマヌエル・ノイアー(バイエルン)、MFトーマス・ミュラー(バイエルン)、MFサミ・ケディラ(ユベントス)、MFトニ・クロース(レアル・マドリード)、ベネディクト・ヘヴェデス(シャルケ04)には所属クラブのスケジュールが終わった時点でオフを与えた。そしてドイツは6月の代表マッチウイークから劇的なメンバーの入れ替えを実行し、このコンフェデ杯に臨んだのである。

 この「ドイツBチーム」のメンバー構成を見ると、ホッフェンハイムから4名招集したのを例外に、RBライプツィヒ、レバークーゼン、パリ・サンジェルマンから2名ずつ、そして残る11名はすべて異なるクラブから選手を呼んでいる。コンフェデ杯の決勝戦が行なわれたのは7月2日。欧州では多くのクラブが新シーズンに向けて調整を始めるころだ。

 コンフェデ杯に出た選手は、大会後からオフを取ることになるので、クラブチームへの合流は7月下旬になるだろう。ヨアヒム・レーヴ監督の選手選考からは、各クラブへの配慮が透けて見える。

 6月6日に行なわれた親善試合のデンマーク戦(1-1)で立ち上がったこの即席チームは、およそ4週間でチームとして完成度を増していった。その短期間で、「好選手」だったMFユリアン・ドラクスラー(パリ・サンジェルマン)やMFレオン・ゴレツカ(シャルケ04)は「すごみのある選手」へと変貌。チームリーダーとしても頼もしい姿を見せるようになった。

 本気で優勝を目指すチリと、若手の成長を促(うなが)す場として活用するドイツ――。コンフェデ杯への取り組み方は180度、異なっていた。それでも、この大会でのパフォーマンスを振り返れば、ともに決勝進出にふさわしいチームだった。

 1-1の引き分けに終わったグループリーグでの戦いと同様に、試合序盤はチリのプレッシングとショートカウンターがドイツを圧倒し、チャンスに次ぐチャンスを迎えた。10日前の対戦では、開始6分でドイツの個人ミスを突いて先制ゴールを奪ったチリ。だが今回の決勝戦では、ドイツが割り切って守備に徹し、チリの序盤の猛攻を耐え切った。

 しかも20分、今度は逆にドイツがチリの個人ミスを誘ってゴールを奪うというお返し弾で先制。チリがようやく反撃を開始したのは、67分にFWアレクシス・サンチェス(アーセナル)が後半1本目のシュートを放ったあたりからだった。

 2014年のワールドカップ、2015年・2016年のコパ・アメリカに加え、チリは「もうひとつのコパ・アメリカ」とも呼ばれるワールドカップ南米予選を戦ってきている。中心選手がほぼ同じ顔ぶれということもあり、代表チームはまるでクラブチームのように意思疎通が取れており、戦術レベルも非常に高い。なかには、代表チームでのほうがパフォーマンスの高い選手も見受けられる。

 しかし、コンフェデ杯でのチリは疲労の色を隠せなかった。準決勝までの戦いを見ていると、前半の好パフォーマンスが後半になって落ちることが多々あった。決勝戦でも、1点を奪われたころから選手のポジショニングが間延びしてしまい、「ボールを止める・蹴る」というプレーですら信じられないミスを連発していた。

 長期間のハードスケジュール、シーズン終わりの疲労、そして準決勝ポルトガル戦での死闘(PK戦で勝利)がダメージとして蓄積していったのだろう。それでも決勝戦では、一度止まった足をふたたび動かし、フレッシュな交代選手を使って84分にはあわや同点ゴールというビッグチャンスも作った。チリの敢闘精神は、実に素晴らしかった。

 挑発あり、エルボーあり、乱闘あり……。コンフェデ杯の決勝戦は、まるでコパ・アメリカのような南米っぽいテンションの高さだった。ドイツはしたたかにカウンターの一発を狙い、チリを後退させながら時間を有効に使った。そしてアディショナルタイム、サンチェスが蹴った渾身のフリーキックがGKマルク=アンドレ・テア・シュテーゲン(バルセロナ)にビッグセーブされたところでタイムアップ。若きドイツBチームがコンフェデ杯の頂点を掴み取った。

 優勝への渇望が強かったからこそだろう、試合後にチリの選手はピッチの上に次々と崩れ落ちた。だが、その後は試合中のわだかまりもすっかり捨てて、「グッドルーザー」としてドイツを祝福する。そんな彼らに、観客席からは「チーレ! チーレ!」の大声援が送られた。

 決勝ゴールにつながる致命的なミスを犯したMFマルセロ・ディアス(セルタ)は試合後、チリ国民に対して謝罪文を発表した。およそ14年前、兄弟のひとりを亡くしたのがこれまでの人生でもっともつらいことだったとすれば、今日のヘマは自分のサッカー人生で一番厳しいもの。泣きたい、叫びたい、苦しい気分だ。申し訳ない……。この長い謝罪文は最後、「このミスの借りは、遅かれ早かれ返してみせる」と締めくくれられている。コンフェデ杯へ懸けたチリ人たちの想いの強さが伝わってきた。

 一方で優勝を決めたドイツチームの記者会見には、レーヴ監督とともにテア・シュテーゲンが出席した。「実力伯仲の試合だったが、ドイツは勝利に値した。U-21代表チームのユーロ優勝に続き、ドイツにとって意義のある勝利。我々は若いチームだが、グレートチームなのもたしかだ」。そのようにテア・シュテーゲンが話していると、突然チームメイトが乱入してビールかけが始まった。一気にホップの匂いが充満する記者会見場。「カンピオーレ! カンピオーレ!」。彼らは肩を組み、雄叫びを挙げる。若いとは、実に素晴らしい。

 U-21代表が欧州を制覇し、B代表がコンフェデ杯を獲った。ドイツ代表チームの選手層は、ますます厚くなっている。何より重要なことは、代表チームの主力選手が疲労を回復できたことだろう。主要な大会直後の代表マッチは、いずれの強豪国にとっても難しいものとなる。コンフェデ杯の疲労を心配することなく、W杯欧州予選の9月1日のチェコ戦、そして9月4日のノルウェー戦に臨めること――それが今回のドイツにとって大きな収穫のひとつだ。