6月3日・4日、鈴鹿サーキットにてスーパーGTシリーズ第3戦が開催された。開幕前は台風2号が接近し、日本列島ほぼ全域を襲来。開催地の三重県も一時は暴風雨に見舞われた。 各チームのドライバーたちは2日の金曜午前までに現地入りを果たし、新幹線…

 6月3日・4日、鈴鹿サーキットにてスーパーGTシリーズ第3戦が開催された。開幕前は台風2号が接近し、日本列島ほぼ全域を襲来。開催地の三重県も一時は暴風雨に見舞われた。

 各チームのドライバーたちは2日の金曜午前までに現地入りを果たし、新幹線の運転見合わせなど交通網が麻痺したことでの影響はなかった。だが、一部のチーム首脳陣やレースクイーンたちはその影響をモロに受け、土曜の夕方にサーキットに着くという人も少なくなかった。



ヨコハマタイヤで速さを発揮している19号車

 肝心の土曜と日曜は台風一過。ドライコンディションでレース日和となったのだが、その内容は台風さながらの"大荒れ"となった。

 予選では、トップタイムを記録したリアライズコーポレーションADVAN Z(ナンバー24)が再車検で違反が見つかり失格。決勝では、レース終盤にMOTUL AUTECH Z(ナンバー23)がGT300クラスの車両と接触し、大クラッシュを喫した。

 23号車のマシンは原型をとどめないほど大きく損傷したが、ドライブしていた松田次生は幸い意識があり、ドクターヘリで病院へ搬送。検査の結果、目立った外傷はないとのことで、6月7日にはICUから一般病棟に移ったことを自身のSNSで報告した。また、クラッシュに巻き込まれたGT300クラスのBamboo Airwaysランボルギーニ GT3(ナンバー87)の松浦孝亮も、自力でマシンから脱出して無事だった。

 このクラッシュにより、サーキットの防護フェンスが大きく損傷。これにより、当初77周で争われるはずだったレースは58周で終了することになった。

 ただし終了時点において、レースで義務づけられていた2回の給油をすべて消化していなかった点をどうするかについて問題が噴出。二転三転した結果、WedSport ADVAN GR Supra(ナンバー19)が暫定1位ということになった。しかしこの結果に対し、レース終了時に1位を走っていたNiterra MOTUL Z(ナンバー3)が控訴したため、後日行なわれる審議の裁定結果が出るまで、GT500クラスのリザルトは暫定扱いとなっている。

【タイヤ戦争がヒートアップ】

 結果的には、なんとも後味の悪い1戦となってしまった。ただ、レースの内容に絞って見てみると、後半戦に向けて面白くなりそうな要素も見つかった。

 それは、タイヤメーカー同士の争いだ。

 現在のGT500クラスは、ブリヂストン、ミシュラン、ヨコハマ、ダンロップの4社が参入。常に激しい開発競争が繰り広げられている。

 スーパーGTでは、1大会に使用できるタイヤの本数は決まっている。だが、シーズン中もタイヤ自体の改良は認められているため、その日の気温や路面温度にピンポイントで対応したタイヤを作り、大会ごとに新しいアイデアを投入してライバルを上回ろうとしている。

 スーパーGTで長年にわたり、勢力を誇っているのはブリヂストンだ。GT500クラスでは7年連続でチャンピオンを獲得している。それに対し、日産勢の2台に供給するミシュランが競り合うという展開が続いている。

 しかし今年に入ってから、その勢力図に変化が見られるようになった。着々とヨコハマが実力を伸ばしつつあり、今回の第3戦・鈴鹿でもライバルを脅かす存在となっている。

 現在、ヨコハマは19号車と24号車の2台にタイヤを供給。ここ数年、ヨコハマは予選での速さが際立ち、2021年には2回、2022年には5回もポールポジションを奪う活躍を見せている。

 ただし、決勝でのロングランになると、ライバルメーカーに屈することが多かった。特にスタート時やピットアウト直後のタイヤが温まっていない時の性能と、長持ちするタイヤ作りを課題にさまざまなトライ&エラーを繰り返した。

 そんななか、今年の第2戦・富士で転機が生まれる。予選ではライバルよりも少ないウォーミングアップでタイヤを温め、彼らと遜色ないタイムを叩き出したのだ。これについて、GT500で2度のチャンピオン経験がある24号車の平手晃平も、今までにない手応えを感じていた。

「朝の練習走行でロングランのテストをした時、性能的によさそうなタイヤが見つかりました。アベレージラップも速いです。低温度の時に使うタイヤとして想定していましたけど、高温になっても耐えてくれています。温度に変化があっても使えるタイヤという発見がありました」

 24号車は予選だけでなく、決勝レースでも力強い走りを披露。2番手争いを演じた。ただ、残り5周で不運なアクシデントに見舞われ、レースから脱落することになってしまった。

【ミシュランは有終の美を狙う】

 それでも、ヨコハマが最後まで攻めの姿勢を貫ける力強いタイヤに進化したことは、レース関係者の誰もが認めることになった。24号車のKONDO RACINGを率いる近藤真彦監督は語る。

「正直、2回目のピットストップでタイヤ無交換も考えるくらい、長持ちするタイヤでした。昔は『早くタイヤを換えたい!』とドライバーから無線で言われていましたが、今回は余裕でした。グリップして長持ちする......すごく頼もしいタイヤが出てきました」

 ヨコハマへの期待が日に日に膨らむなか、迎えた今回の第3戦・鈴鹿。

 前回の富士スピードウェイとはコース特性やタイヤへの負荷もまったく異なる鈴鹿サーキットにおいて、24号車が予選トップタイムを叩き出し、19号車も3番手につけた。24号車が再車検不合格により最後尾となったが、決勝では19号車が最後まで力強い走りを披露した。

 特筆すべきは、課題となっていたピットアウト直後のシーンだろう。タイヤ交換直後は性能を100%引き出せずに順位を落としてしまうヨコハマが、今回はライバルよりも速いペースで周回したのだ。

「昨年は(ピット作業直後の)アウトラップが課題でしたが、今回はピットのタイミングとアウトラップでライバルを上回ることができた。課題を克服できたのは、横浜ゴムの設計と進化があったからだと思います」(19号車・坂東正敬監督)

 タイヤ競争に関しては、寂しいニュースも入ってきている。ミシュランが今季いっぱいでGT500クラスへのタイヤ供給を休止することを先日発表した。プレスリリースでも『チームのシリーズチャンピオンに向け最終戦、最終ラップまで邁進します』と力強いコメントを発表しており、有終の美を飾るべく、より一層、力を入れてくることは間違いないだろう。

 これに対し、7連覇中のブリヂストンも危機感を感じている模様だ。世界中のモータースポーツの中で、このスーパーGTが唯一と言っていいほど複数のタイヤメーカーが参戦している。トヨタ、日産、ホンダの自動車メーカーの"三つ巴"だけでなく、タイヤメーカーの熾烈な争いもスーパーGTの醍醐味のひとつだ。