大方の予想どおり、といっていいのだろう。第9戦・ドイツGPはマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)が優勝を飾り、2010年の125ccクラス時代から8年連続のポールトゥウィンを達成した。そしてこのリザルトにより、混戦のチャンピオ…

 大方の予想どおり、といっていいのだろう。第9戦・ドイツGPはマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)が優勝を飾り、2010年の125ccクラス時代から8年連続のポールトゥウィンを達成した。そしてこのリザルトにより、混戦のチャンピオン争いはマルケスがトップに浮上して、2017年のMotoGPは8月上旬まで4週間のサマーブレイクを迎えることになった。


表彰台を獲得したフォルガー(左)、マルケス(中央)、ペドロサ(右)

 ドイツGPの会場、ザクセンリンク・サーキットでは、過去にもホンダ勢が圧倒的な強さを発揮してきた。マルケスが最高峰へ昇格する前の2010年から2012年までは、現在のチームメイトであるダニ・ペドロサが3年連続で優勝を飾っている。ただ、今年の場合は、特定のメーカーと相性がいいと言われていたコースでも、その予測を覆すようなレース結果がしばしば発生している。ヤマハ向きと言われていたスペインのヘレス・サーキットやカタルーニャ・サーキットが、その好例だ。

 今回の第9戦の場合では、路面が今年初頭に再舗装を施されて以来、誰もテストを実施していない。新しい路面ではグリップが向上する反面、どれほどタイヤの摩耗を早めるのかが未知数で、それが不確定要素になることも考えられないではなかった。

 この新路面への対応として、公式タイヤサプライヤーのミシュランは、フロント・リアとも通常よりも1種類多いコンパウンドを用意した。ただ、実際に走行が始まってみると、この部分での不安はなにもなく、強いライダーがいつもどおりの強さを発揮する展開になった。むしろ不安要素という意味では、安定しない天候のほうがレースを左右する可能性が高かったかもしれない。

 今年のレースウィークは、太陽の照る好天の下でセッションが行なわれたことが一度もなかった。ドライコンディションを維持したとはいっても、どんよりとした曇り空で、温度条件は総じて低かった。そして、土曜午後には本降りの雨になった。そのウェットでもドライでも、マルケスはトップタイムを記録して、当然のようにポールポジションを獲得。ペドロサもマルケスにこそわずかに及ばないものの、安定した高水準の走りでフロントロー3番グリッドを獲得し、ホンダ勢の強さを印象づけた。

 このようなセッションの流れを経て、日曜午後を迎えたことを考えると、フラッグトゥフラッグでマシンの乗り換えなどが発生しないかぎり、驚くような展開になることはおよそ考えられそうになかった。そんな状況下でも、30周の戦いを皆が固唾を呑んで見守ったのは、地元ドイツ出身の最高峰クラスルーキー、ヨナス・フォルガー(モンスター・ヤマハ Tech3)が大活躍したからだ。

 予選5番手のフォルガーはレース序盤からマルケスとペドロサにピタリと張りついて、周回を重ねた。その姿に、ドイツ中のファンは大いに沸き立った。フォルガーはペドロサをオーバーテイクしてマルケスの背後に浮上。レース後にペドロサは「その瞬間は『ん?』と思った」と、予想外の選手が優勝争いに割って入った驚きと奇妙な戸惑いを、端的に表現した。

 その勢いで、フォルガーは6周目にはマルケスも抜いてトップに立ち、10周目までレースを引っ張った。

「タイヤを温存してレースをコントロールしようと考えていたら、ヨナスに抜かれたので、すごくびっくりした」

 このようにマルケスも、ペドロサと同様の感想を述べている。

 ふたたびフォルガーの前に出たマルケスは「少しずつタイムを上げていっても、ずっと離れなかった。これは最後までついてくると思ったので、途中からペースを少し落とした。ここはドイツのコースでドイツのライダーが相手だから、最終ラップに勝負を持ち越すのはよくないと思って、ラスト5周は全力で走った」と終盤の展開を振り返った。

 フォルガーの側からこの状況を振り返ると、以下のようになる。

「最後までついていける自信があった。最終ラップで勝負を仕掛けようと思っていたけど、残念ながら残り4周(の1コーナーで)でミスをしてしまった。マルクのブレーキがすごく強烈だったので、自分はワイドにはらんでしまい、それで2秒ほどの差がついた。その後も追いつこうとしたけれども、転びそうになったので2位確保に切り替えた」

 マルケスが際立った能力を発揮して、追いすがろうとするフォルガーを最後にきっちりとあしらったことが、このコメントからもよくわかる。また、イチかバチかの勝負を仕掛けられることを避けるために、残り5周でスパートをかけて突き放す戦略の賢明さも、ふたりの言葉を比較すればさらに浮き彫りになる。これは結果論になるが、1コーナーのミスでマルケスと離れてしまったことは、フォルガーにとって冷静さを取り戻すよいきっかけになったのかもしれない。

 開催国出身ライダーの活躍は、地元ファンを喜ばせる。それはもちろんだが、彼らの喜びと興奮は第三者にも好感を与える。その意味では、第9戦の主役のひとりは、間違いなくヨナス・フォルガーだった。

 そして、本来の主役級たちの位置取りは、冒頭に述べたとおりマルケスがランキング首位に浮上。5点差でマーベリック・ビニャーレス(モビスター・ヤマハ MotoGP)、その1点背後にアンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ・チーム)、さらに4点開いてバレンティーノ・ロッシ(モビスター・ヤマハ MotoGP)が続き、その16点後方にペドロサと続く。マルケスからペドロサまでの差は26点。誰かが転倒ノーポイントを喫すれば、形成は一気に逆転する。

 シーズン前半の9戦を終えた彼ら5名のチャンピオン争いは、この”緊密な白紙状態”を維持したまま、8月上旬にふたたびゼロからスタートする。