シーズンの折り返しとなるJ1リーグ第17節。首位の柏レイソルと、消化試合数がひとつ少ないながら3位につける鹿島アントラーズの一戦は、両チームともにその順位に違(たが)わぬ質の高いサッカーを見せつけた。ホームで敗戦し、サポーターに頭を下…

 シーズンの折り返しとなるJ1リーグ第17節。首位の柏レイソルと、消化試合数がひとつ少ないながら3位につける鹿島アントラーズの一戦は、両チームともにその順位に違(たが)わぬ質の高いサッカーを見せつけた。


ホームで敗戦し、サポーターに頭を下げる若きレイソル選手たち

 前半、主導権を握ったのは柏のほうだった。持ち前のハイプレスで鹿島のパスの出どころを抑えると、ボールを奪えば両サイドのスピードを生かした攻撃で鹿島陣内に攻め入る。

 とりわけ際立ったのは、球際の攻防だ。前線ではFWクリスティアーノが身体を張ってボールをキープし、後方ではDF中山雄太とDF中谷進之介の若いセンターバックコンビが相手2トップのFW金崎夢生とFWペドロ・ジュニオールに仕事をさせなかった。

 また、ボランチのMF手塚康平の攻守にわたる貢献度も絶大で、最終ライン手前でピンチの芽を摘み、正確なパスで攻撃のリズムを生み出していく。24分に生まれたMF大谷秀和の先制ゴールも、センターライン付近でボールを動かしながら隙を探る手塚の巧みなパスワークがきっかけとなっていた。

 自信と勢いが備わる若きチームが王者を苦しめる構図は、現状打破を望み、常に新しいものを求める人間の深層心理を大いに刺激した。

 もっとも、新勢力が体制を打ち破るのが容易でないことは、これまでの歴史が証明している。それは、サッカーの世界でも変わらない。伝統の勝負強さを備え持つ老獪な王者は、押し込まれながらも次第に主導権を掌握し、勇敢な挑戦者を瀬戸際で退けてみせた。

 流れを変えたのは、個の力だった。1点ビハインドで迎えた53分、ここまで相手のマークに苦しんでいた金崎が左サイドでボールを受けると、中に切れ込んで豪快に右足を振り抜く。強烈な一撃はコースこそ甘かったものの、日本代表にまで上り詰めた若き守護神GK中村航輔の手をすり抜けてゴールに突き刺さった。

 さらにその3分後には、MF永木亮太の「狙ったわけではない」フリーキックが絶妙なコースに飛び、幸運な形で逆転に成功。すぐさまクリスティアーノに同点ゴールを奪われるも、72分に今度はペドロ・ジュニオールが圧巻の個人技からゴールを突き刺してふたたび勝ち越すと、その後は粘り強く対応しながらしたたかに時間を使って、3-2と逃げ切った。

 これで鹿島は、大岩剛監督が就任して以降、4連勝を達成。序盤戦は苦しんだ昨季のリーグ王者が、ようやく本領を発揮してきた印象だ。

「(前半に)1失点しましたけど、ヤバいなという感じはなかった。(ハーフタイムに)監督も『失点以外は問題なかった。これを続けていけば必ず逆転できる』と言ってくれたし、それを信じた結果。この勝利はかなり大きいと思います」

 そう振り返ったのは、日本代表センターバックのDF昌子源だ。とりわけ、逆転直後に追いつかれながら再度突き放した展開に、この勝利の価値を見出していた。

「また流れがレイソルに戻ったところで、強引にでも引き寄せられた。今日はペドロの個人技でしたけど、勢いをこっちに持ってこられたのはデカかったかなと思います」

 昌子が言うように”強引”ではあったが、力づくでも流れを引き寄せられたのは、確かな個の力があればこそ。昌子は、監督交代によりチーム内に競争心が生まれたことが、選手個々を刺激しているという。

「(前監督の)石井さんのときに試合に出られなかったアツ(MF中村充孝)は、剛さんになってから使われて出して結果を残している。逆に(MF土居)聖真なんかはスタメンを外れて思うところもあると思う。今日も(DF三竿)健斗がセンターバックとして出たけど、僕もそうだし、ナオ(DF植田直通)もすごく刺激を受けていると思う」

 大型補強を敢行しながら、リーグ戦でも勝ち切れない試合が目立ち、ACLでもラウンド16で敗退。どこか停滞感が漂うなか、監督交代を契機にふたたびチームが活性化した。鹿島のこの現象を見ると、チームとはつくづく生き物であると感じる。新監督の手腕もさることながら、確かな決断を下せるクラブの慧眼(けいがん)が常勝軍団を支えているのだろう。それも含めて鹿島の伝統であり、その強さを改めて感じられた一戦だった。

 一方、敗れた柏も、悲観すべき試合ではなかった。

「鹿島アントラーズというクラブの底力を改めて感じました。もちろん選手の個の能力の高さもありますし、ファウルのもらい方ひとつにしても、まだまだ上のチームだなと感じるシーンが随所にあった」

 下平隆宏監督がそう振り返ったように、両者の間にはスコア以上の力の差が存在していたのかもしれない。

 それでも、柏はチームとして敗れたわけではなかった。失点シーンはいずれも相手の個の力が上回ったもの。守備が大きく破綻したわけではなく、鹿島の守備組織を崩す有機的な攻撃も実現していた。

 修正すべきは、やはり個の部分。金崎のシュートはたしかに素晴らしかったが、コースを考えれば中村が防げる可能性もあった。そのショックが癒えないまま、中村は平常心を失っていたのかもしれない。永木のフリーキックによるゴールは風の影響を受けた不運な部分もあったが、ポジショニングの悪さが招いた明らかなミスだった。

 一方で、金崎のゴールも、ペドロ・ジュニオールのゴールも、時計の針を巻き戻せば、サイドに釣り出された中谷がかわされたところから生まれている。ここまでの快進撃を支えてきた若いふたりにとっては、力量不足を突きつけられるようなショッキングな結果となっただろう。

「今日のプレーをしっかり反省すること。自信になっていた部分を、やり直さなければいけないと思います」

 試合後、中谷は気丈に前を向いていた。柏にとってはそれに気づけたことが、なによりの収穫だろう。この悔しさをどう生かすかは、彼ら次第である。新しい歴史は、いつだって反逆心から生まれるものだ。この敗戦は、柏にとっての大きなターニングポイントになるかもしれない。