4月20日、Wリーグに所属するアイシン ウィングスが公式のホームページやSNSにて吉田亜沙美の入団を発表した。吉田は、長きに…

 4月20日、Wリーグに所属するアイシン ウィングスが公式のホームページやSNSにて吉田亜沙美の入団を発表した。吉田は、長きにわたり、常勝軍団のENEOSを引っ張り、リオデジャネイロ・オリンピックでは女子日本代表のキャプテンとして、また司令塔としてチームを引っ張った名プレーヤー。

 前編のインタビューでは、復帰への経緯や決断に至った思い、またチームメートに伝えたいことなどに触れたが、後編では、アイシンでの自身のパフォーマンスや、プレーヤーとしてのその先の思いをお届けする。

取材・文=田島早苗

吉田亜沙美インタビュー前編はコチラ

現実を受け止める覚悟を持って現役復帰


——チームメートに何かを伝えるだけではなく、選手である以上、自身のプレーでのパフォーマンスも追い求めないといけないですよね。

吉田 きっとプレー面で追いつかない部分もたくさんあるし、無様な姿になると思うけれど、それでも言葉で伝えていきながら、限られたプレータイムの中で、自分の役割をコートに残すというところは伝えていけるのではないかなと思っています。

 プレーになればなったで、考えるというよりは体が反応して動けるとは思うので、そこは心配していないですね。とはいえ、できることとできないことがあると思うので、そこはこれからの自分の課題になってくると思います。頑張る所などを見分けながらプレーしていく。頭を使うことが今回の復帰はキーになりますよね。日本のレベルも上がっていて、そこに対応しなくてはいけないので、考えながらやっていきたいです。

ーーもともとIQの高い選手。メリハリを付けたり、力の配分といったようなところは若いときから上手だったように感じます。

吉田 そうですね。ただ、周りからは『楽しみです』と言ってもらえるのはすごくありがたいのですが、無理だよ、求めないでって思うところもありますよ(笑)。期待にそぐわなかったときに申し訳ないなという考えは出てしまいますよね…。でも、今はもう、これが私のベストのパフォーマンスなんだというのを受け入れてもらえればいいかなとは思っています。

——とはいえ、吉田選手のことですから、気がついたらダブルクラッチとかやってそうですけどね(笑)。

吉田 いやいや(笑)。そういうのはもう、やらないです。危ないから。

——無様な姿をと言っていましたが、吉田亜沙美において“無様”なんてことはないのではないかと思ってしまいますが。

吉田 もちろん、リーグが始まる前までにはベストパフォーマンスに持っていきたいという思いはあります。中途半端は嫌いなので、そこは完璧を目指してやっていきたいですが、まあ、私も未知なので、3年は。そこまでバスケットをやらなかった人生がなかったので、どういう自分、バスケットスタイルになるか、どこまで動けるのだろうというのは、不安と楽しみとが入り混ざっているような感じですね。

——現在のコンディションは?

吉田 本当に筋力ゼロだったので、まずはベースの筋肉作りからしていて、一歩一歩ですが、クリアになってきているというか。今はできないことはないので、順調に進んでいるのかなと思います。

 (以前に靭帯断裂という大ケガを負った)ヒザも、そんなに大きくは問題はなさそうなので、そこは良かったかなと、ホッとしています。これから、本格的にバスケットの動きをしたときにどうなるかというのはあるので、あまり無理はしたくないけれど、慎重すぎても良くないので、やりながらできる動きとできない動きはスタッフと相談して進めていきたいですね。

——今は個人のトレーニングを中心に活動しているのですね。

吉田 はい。最初は3ポイントシュートも届かなかったし、ボールもあっち行ったりこっち行ったりして、「大丈夫?」という感じでした。レイアップシュートさえも普通にできなくて、「こんなにできないんだ、私」みたいな。なんかショックというよりかは、おもしろかったですね。

 やっぱり忘れちゃうんだなとは思いましたね。最初、3ポイントシュートを打とうとしてジャンプしたときに、飛んでいるのか飛んでいないのか分からないぐらいの体の重さがあって。それがすごく衝撃だったのですが、今は少しずつ取り戻しているので、新しいことを始めて習得していくのが楽しいという感覚ですね。

背番号「18」を選んだの理由


——話は変わって、Wリーグでマッチアップしたい、対戦が楽しみな選手はいますか?

吉田 うーん、誰だろう。ポイントガードになってくるから…。宮崎早織(ENEOS)とのマッチアップは楽しみかなぁ。同じチームではやっていたので新鮮さはないけれど、違うチームで、違うユニフォームを着てマッチアップするのは楽しみだなとは思いますね。あとは、東京医療保健大で教えていた子たちもいるので、例えばデンソーアイリスだったら(木村)亜美とか。彼女とのマッチアップも楽しそうですね。

——背番号は何番に?

吉田 18番です。

——その理由は何ですか?

吉田 (ENEOS時代に付けていた)12番はもう埋まっていたのですが、そもそも『12』にした理由が、姉が大学生で初めて試合に出たときの背番号が6番。私は姉より努力をしないといけないということから、6という数字を倍にした12を付けていました。私は12番で頑張ってきたので、ここからまた新しいチャレンジが始まるとなったときに、12と6を足して18。これで行こうと決めました。姉が6番をつけていた想いと、自分が12番をつけ続けてきた想いと。それに、父と母がバスケットをしていたころ、お互いに9番つけていたので、足したら18なので、家族にちなんだ18を選びました。

 一度、ENEOSでもつけたことのある0番にしようかとも思ったのですが、ENEOSとは別のチームに行くし、新しい自分を見てもらいたかったので、全部新しくしようと思ったことも理由にあります。12番の印象が強くあると思うのですが、これからは18番が吉田亜沙美だと思ってもらえるように。青いユニフォームも着たことないので、まずは似合うように、見慣れてもらうように。それには、たくさん試合に出ないとですね。

——ある意味、吉田亜沙美といえどもポジションが確約されているわけではないと思うので、これからチーム内のサバイバルに挑むわけですね。

吉田 それも新鮮で楽しみだし、私はスタートで出たいとは思っていないので、リズムが崩れたときに出て立て直すといったような、(他のポイントガードとは)また違うポイントガードの役割ができれば良いかなと思っています。酒井彩等らが先に試合出ると思いますが、彼女たちを少しでも休ませてあげられるようにしたいですね。

——様々な経験をしてきた吉田選手ですが、今回の復帰で、プレーヤーとしては何を求めるのか、プレーの中で何に喜びを感じたいと考えていますか?

吉田 やっぱり試合に出ること。ユニフォームを着て、あのコートでバスケットしたいというのはすごく強く思っているし、それがまた楽しいだろうなとも思っています。その先で、自分が求めるものは変わっていくと思っていて、『もっと試合に出たい』と思うかもしれないし、『違う挑戦をしてみたい』とも思うかもしれない。ただ今は、早く復帰できるように、コートに立ってプレーできるようにというのがモチベーションで、とにかくセカンドキャリアとかを考えずに、今できることを全うして、目の前のことを一つずつクリアにしていきたいと思っています。

——いろいろと取り組んでいく中でプレーヤーとして求めていくことは変わっていくと。

吉田 変わっていくと思います。もちろんチームが優勝をすることやそれに貢献していきたいという思いが強くあります。それに加えて、来年にパリ・オリンピックがあるけれど、どうするのというところもですよね。これは自分だけで解決することではないですが、まずは試合に出てアピールしなくてはいけないし、アイシンで試合に出ることプラス、オリンピックを目指して行くかどうかを踏まえて、そこはもう、復帰に向けてやっていきながら、アイシンで練習をしていきながら、それに自分の体の状況やコンディションを見ながら変わっていくのかなと思います。

——最後にファンに向けてメッセージをお願いします。

吉田 まずは、アイシンのファンの方に受け入れてもらえるように頑張っていきたいというのと、ファミリーの一員として、チームに良い影響を与えられるようにしたいと思っています。

 ここ最近、ファンの方々の熱さというのは本当にすさまじいものがあると思うのですが、それは絶対に選手の力になっていると思うし、モチベーションにもつながっていると思います。見ていて楽しいバスケットをアイシンはできると思うので、どんどんアイシンのファンを増やしていければ。私もプレーを多く見てもらえるように頑張りたいと思っているので、会場に足を運んでほしいですし、ENEOS時代からファンだった方も今度はアイシンファンになっていただいて(笑)。会場を多くのファンで埋め尽くしたいと思っていますので、応援よろしくお願いします。


【インタビューを終えて】

 10代の頃から練習が大好きでバスケットに対してストイックな吉田。3年ぶりの本格的な練習はハードだと苦笑いするが、その精悍な顔つきや締まった体つきを見れば、短い期間でどれだけのトレーニングを行ってきたかが想像つく。そして何より、バスケットと向き合っている時間が充実しているのであろう。楽しげにバスケットのことを話す様子は、高校時代の彼女と重ねてしまうほど。

 悩み抜いて決断した現役復帰。彼女はまた、“吉田亜沙美”にしか通ることのできない道を歩き出したのだ。個人的には、これまでも多くの人を魅了してきたあのプレーを再び見られるのかと思うと楽しみでならない。それと同時に、彼女の新たな挑戦が素敵な旅であることを願ってやまない。(田島早苗)