スペイン・バルセロナで開催されている「バルセロナ・オープン・バンコサバデル」(ATP500/4月18~24日/賞金総額 215万2690ユーロ/クレーコート)は23日に準決勝が行われるが、大会3連覇を目指す第2シードの錦織圭(日清食品)…

 スペイン・バルセロナで開催されている「バルセロナ・オープン・バンコサバデル」(ATP500/4月18~24日/賞金総額 215万2690ユーロ/クレーコート)は23日に準決勝が行われるが、大会3連覇を目指す第2シードの錦織圭(日清食品)は第6シードのブノワ・ペール(フランス)と対戦する。ペールの世界ランキングは現在22位。ランキングでいえば6位の錦織のほうが上だが、ペールは昨年錦織と対戦し、全米オープン1回戦と楽天ジャパンオープン準決勝で2連勝している。つまり錦織にとってやや“相性がよくない”選手だ。  錦織本人が言った通り、サービスとバックハンド、そしてドロップショットなどの繊細なタッチを生かしたテクニカルなショットが武器のペールは、頻繁にネットもとり、強打もすればソフトにも打つ。リズムに変化をつけてくるので、おそらく対戦相手にとって一定のリズムでプレーしにくい選手なのだ。その一方でパフォーマンスにムラがあり、いいときと悪いときの波も激しい。実際、今大会準々決勝でのペールは、世界76位のマレク・ジャジリ(チュニジア)にセットを先行され、危うく負けそうになりながら逆転勝ちに成功している。  ペールとは何者なのか? フランスでも変わり者とされている彼は『ダイヤの原石』と呼ばれることもあれば、そのテニスにふたつのまったく違う顔を持つことから、『ジキルとハイド』などとも呼ばれている。また、エルネスツ・グルビス(ラトビア/現在83位、最高位10位)と比較されることも多い彼だが、それはふたりが痩せ型の長身だから、という理由からだけではない。かつてテニス界の“遊び人”とされたマラト・サフィン(ロシア)をアイドルと仰いでいることや、私生活での鍛錬がなっていないことからも同類とみられているようなのだ。  ペールは幼いときは強かったが、15、16歳になるとその気性の不安定さから道を見失った。 「当時は試合のたびに癇癪を起こして、持っているラケットを全部壊していたよ」とペール。「練習にも行かなくなり、滅茶苦茶やっていた。サッカーも好きだったんだが、テニスで勝てなくなって余計にサッカーが恋しくなった」。

 もちろん、26歳となった今はそんな過去もただの過去となり、一人前のプロとなったわけが、その後も、変わり者という呼び名は完全には消えず。今時のアスリートには珍しく、ペールはファーストフードが好きで、試合中にソーダなどを飲むことでも知られていた。何を食べてもまったく太らないので別に問題ではないと弁明していたようだが、最近はその辺りも彼の弱点とされる、弱々しいフォアハンドとともに改善されつつあるという。  モンテカルロ・オープンではアンディ・マレーと対戦し、6-2 5-7 5-7で逆転負けし、もう一歩のところで大アップセットを逃した。つまり、大きな潜在能力を持った選手であることは確かである。とはいえ、傾向とは単なる物差しだ。定期的に大物食いをしている選手ではないだけに、冷静な目で見れば錦織が彼に勝てない理由はどこにも見当たらないのである。

(テニスマガジン/ライター◎木村かや子、構成◎編集部)