●早稲田は好循環の真っ只中 今年に入って、大学駅伝界で早稲田の存在感がじわじわと増してきている。「5位という目標は達成できなかったんですけど、チームとしては100%出しきれた駅伝だったのかなと思います」 今季の駅伝主将を務める菖蒲敦司(4年…

●早稲田は好循環の真っ只中

 今年に入って、大学駅伝界で早稲田の存在感がじわじわと増してきている。

「5位という目標は達成できなかったんですけど、チームとしては100%出しきれた駅伝だったのかなと思います」

 今季の駅伝主将を務める菖蒲敦司(4年)は、6位に入った今年の箱根駅伝をこう振り返る。



駅伝主将の菖蒲敦司は関東インカレ3000m障害で3連覇。背中でチームを引っ張る

 2022年は13位に終わり10位までに与えられるシード権を逃したが、わずか1年でシード校に返り咲いた。そして何よりも、個々がきっちり力を出しきれたことが大きな収穫だった。

「最近は自信を持ってレースに挑めていて、それが結果につながっていると思います」と話すのは、主力のひとり、2年の山口智規。

 昨年から指揮をとる花田勝彦駅伝監督が掲げるチームテーマ「1=1」は、練習で培った力を試合で発揮することを意味するが、その確度が高くなるほど、選手たちは自信を深めてきた。そして、チームは好循環の真っ只中にある。

 今年の箱根駅伝後の早大の主なレース結果を振り返ってみよう。

●2023年の主なレース結果

<2月5日 香川丸亀国際ハーフマラソン>

伊藤大志(現3年)1時間1分50秒(17位)自己新 

菖蒲敦司(現4年)1時間2分00秒(20位)自己新

 このレースでは、伊藤が、東京五輪男子マラソン6位入賞の大迫傑(Nike)が持つ早稲田記録まであと3秒に迫った。スタミナ面の課題を指摘されていた菖蒲も、箱根に続いて、ロードの長い距離で結果を残した。

<2月12日 延岡西日本マラソン>

佐藤航希(現4年) 2時間11分13秒(優勝)

 スタミナに定評のある佐藤が地元・宮崎で初マラソンに挑み、実業団勢をも破って優勝を果たした。

<2月19日 青梅マラソン>

伊福陽太(現3年) 1時間33分05秒(6位)

 スポーツ推薦ではない、いわゆる"一般組"の伊福が学生トップの6位に入った。

<3月25日 TOKOROZAWAゲームズSpring 2023>

3000m 山口智規(現2年) 7分57秒68 自己新

 悪天候のなか、オリンピアンの三浦龍司(順天堂大現4年)や注目のルーキーの吉岡大翔(順天堂大現1年)、留学生のヴィクター・キムタイ(城西大現2年)といった有力選手に競り勝ち、山口が組1着を獲得した。

<4月2日 東京六大学対校>

1500m 間瀬田純平(2年)3分43秒83(優勝) 

5000m 石塚陽士(3年)13分46秒31(優勝)自己新 

3000m障害 菖蒲 8分47秒38(優勝)
 
3000m障害 諸冨湧(3年)8分55秒37(2位)

 箱根駅伝常連の法大や明大、勢いのある立教大の主力選手も出場したなか、1500m以上の距離の種目全てで優勝を勝ち取った。オープン種目でも自己記録が続出した。



安定感抜群の石塚陽士は、東京六大学対校の5000mを制するなど勝負強さも備える。10000mでは27分台に突入

<4月8日 金栗記念選抜陸上>

5000m 山口 13分34秒95 自己新 

5000m 伊藤 13分36秒11

 山口は、3月11日の香港陸上シリーズ第2戦1500m、3月25日の3000mに続き、自己ベストをマーク。また、山口、伊藤ともに、学生トップクラスの石原翔太郎(東海大)や吉居大和(中央大)に先着。山口は、トラックシーズンを迎えて、この試合まで学生相手に負けなし。

<4月21〜23日 日本学生陸上競技個人選手権大会>

5000m 伊藤 14分3秒41(3位) 

3000m障害 菖蒲 8分38秒94(優勝)大会新

 菖蒲が3000m障害で連覇を果たし、今夏、中国・成都で開催されるFISUワールドユニバーシティーゲームズの日本代表に選出された。

<4月22〜23日体大長距離競技会 兼 NITTAIDAI Challenge Games>

10000m 石塚 27分58秒53 自己新 

10000m 工藤慎作(1年)28分31秒87 自己新

5000m 山﨑一吹(1年)13分50秒40 自己新 

5000m 間瀬田 13分55秒83 自己新

 石塚が10000mで学生トップランナーの証とされる27分台に突入。また、ルーキーの工藤や山崎をはじめ、多くの選手が自己新記録をとなる好タイムをマーク。

<5月4日 ゴールデンゲームズinのべおか>

5000m 石塚 13分43秒89 自己新 

 石塚は積極的にレースを進めて、1カ月前に樹立した自己ベストを再び更新。

<5月11〜14日 関東学生陸上競技対校選手権大会(関東インカレ)>

1500m 柳本匡哉(4年)3分49秒68(7位) 

5000m 山口 13分47秒98(3位) 

5000m 伊藤 13分49秒11(5位)

10000m 石塚 28分26秒83(3位) 

10000m 工藤 28分35秒76(6位) 

3000m障害 菖蒲 8分44秒08(優勝)3連覇 

3000m障害 諸冨 8分51秒92(6位)

 菖蒲が3000m障害で3連覇を飾り、長距離のメイン種目である5000mと10000mで表彰台とダブル入賞を果たした。



3年生となり一皮剥けた活躍を見せる伊藤大志。関東インカレの5000mでは積極的なレースを見せた

<5月21日 セイコーゴールデングランプリ陸上>

3000m障害 菖蒲 8分31秒92(6位)自己新

 菖蒲が国際大会で6位入賞と健闘。タイムも日本人学生歴代8位、早稲田新記録となる好記録だった。

●駒澤の選手と「勝負」できるように

 ここまでの戦いぶりを見ると、石塚、伊藤、山口が他校のエース格と互角の戦いを見せ、駅伝主将の菖蒲も結果を示し、チームを鼓舞し続けている。

 新戦力では、ルーキーの工藤と山崎が即戦力として高いパフォーマンスを発揮。また、間瀬田、佐藤、柳本、諸冨は、それぞれの得意種目で結果を残している。

 さらに、伊福、菅野雄太(3年)といった一般組の活躍が、チームをいっそう活気づけている。

「スポーツ推薦で入ってきたメンバーも真面目ですが、それ以上に練習に対しても、私生活でも一般組がすごく真面目に取り組んでいる。一般組の意識が相乗効果をもたらし、チームにいい影響を与えている」と、山口も彼らの活躍に刺激を受けている様子だ。



山口智規は今年の箱根駅伝は胃腸炎で不出場だったが、今季はトラックを中心に快進撃を続ける

 箱根駅伝の6区で好走した北村光(4年)が出遅れているものの、彼が戦線に復帰すれば、さらに強力な布陣を築けそうだ。

「当初、箱根駅伝で5番以内っていう目標を掲げたんですけど、その目標を立てた時に『3番以内が目標』って上方修正できたらいいねっていう話をしていたんです。現時点で、本当に3番を狙えるんじゃないかって思っています。でも、3番と言わず、駅伝シーズンの前には『目標は優勝』って言えるように、いいサプライズができたらなと思っています」

 3連覇を成し遂げた関東インカレのレースのあと、菖蒲はこんな言葉を口にしていたが、その言葉には確かな実感がこもっていた。それほど、今、早稲田は勢いづいている。

 しかしながら、昨年度史上5校目の大学駅伝三冠を成し遂げた駒澤大は、大エースの田澤廉(現トヨタ自動車)が卒業しても、圧倒的な戦力を誇り、早大をも上回る勢いがある。

「まずは僕らが駒澤の選手と勝負できるようにならないといけない」と山口が言うように、エンジのエースたちが、鈴木芽吹、篠原倖太朗といった駒澤大の選手たちを打ち負かす力をつけてこそ、駅伝での頂点も見えてくるだろう。

 今年2〜3月に行なった駅伝強化を目的としたクラウドファウンディングでは2000万円を超える寄付金が集まった。それを元手に、9月には主力選手らが海外遠征を行なう予定だという。

 名門復活を期す早稲田は、まだまだ進化の途中。打倒・駒澤の一番手へ、ひと夏を越えてどんな変貌を遂げるのか。今季の早稲田からは目が離せない。