7月1日よりエジプトのカイロでバスケットボールの男子U19(19歳以下)ワールドカップが開催される。昨年のアジア選手権で準優勝となって出場権を得た日本は、この世代では歴代最強ともいえる個性あふれるメンバーを揃え、昨年10月から月1回の…

 7月1日よりエジプトのカイロでバスケットボールの男子U19(19歳以下)ワールドカップが開催される。昨年のアジア選手権で準優勝となって出場権を得た日本は、この世代では歴代最強ともいえる個性あふれるメンバーを揃え、昨年10月から月1回の合宿をこなして準備を進めてきた。期待がかかる今大会と日本代表のチーム事情を紹介する。


18年ぶりにワールドカップに出場するU19のメンバー。注目は八村塁の活躍(後列左から3人目)

 日本の出場はなんと18年ぶり。18年前といえば1999年、田臥勇太(現 栃木ブレックス)を擁して出場して以来となる。1998年にはフル代表が31年ぶりに世界選手権(現ワールドカップ)に出場を果たしているが、この1998~1999年を境に、日本はフル代表も、アンダーカテゴリーも世界の舞台に出場することが難しくなっている。

 2002年には、これまた田臥世代がヤングメン世界選手権(U21ワールドカップ、現在は廃止)に出場し、2006年にはフル代表が世界選手権(現ワールドカップ)に出ているが、どちらも自国開催のホスト国としての参戦だった。近年、日本がアジアを勝ち抜いて世界レベルに進出したのは、3年前の2014年に出場したU17世界選手権と、フル代表が昨年出場したオリンピック世界最終予選のみ。日本がどれだけ長い間アジアの壁を越えられず、世界から取り残されていたかがわかるだろう。

 自力で世界への扉を開けた今大会は、強豪相手にどこまで対抗できるかチャレンジすると同時に、育成年代が世界を肌で感じられる重要な大会となる。さらには、その戦いをインターネット中継や有料放送を通じて多くの人たちが目にすることで、世界における日本の立ち位置を知ってもらい、今後の支援につなげることもできる。ただの勝ち負けだけでは終わらない役割と財産が、18年ぶりとなるこの大会にはあるのだ。

 ただ、19歳以下といっても、そう簡単に勝たせてはもらえない。

「海外で19歳と言えば、すでにプロリーグで活躍している年代で、NCAAでプレーするNBA予備軍も多い。日本選手はそのフィジカルの強さやゲームプランの巧みさのギャップに最初は驚くかもしれないが、慣れなくてはならない」と状況を説明するのは、チームを率いるドイツ人ヘッドコーチのトーステン・ロイブル氏だ。トップレベルとのギャップは実際に対戦してみなければわからないもので、大人になればなるほど、差は開いていく。だからこそ、若い世代から世界に出て、知ることが大切なのである。それだけに、今大会に向けては早くから準備を進めてきたのだ。

 チームの特徴はボールを全員でシェアして連動し、どこからでも攻め込み、何よりディフェンスのアグレッシブさと走力を武器に一体感で戦うスタイルだ。司令塔の伊藤領(180cm/開志国際高3年/G)とセンターの三森啓右(198cm/筑波大1年/C)をケガで欠いたことは残念だが、10月から半年以上かけたセレクションによって、チームは一回り成長している。

 そして、大会直前に八村塁という最高の逸材が加わった。明成高でウインターカップ3連覇をしたのち、アメリカ・ゴンザガ大では日本人初となるNCAAトーナメントファイナルに進出した選手だ。

 八村はゴンザガ大で十分なプレータイムを得られたわけではなく、本人も約1年半もフルゲームから遠ざかっていたことを心配していたが、それでも合流してすぐにエースとして力を発揮できるあたりは、さすがに高いレベルで揉まれてきただけのことはある。特筆すべきは、ゴンザガでは短いプレータイムゆえ、パワフルプレーでアピールしていたが、日本に戻れば状況に応じてパワフルかつ、しなやかなプレーで多彩な形のフィニッシュ力を見せていることだ。これまでの日本にはいなかった稀有な人材であり、ゴンザガでプレータイムを欲している八村にとっても、今大会はアピールするチャンスになるだろう。本人も「僕も日本もやれるところを見せたい」と意欲を燃やしている。

 日本の注目選手を紹介しよう。

 ディフェンス力を買われているキャプテンの三上侑希(184cm/中央大2年/G)と得点源の西田優大(188cm/東海大1年/F)は、ともにクイックリリースを武器とするサウスポーシューター。もう1人のシューター杉本天昇(185cm/日本大1年/F)は予測できないトリッキーなプレーで試合をかき回す存在になる。体の強さを発揮してミドルレンジから得点する増田啓介(191cm/筑波大2年/F)の働きも重要だ。
※ポジションの略称=G(ガード)、F(フォワード)、C(センター)

 また、このチームには日本の高校ルート以外で発掘された注目の人材がいる。203cmの恵まれた体躯で、ハッスルプレーを見せるシェーファー・アヴィ幸樹は、アメリカ人と日本人の両親を持つハーフ選手。サッカーから転向し、バスケ歴はまだ4年目。しかも、日本のU16代表が練習試合で対戦したインターナショナルスクール選抜チームにいた選手で、その場でロイブルHCに声をかけられ、将来性を見込まれてU18代表入りしたという異色の経歴を持つ。高校卒業後はアメリカのブリュースターアカデミーを経て、この秋からはNCAAディビジョン1のジョージア工科大に入学することが決まったのだから、その成長には驚くばかりだ。

 もう1人、日本協会が発掘したアメリカ人とのハーフ選手、榎本新作にも注目だ。アメリカのピマ・コミュニティ・カレッジに通う榎本はスピードあるドライブインと、長いリーチを生かしたディフェンスが武器のシューティングガード。杉本同様、意外性あるプレーで流れを変える存在になるだろう。

 これまでにない強化体制をつくり、個性的なメンバーが集結した今回のワールドカップには大きな注目が集まっているが、大会を目前に控えて大きな壁にもぶつかっている。直前に行なったドイツ遠征の2連戦で八村しか目立った得点源がなく、八村以外の選手がロイブルHCのいう世界レベルとの”ギャップ”に対応しきれていないのだ。だがこれは、通らなければならない道。これまでの数少ない世界との戦いから見ても、日本の場合はギャップ慣れすることこそが、いちばんの強化方法。いわば”ギャップを克服するためにワールドカップに出る”という目的を再度認識して大会に臨みたい。

 日本は初戦のスペインにチャレンジし、2戦目のマリ戦を勝利を挙げる最大のターゲットとしている。

「最終的な目標はベスト8だが、予選ラウンドと順位決定戦を含めた戦いで2勝し、日本もやれるというところを見せて世界を驚かせたい」とロイブルHCは抱負を語る。日本の18年ぶりのチャレンジは、7月1日、日本時間午後8時15分にティップオフを迎える。