卓球のパリ五輪代表選考会が全6回のうち4回を終えた。5月6~7日に開催された「全農CUP平塚大会」<トッケイセキュリティ平塚総合体育館>では男女各32人によるシングルスのトーナメント戦が行われ、男子は戸上隼輔(明治大学)、女子は早田ひな(日…

卓球のパリ五輪代表選考会が全6回のうち4回を終えた。

5月6~7日に開催された「全農CUP平塚大会」<トッケイセキュリティ平塚総合体育館>では男女各32人によるシングルスのトーナメント戦が行われ、男子は戸上隼輔(明治大学)、女子は早田ひな(日本生命)が優勝。

張本智和(智和企画)と張本美和(木下アカデミー)が男女それぞれで準優勝し、張本兄妹が選考会2位を占めた。

ナショナルチームの選手たちは9日から味の素ナショナルトレーニングセンターで「世界卓球2023南アフリカ」<20~28日/ダーバン>の事前合宿に入っており、12日には記者会見や壮行会が予定されるなど世界卓球モードにシフトしている。

世界卓球2023南アフリカ 日本代表記者会見 写真:長田洋平/アフロスポーツ

そんな中、心配されるのは怪我や故障を抱えた代表メンバーたちだ。

実際、男子シングルスおよびダブルス、混合ダブルスの3種目代表の篠塚大登(愛知工業大学)の棄権が11日に発表された。

篠塚は4月のWTT3連戦中に腰を痛めた影響で全農CUP平塚大会を途中棄権。1回戦が始まって早々に戦線離脱となり、パリ五輪代表選考ポイント2位から4位に後退した。

右肩上がりに成績を伸ばしていただけに悔しさがにじむ篠塚。「治りきらずに(試合を)やるよりも、しっかり治してからまた卓球に打ち込みたい。まずは治療を優先して次の大会に全力で臨みたい」と言い、世界卓球については「まずは準備をして、出れたとしても出れなかったとしてもちゃんと受け止めて.....卓球人生長いので」と話していたが、夢の大舞台を目の前に辛い選択を余儀なくされた。

篠塚の代替選手には宇田幸矢(明治大学)が発表された。新規選手の追加申請は3月末と規定されているため、男子ダブルスにエントリーしている宇田が起用された。

これで宇田は男子シングルとダブルス、混合ダブルスの3種目に出場することとなった。

全農CUP平塚大会では復調の兆しも見えてきた。

世界ランク20位で日本男子2番手にもかかわらず、国内選考会でなかなか勝てず低迷していた宇田。それが全農CUP平塚大会では5位に入り、代表選考ポイントも9位に浮上。

「課題としていたブロックやストップといった技術がしっかり使えるようになってきたことで、自分の得意なチキータだったりフォアハンドだったりを自信を持って振れるようになった」と話し、「世界卓球では男子ダブルスで金メダルを目指したい」と意気込んでいた。

伊藤美誠 写真:長田洋平/アフロスポーツ

女子シングルスおよびダブルス代表の伊藤美誠(スターツ)も腰から臀部にかけて痛みを抱え2回戦を戦い切るのが精一杯。

長﨑美柚(木下グループ)にゲームカウント2-4で敗れ、パリ五輪代表選考ポイントを4位から7位に落とした。

「怪我してまでというのは難しい。世界卓球もあるので」と語ると同時に、「怪我してまでも出なきゃならない大会がいっぱいあるので」と涙声の伊藤。

腰回りの痛みは今年1月の全日本選手権からあったといい、連戦続きで病院検査の時期を全農CUP平塚大会後まで延ばしてきたことを明かした。

代表選考ポイントで首位を独走する早田もぎりぎりのコンディションだ。

早田ひな 写真:長田洋平/アフロスポーツ

全農CUP平塚大会初日には2回戦で横井咲桜(ミキハウス)とフルゲームの死闘を演じ、最終ゲームは7-10から逆転勝利。

3回戦を勝った後で「今日の朝も感じたことのないくらい体調が悪くて、2回戦は吐き気がした」と衝撃の告白をし、「死にそうですけど、死んでなくてよかった」と苦笑いだった。

専属の石田大輔コーチも早田の状態について、「ほとんど(食事も)食べられなかった。それでも乗り越えられる(優勝できる)強さを持っているのは大したもの」と目を丸くした。

体調不良の声が相次ぐ一方、順調に調整を進めている選手もいる。その筆頭が男子は戸上、女子は平野美宇(木下グループ)。

全農CUP平塚大会で優勝しパリ五輪代表選考ポイント3位から2位に浮上した戸上は、首位の張本に目下3連勝中。

戸上隼輔 写真:長田洋平/アフロスポーツ

昨年11月に行われた第2回選考会の全農CUP TOP32福岡大会と今年1月の全日本選手権の決勝で勝っており、戸上は「自信を持って強い気持ちで臨める」と相性の良さを口にする。

だが何よりも頼もしいのはコンディションが万全なこと。

昨年から続けているウエイトトレーニングやジャンプトレーニングなどフィジカル強化の効果だといい、連戦を耐える体づくりや打球のパワーアップに成功している。

これに対し、やや疲労感のある張本は戸上について、「僕とやるときには不思議と全部フルスイングが入ってくる」と苦手意識を口にしたが、肝心の代表選考レースに関しては「(選考会で)決勝に進出していればオリンピックに出れると思う。代表権を取れればいいかなと思います」と落ち着いた様子。

平野美宇 写真:長田洋平/アフロスポーツ

平野も前回の選考会優勝から一転、5位にとどまったが、選考ポイントは3位から2位にアップし、心身の状態も良く充実の表情だ。

1回戦で中学生の小塩悠菜(星槎中学校)にあわやフルゲーム負けのピンチもあったが、最終ゲームは3-7から盛り返す底力を見せた。

準々決勝では驚くべきスピードで成長する張本美和にゲームカウント2-4で敗れはしたが、試合内容に目を向け、「全日本選手権後は(台から)下がって幅の大きいプレーをしたり、ブロックだったり、今まであまり練習してこなかったことに挑戦してきた。タイ(WTTスターコンテンダー バンコク)や今大会の初戦はそれが上手く使えなかったんですけど、2日目にしてどんどん良くなってきて、1試合ずつ成長を感じた」と自身を評価。

「この感覚をしっかり覚えたり、なぜ良かったかを分析して世界卓球に臨みたい」と目を輝かせた。

女子シングルスおよびダブルス代表の長﨑美柚(木下グループ)もコンディションは良くプレーも安定している。

今回の選考会も6位で終え、代表選考ポイントも6位をキープ。「練習の成果が出せた。結果以上の収穫を得ることができた」と言い、世界卓球本番に向けギアを上げていけそうだ。

木原美悠・長﨑美柚 写真:長田洋平/アフロスポーツ

その一方でややブレーキ気味なのが木原美悠(木下グループ)。

長﨑とペアを組む女子ダブルスに加え、女子シングルスと混合ダブルスでも代表になっているが、全農CUP平塚大会では2回戦で敗退し、選考ポイントは2位から3位に下がった。

「国際大会で1回戦負けが続いて、あまり自信のない自分がいる」と涙を流した木原。

勝敗にかかわらず、試合後は常に笑顔で前向きな彼女が涙を見せるのは珍しく、世界卓球本番までに気持ちを立て直せるかが鍵になりそうだ。

男子シングルス代表の吉村真晴(TEAM MAHARU)、及川瑞基(木下グループ)はいずれも選考会1回戦敗退に終わり、「(世界卓球に)フォーカスする。練習試合などで試合感覚を戻したい」(吉村)、「攻めるボールの判断と得点力をしっかり修正したい」(及川)と立て直しを誓った。


(文=高樹ミナ)