ゴールデンウィーク最後の週末、卓球界は4回目のパリ五輪代表選考会を迎える。全6回で行われる国内選考会、今回の舞台は「2023全農CUP平塚大会」(5月6~7日/トッケイセキュリティ平塚総合体育館)だ。今大会から選考ポイントが2倍になり、結果…

ゴールデンウィーク最後の週末、卓球界は4回目のパリ五輪代表選考会を迎える。

全6回で行われる国内選考会、今回の舞台は「2023全農CUP平塚大会」(5月6~7日/トッケイセキュリティ平塚総合体育館)だ。

今大会から選考ポイントが2倍になり、結果次第では男女とも大幅に順位が入れ替わる可能性もある。

男子の上位争いで勢いがあるのは、現在90ポイント獲得で8番手の田中佑汰(個人)。

タイミングの早いバックハンドを武器に両ハンド攻撃で畳みかける、気迫あふれるプレーが特長だ。守備も固くミスも少ない。

この攻守の安定感で、昨年11月に行われた第3回選考会の2022全農CUP TOP32船橋大会で準優勝。国際大会でも今年2月のWTTフィーダー デュッセルドルフII男子シングルスで優勝するなど波に乗る。

4月のWTTスターコンテンダー バンコクでも2回戦で東京2020五輪男子シングルス銅メダルのオフチャロフ(ドイツ)を相手に目の覚めるような好プレーを連発した。

プロツアーでは初の対戦。結果はフルゲーム(8-11/12-10/11-9/8-11/9-11)で敗れたものの、第1ゲームは0-9から6連続得点でオフチャロフに早々とタイムアウトを取らせ、最終の第5ゲームはマッチポイントを握られてから4連続得点で格上のオフチャロフを追い詰めた。

愛知工業大学の3年生だった2021年にドイツ・ブンデスリーガに参戦し、翌2022年はフランスリーグに拠点を移して海外経験を積んだ田中。

今年3月に大学を卒業し本格的にプロの道を歩み始めた注目の成長株に、「欲を言えば勝ち切りたかった」と話す激闘のオフチャロフ戦を振り返ってもらいながら、フランスリーグで培った経験と成長の秘密を聞いた。

格上オフチャロフに惜敗「次に繋がる負け方だった」


――WTTスターコンテンダー バンコクのオフチャロフ戦にはどんな対策をして臨みましたか?

多彩なサーブに対するレシーブと球質の高いボールにいかに対応するかがポイントでした。オフチャロフ選手とは僕がブンデスリーガ男子1部のバート・ホンブルク(現在は2部)でプレーした期間、練習拠点だったDTTZ(ドイツ卓球センター)で何度か一緒に練習させてもらって、最初の頃は球の質の高さにびっくりしました。

しゃがみ込みサーブの下回転もそれまで受けたことのない回転量で、何度ラケットの角度を合わせてもレシーブが落ちてネットになってしまって。ただそれも回数を重ねるごとにちょっとずつ慣れて、今回そのイメージがあったので、しゃがみ込みサーブに対してほとんどミスなく対処できました。


――第1ゲームの追い上げは凄まじかったですね。ゲームの出足、やはり緊張がありましたか?

緊張はなくて、むしろ球も合っていたんですけど、思った以上にボールが返ってくるなというのがあって、気づいたら0-9になっていました。でも、展開を変えてからは自分のペースになり始めて、6-9で相手がタイムアウトを取ったときは「やれるな」と自信を持てました。


――具体的に何を変えたのでしょう?

最初の方はバッククロスを多めに使っていたんですけど、お互いバックハンドが得意なのでバック対バックの展開になった。それは予想通りだったんですが、思った以上に相手に上手くやらせ過ぎてしまったので、コースをストレートに変えたら流れが変わりました。

――ゲームカウント2-1リードで迎えた第4ゲーム、少しレシーブミスが出ましたが?

相手がフォアサーブに変えてきて、やりにくさを感じました。バックサーブは頻繁に使ってくると分かっていたので、レシーブ練習を多めにやって準備していたんですけど。あのフォアサーブにもう少し上手く対応できていれば、4ゲーム目で仕留められたんじゃないかと思います。


――最終の第5ゲームは6-10からサーブ3球目攻撃やチキータレシーブを決め9-10まで行きました。

開き直りじゃないですけど、自分は負けているし相手は格上だし、思い切ってやろうって。最後のチキータは100パーセント待っていたレシーブだったのでミスになったのは残念でした。でも、自分のやろうとしていたことを実行できたので後悔はなかったですし、次に繋がる負け方だったなと手応えもあったし自信にもなりました。

フランスでは試合の練習前にティータイム!?


――今シーズンに入ってすぐWTTフィーダー デュッセルドルフIIの男子シングルスで優勝しました。

結果もそうですけど、優勝までの過程がすごく自信になりました。あの大会、日本人選手で出場していたのは僕と神巧也選手(ファースト)だけで、神選手は(1回戦敗退の後)すぐブンデスリーガの活動拠点のザールブリュッケンに戻られたので、そこから練習相手を見つけるのに苦労しました。

勝ち上がるに連れてどんどん選手が帰ってしまうので、残っている海外の選手に声をかけて練習相手になってもらうんです。試合ではベンチコーチも無しで勝ち上がれたのが自信になりました。


――やはりそこは海外リーグで鍛えられた部分?

そうですね。英語でコミニュケーションを取るのが苦じゃなくなりました。もちろんレベルはまだまだですけど、自分から積極的に喋れるようになったのは大きいと思います。英語でコミニュケーションできると練習の質も上がります。


――昨シーズンはブンデスリーガのバート・ホンブルクから、なぜフランスリーグプロA(1部)のシャルトルへ移ったのでしょう?

一番の理由は日本人選手がブンデスリーガに多く来ると聞いたからです。せっかく海外リーグにいるなら日本の選手同士で試合をするよりヨーロッパのトップクラスの選手とやりたいなって。フランスリーグも今年(2022-2023シーズン)はレベルが高いと聞いたのでフランスに拠点を変えました。


――フランスで苦労したことは何でしょう?

一番は食事ですね。基本、パスタ類とパンなので。僕、体重が増えにくい体質なので量を摂りたいんですけど、小麦粉を多く使った食事をたくさん食べるのが難しかったです。

向こうではチームのみんなとホテル暮らしで食事は近くのレストランへ行くかホテルで取るか、あとはチームが借りているハウスがあって、そこで選手4人で暮らして自炊もしました。修学旅行みたいで楽しかったです。


――習慣や文化の違いに戸惑ったりしませんでしたか?

ありましたね。試合前に毎回ティータイムがあって、みんなでコーヒーや紅茶を飲んでスイーツとかも食べて、ちょっとゆっくりしてから試合前の練習をするんです。僕としてはしっかり準備をして試合に臨もうという気持ちなのに(笑)。

フランスの人は時間にルーズというか、ゆったりとした時間の過ごし方をしますよね。そういう日本ではできない経験をいろいろして、自分の考え方の幅を広げられたなとプラスに思っています。


ベストな状態でなくてもベストに近づける準備を習得

――国際大会や国内選考会で試合数が多い中、コンディショニングは上手くいっていますか?

強化を含めメリハリのある生活を送れています。ただ2月のWTTスターコンテンダー ゴアのときはインドに入ったその日に肘が痛くなって。

これまで肘が痛いというのはあまりなかったんですけど、去年の9月以降、フランスリーグやWTTに出て、日本でも国体や全日学(全日本大学総合選手権)、パリ五輪代表選考会、年明けの全日本選手権などで連戦だったので、疲労から来ていたのかなと思います。さいわい痛みは快復して4月のWTTバンコクに入れました。


――タフな状況ではフィジカルだけでなくメンタル面も大事になってきますね。

その意味ではフランスリーグで鍛えられましたね。ほとんどの試合が夜7時スタートでドイツにいるときよりも疲労感があり、ベストなパフォーマンスができないこともあったけど、その中でベストな状態に近づける意識と作業で準備をしていました。それもフランスで経験できて良かったことの一つです。


――今シーズンの活動拠点は?

パリ五輪代表選考ポイントがあるのでTリーグでプレーする予定です。所属チームについては間もなく発表があると思います。あと日本リーグにも1部の日鉄物流ブレイザーズのゴールド選手として参戦させていただきます。


――今週末は平塚で選考会です。現在8番手ですが4番手以降のポイント差は僅差ですね。

しっかり準備していけば、さらに結果は上がっていくと思っています。平塚大会ではベストを尽くして頑張ります。


(インタビュー・文=高樹ミナ)


男子 2024年パリ五輪 日本代表選考ポイント

男子上位8名(2023年3月27日現在)
順位 選手名 合計ポイント
1位 張本智和 233.5P
2位 篠塚大登 159P
3位 戸上隼輔 150P
4位 及川瑞基 114.5P
5位 吉村真晴 108P
6位 曽根翔 95P
7位 吉山僚一 92P
8位 田中佑汰 90P