パ・リーグとの交流戦を10勝8敗(12球団中4位)で終えた阪神タイガース。金本監督2年目のシーズンは、首位広島カープに離されてはいるものの2位につけている。チーム防御率は3.10(6月27日現在)と12球団トップクラスの投手力を誇るが…

 パ・リーグとの交流戦を10勝8敗(12球団中4位)で終えた阪神タイガース。金本監督2年目のシーズンは、首位広島カープに離されてはいるものの2位につけている。チーム防御率は3.10(6月27日現在)と12球団トップクラスの投手力を誇るが、その中心にいるはずの藤浪晋太郎には不安が残る。

 WBCでは2次リーグ、準決勝で出番なし。今シーズンは7試合に登板し、3勝のみ。40回と3分の2を投げて、フォアボールは33個、デッドボールが3個ある。5月末には故障以外で初めての二軍落ち……どうすれば若きエースは復活できるのか? タイガースOBの藪恵壹氏に聞いてみた。


恵まれた体を持て余しているようにも見える藤浪晋太郎――4月4日のスワローズ戦で、5回を投げて9四死球。畠山和洋選手への死球から乱闘騒ぎが起きるなど、開幕から藤浪投手の

「異常事態」が続きました。

藪 藤浪晋太郎のどこが悪いのか。いろいろと取材してみると、どうやら右バッターに思い切って投げることができないようです。ボールが引っかかりすぎたり、抜けたり。
スワローズ戦で乱闘がありましたが、ああいうことがあると特に気になるでしょうね。

 本人は、自分でもコントロールがいいとは思っていないし、性格的に繊細なので、どうしても過敏になってしまう。しかし、私はあまり深刻にとらえていません。もし、キャッチャーが古田敦也さんや谷繁元信さんのように経験豊富ならば、荒れ球を有効活用していると思うから。リード次第ですが、「どこに投げるかわからない」というのは、バッターにとって嫌なものです。特に悪いところは見当たりませんし。

――大阪桐蔭高校を卒業してプロ1年に10勝(6敗)、2年目は11勝(8敗)、3年目には14勝(7敗)をマークしました。4年目の2016年こそ7勝(11敗)に終わりましたが、4年間の成績は田中将大投手(46勝)に匹敵するほどです。

藪 藤浪の過去の成績を見ると、年間の登板数の約半分は勝っています。もし15勝以上したいならば、33試合には登板しないと難しい。そうすれば、16勝、17勝が見えてくる。そうするためには、1試合の球数を減らして、中5日で投げられるようにしないといけない。フォアボールを少なくするのが彼の課題です。彼は勝ち運を持っているピッチャーなので、1年間通して投げられさえすれば、勝ち星は計算できるはずなんですが……。いまは、ボールの感覚を失っていて、それを探しているのではないでしょうか。

――WBCの影響もあるのでしょうか。

藪 昨シーズンのオフからずっと、WBC用のボールを使って練習していました。NPBのボールに戻っても、すぐに感覚が戻らないのは仕方ない。シーズン初めはかなり、軽く感じたのではないでしょうか。

――そのうちに感覚を取り戻せるのでしょうか。

藪 ピッチングフォームを修正したほうがいいという声もありますが、私は何も変えなくていいと思っています。もし右バッターが気になるようならば、プレートの一塁側を踏んで投げればいい。それだけで、ずいぶん景色が変わってくると思います。立ち位置を少しだけずらすことで意識が変わるのではないでしょうか。私も右バッターに近いサイドに立ちすぎて、ぶつけてしまうことがありました。

 大切なのは、いいボールを投げたときのフォームでいつでも投げられるようにすること。右バッターでも左バッターでも関係ありません。もし「また当ててしまうんじゃないか」と思うとしたら、それはバッターを見てしまうから。キャッチャーミットだけを見ればいい。タイガース時代に私は、監督の野村克也さんに「的当てでいいんだよ」とよく言われました。「キャッチャーミットだけを見て投げろ。その間にバッターがいるだけだから」と。でも、どうしても意識しちゃうんでしょうね。

――藤浪投手にとって、プロ野球選手になって初めてぶつかる壁かもしれません。

藪 選手登録では197センチ、89キロとありますが、身長も伸び、体重も増えています。体の変化がピッチングに何らかの影響を及ぼしているのかもしれません。

 いまの状況は、コントロールをよくすることについて考える時間ができたと受け止めればいい。今後の投球術について考えるのには、いい時間だと思います。不調になったときは、まわりからいろいろなことをアドバイスされます。自分が聞きたいと思ったことは聞けばいいし、変えようと思ったところは変えればいい。納得できるかどうか、その見極めが大事です。藤浪がプロ1年目から結果を残すことができたのは、自分が正しいと思うことをやってきたから。そこはブレずにやってほしい。

――「イップスではないか」という人もいます。

藪 そうですね。でも、その点で投球よりも気になるのは、短い距離の送球です。あれだけ長い手足をうまく使っているし、器用なほうだとは思いますが、バント処理に不安があるのは事実ですね。足攻めの得意なカープはわざと藤浪に捕らせるようなバントを多用しています。投球以外の不安な要素をなくさないと、自信を持ってマウンドに上がることはできません。これも今後の課題でしょうね。

 藤浪は、これまでは自分の才能で勝つことができた。でも、ずっとそのままで生き残っていくことは難しい。「どうすればいいボールが投げられるか」を、とことん考えてほしい。60センチほどのプレートをどう使うのか、どうしてマウンドが高くなっているのか。そういうことを突き詰めて考える貴重な時間ですね。壁にぶつかったことを良しとして、考え方や鍛え方を見直せば、もうひとまわり大きな藤浪晋太郎が見られるんじゃないでしょうか。

 昔に戻る必要はありません。ツーシームもカットボールもありますが、160キロのフォーシームを磨いてほしい。原点に戻ることが大事です。

――タイガースは今シーズン、ここまで2位。投手陣は12球団でもトップクラスの防御率を誇っていますが、藤浪投手抜きで戦い抜くことはできますか。

藪 いや、藤浪の力がなければ、絶対に優勝することはできません。オールスターゲーム明けに戻ってきてくれればいい。タイガースの浮沈は彼の後半戦の頑張りにかかっています。

 いまはとにかく、体と心の変化に対応する時期。メンタルはズタズタになっているでしょうが、悩む必要はありません。なるべくシンプルに考えてほしい。大切なのは「ジャストスロー」――投げることだけに集中することです。