今季限りでの現役引退を発表した宮里藍が、主戦場となる米女子ツアーに戻った。 今後は、プロ入り前からの夢である全米女子オープン(7月13日~16日/ニュージャージー州)を含めたメジャー大会での優勝を目指し、残りの戦いで奮闘していくこととなる…

 今季限りでの現役引退を発表した宮里藍が、主戦場となる米女子ツアーに戻った。

 今後は、プロ入り前からの夢である全米女子オープン(7月13日~16日/ニュージャージー州)を含めたメジャー大会での優勝を目指し、残りの戦いで奮闘していくこととなる。できることなら、輝かしいキャリアにひと花添えて、有終の美を飾ってくれることを期待したい。

 そうは言っても、宮里藍は引退の理由として「モチベーションの維持が難しくなった」ことを挙げた。自身を”早すぎる引退”に追い込むことになった、この得体の知れない感情である”モチベーション”を彼女は今後、どう維持し、持ち上げるのだろうか。

 まずは引退発表後、初の試合となったサントリーレディスにおける宮里藍のプレーぶりを、”モチベーション”をキーワードとして振り返ってみたい。


日本ツアー

「最後」の試合となったサントリーレディス。宮里藍をひと目見ようと多くのファンが詰めかけた

 試合前、指定練習日の火曜日に、宮里藍に次のような質問をした。

--この試合に入るにあたっての、モチベーションは何ですか?

 すると、彼女はこう答えた。

「(この試合に臨む)テーマとしては”感謝”というところが大きいのかな、と思っています。先日の(引退)会見でも話をしたんですけど、自分にとってそれはすごくプラスになることだと思うので、ゴルフだけではなく、本当に自分を客観的に見て今、そういう”感謝”の気持ちがすごく出てきています。それは、今までとはまた違う形のモチベーションなので、それがいい方向にいってくれたらいいなって思っています」

 宮里藍は、目標は「もちろん優勝を目指してやること」としながらも、この試合からは、これまで応援しサポートしてくれたファンやスポンサーなどに向ける”感謝”の気持ちをモチベーションとして戦うと、彼女らしい答え方をした。

 続いて、現役プレーヤーとして戦うのが残り数試合というカウントダウンが始まった状況にあって、「淡々と自分のペースで、目の前の一打に集中する」という普段から自らに課しているプレースタイルを貫けるのか、と聞いた。それに対してはこう語った。

「今さら大きなことはできないですし、自分のゲームを14年間積み上げてきて、それの集大成だと思うで、自信を持ってやりたい。どれだけできるのかが試されていると思う」

 初日、宮里藍は2アンダー、22位タイという滑り出しだった。そして、ラウンド後、こうコメントした。

「どこで気持ちが切れるのか、最後まで続くのか、やってみないとわからないです。逆に、新しい経験を楽しんでいるので、今後の自分の残りの人生に、こういう経験が生かされる場面があればいいな、と思ってプレーしている。新しいことを恐れずにやれているのは、いいことだと思います」

 難関は2日目だった。”感謝”の気持ちをモチベーションにして戦うことを決めたのだから、宮里藍は「予選カットで終わるわけにはいかない」という気持ちが強かったはずである。しかしながら、その予選カットの危機に直面。最悪のケースが16番のボギーで現実味を増してしまったのだ。

 だが、このまま終わらないのが宮里藍である。17番パー5でバーディーを奪って、この日は「74」でフィニッシュ。結果的にはカットラインより1ストローク少ない、通算イーブンパーで決勝ラウンドに進んだ。

 この2日目、宮里藍がスコアを崩す原因となったのは、ショットの乱れだった。前半のハーフは、ティーショットのドライバーや、2打目でフェアウェーウッドを使用した際に曲げることが多かった。それが、後半に入るとショットの乱れは徐々に治まっていった。

 ラウンド後、プレー中にどのような修正を施したのか聞いてみた。宮里藍の回答はこうだった。

「ショットに波が出たとき、最終的にたどり着くのは”テンポ”なんです。あとは”力感”です。このふたつが重要で、どちらかに集中していれば、大きく(目標の球筋から)外れることはない。そこで(ラウンド途中で)テンポと力感を緩めることに集中して、何とか(後半のプレーに)つなげられたと思います」

 身長155cmの小さな体でありながら、宮里藍が世界一まで上り詰めることができたのは、彼女がプレーヤーとして持つ、いくつかの資質の高さがあったからだ。その資質とは、”ショートゲーム”“メンタルの強さ”、そしてもうひとつは”修正能力”の高さだ。

 もともと宮里藍は、ショットの安定感があるゴルファーではなかった。いや、むしろショットには不安定さが付きまとっていたと言っても過言ではない。それは、バックスイングの途中でフェースが地面を向くような”シャットフェース”という形に原因があった。

 宮里自身、この自らのシャットフェースに関しては、以前「直したい」と語っていたこともある。

 シャットフェースはインパクトで強い球を生み出す一方で、球がつかまり過ぎて引っかかる危険性を持っている。加えて、引っかかることを嫌って、ダウンスイングでフェースを開いてしまうと、右方向につかまらない球が出ることも多いのだ。

 このシャットフェースのディスアドバンテージを持ちながら、宮里藍が世界一になれたのは、やはりその修正能力が高かったからである。

 思えば2005年、宮里藍が男子ツアーのアジア・ジャパン沖縄オープンに出場したとき、彼女と同じ沖縄県出身の友利勝良プロは、宮里藍の戦いぶりを見てこう評していた。

「(宮里藍は)スタート直後のホールでショットがいくら曲がっていても、次のショットではそれを修正してくる。ラウンド中にその曲がりの原因を察知して、ショットの改善を図ることができる。これは、ショートゲームのうまさに通じることだけど、彼女のメンタルの強さに由来するんです」

 サントリーレディスの2日目は、まさにこの修正能力の高さによって予選通過を果たした。宮里藍が言う。

「(出だしで)少し体の動きが硬いと感じたので、ショットの修正をした。その分、力みにつながっていると判断して、(途中から)できるだけ緩ませて打つ方向にしたんです。それが、6~7割ほどいい方向にいったのでよかったです」

 そうして、日本で”最後”と言われる試合を、宮里藍は26位タイで終えた。試合後、彼女は4日間の戦いをこう振り返った。

「4日間を通して、冷静に回れたことはすごく自分でも評価できるんじゃないかなと思っています。私は、ずっとメンタルが主体となったプレーをしてきたので、そういう意味では、このプロ生活の中で学んだスキルというか、そういうものを全部使ってやれた4日間だったんじゃないかなと思います」

 そして、続ける。

「今までは、自分自身に対して『どこまで上にいけるのか』というような、自分にプレッシャーをかけることもたくさんあったんですけど、そういうプレッシャーではなく、”感謝”の気持ちでプレーするのって『こんなに楽しいんだ』っていうことを、今回感じることができた。もっとそこを重点的にやっておけばよかったなと思うくらい、すごいエネルギーをもらいました。

 ゴルフは失敗の連続なので、どうしてもネガティブになりやすい分、そこまで意識が回らなかったりするんですけど、まあでも今回、また改めて”感謝”の気持ちとか、自分にとってポジティブな気持ちがどれだけゴルフにつながるのかということを今、実感している。これは、残りのシーズンでもずっと続けていきたいなと思っています」

“感謝”の気持ちをモチベーションにして戦った成果を、そう口にした宮里藍。いよいよ、米女子ツアーでは残り4戦のメジャー大会に挑んでいく。そして、そのひとつ目となる全米女子プロ選手権(6月29日~7月2日/イリノイ州)がまもなく始まる。

 宮里藍は今、”感謝”の気持ちを新たなモチベーションとして、”修正能力”“ショートゲーム”、そしてそれを支える”メンタル”が上向きの状態にある。日本中が注目する中、新たな伝説を刻むことができるのか、必見である。