卓球世界ツアーのWTT(ワールド・テーブルテニス)3連戦が4月29日に終了した。「WTTチャンピオンズ新郷」(9~15日)、「WTTチャンピオンズマカオ」(17~23日)、「WTTスターコンテンダーバンコク」(23~29日)を3週間で消化す…

卓球世界ツアーのWTT(ワールド・テーブルテニス)3連戦が4月29日に終了した。

「WTTチャンピオンズ新郷」(9~15日)、「WTTチャンピオンズマカオ」(17~23日)、「WTTスターコンテンダーバンコク」(23~29日)を3週間で消化する過密日程に、日本からも男子エースの張本智和(IMG)が3大会全てに出場した他、多くの選手が臨んだ。

その中でWTTバンコクにはエントリーせず、一足先にマカオから帰国した宇田幸矢(明治大学/世界ランク20位)に近況を聞くことができた。

宇田といえば東京2020オリンピックでリザーブ(控え選手)に選ばれ、パリ2024オリンピック代表候補の筆頭と目されていた。ところが代表争いが始まった昨年は国内選考会で思うように勝てず低迷。現在は代表選考ポイントで12番手と大きく遅れを取っている。

その一方で世界ランクは20位(最高19位)と同4位の張本に次ぐ男子日本の2番手。本来の実力とポテンシャルからすれば、パリ五輪の代表争いでもっと上位に食い込んでおかしくない逸材だ。

宇田幸矢 Photo:World Table Tennis

しかし、今回のWTTチャンピオンズは2大会とも初戦敗退と納得のいく結果は得られなかった。それでも試合の内容に目を向けると、時間をかけて取り組んできた強化の成果は確実に表れている。

例えば、WTTチャンピオンズ新郷 男子シングルス1回戦で対戦したモーレゴード(スウェーデン/世界ランク7位)との一戦。結果だけ見れば0-3のストレート負けだが、9-11/6-11/11-13というスコアからは変幻自在のプレーが特長の難敵モーレゴードと競った痕跡が見える。

実際、第1ゲームは6オールから先行を許したものの、ゲームポイントを握られた場面でサーブからの3球目攻撃を仕掛け、宇田の武器であるフォアハンドドライブをストレートに打ち抜いた。次も得意のチキータレシーブで連続ポイント。

あいにく最後の1本はチキータレシーブがオーバーとなりゲームを落としたが、追い込まれた場面で自身の持ち味を発揮した。

さらに第3ゲームは4-9の劣勢からストップ(相手コートのネット際に送る)レシーブを使いモーレゴードのミスを誘って2得点を挙げ、10オールに追いつく粘りも見せた。

鋭いチキータと威力のあるフォアハンドドライブが得点源の宇田は、ストップやツッツキといった細かい技術がもともと得意な方ではない。だが、攻撃一辺倒のプレースタイルでは自分の流れの時はいいが相手にペースを奪われると立て直せず、そのままずるずると負けてしまうことが少なくなかった。

そこに限界を感じた宇田は明治大学に入学した2020年頃から、少しずつ不得手な台上技術やブロック技術を強化して戦術の幅を広げようと努めてきた。

 しかし、新たなスタイルを取り入れるというのは、もともとある特長を殺す諸刃の剣になりかねない。宇田は思った以上に苦労し、まだ良いバランスを見つけられずにいる。

「ストップだったりツッツキだったりを使おうとする意識が強すぎて、自分の強みを生かしきれない。打ちにいけるボールもミスしないように繋いでしまったり、攻めたボールをミスするとすぐこっち(ストップやツッツキ)に変えてしまったりするんです。もっといい攻守のバランスがあるはずなんですけどね」

ちなみにモーレゴードは攻撃力の高さだけでなく、相手に攻められたときに守備から攻撃に転じることができる。その要因のひとつを宇田は「バックハンドが多彩。ミートがあったり(回転を)かけるボールがあったり、カットブロックもあったりして上手いなと感じます」と分析する。

宇田が試行錯誤する攻守のバランスに関して、男子代表の田㔟邦史監督は「細かい技術にもう少し自信を持っていいんじゃないか。自分が思っている以上に出来てきているからナーバスにならなくてもいい」と宇田に伝えているという。

宇田幸矢 Photo:World Table Tennis

田㔟監督の言うとおり、昨年12月、ドイツ・ブンデスリーガで見たときの宇田は台上プレーにこだわり過ぎて、もともと良かったプレーも崩れ、何をやってもうまくいかなかった。

本人いわく「どん底の状態」。そこからめげずに続けてきた強化は少しずつだが形となり、宇田も「あとちょっと噛み合えばいける気がするんです」と話す。

「ここまで弱点の克服も自分の良さも追求してきて、ひとつひとつの技術は上がっている。それを試合でいかに使うかというのがまだなので、実戦の中で見つけていくしかない」

 さかのぼること2022年3月。WTTシンガポールスマッシュの男子シングルス2回戦で、当時世界ランク9位だったボル(ドイツ)を同ランク49位の宇田がフルゲームで破った一戦は世界中に大きなインパクを与えた。

準々決勝に勝ち進んだ宇田は成長株のチウ・ダン(ドイツ)ともフルゲームの大接戦を演じて勝利。当たり出したら止まらないラリー戦の爆発力で会場中を魅了した。

 あのときのような宇田のプレーを待ち望むファンは多いことだろう。

5月6、7日には第5回パリ五輪代表選考会にあたる「2023全農CUP平塚大会」が控えている。今大会から代表選考ポイントは昨年の2倍になる。宇田は厳しいポジションから何とか這い上がるきっかけを掴もうとしている。


(文=高樹ミナ)