全国大会常連の愛知工大名電高(愛知)が、新たな取り組みを打ち出した。企業へ「活動支援募金」の協力を求めることで、部活と勉強の両立、保護者への費用負担などの問題解決を目指す。その背景を北川祐介監督に聞いた   &nbs…

 

全国大会常連の愛知工大名電高(愛知)が、新たな取り組みを打ち出した。企業へ「活動支援募金」の協力を求めることで、部活と勉強の両立、保護者への費用負担などの問題解決を目指す。その背景を北川祐介監督に聞いた

 

 

3月の全国私立高等学校男女選手権大会(さくらVOLLEY)では、ベスト8入りした愛知工大名電高

 

目指すは学業との両立と保護者への負担軽減

 

 これは高校バレーボール界だけが抱える問題ではないだろう。

 

 愛知工大名電高が4月12日、インスタグラムにある投稿をした。タイトルは「日本の部活動改革」。その言葉には、力強い決意が込められていた。

 

「部活だけでなく勉強も両立できる環境を作りたい」

「活動するのに費用がかかる日本の部活動の現状を変えたい」

 

 過去にはインターハイ、春高で3位に入った経験があり、昨年度はすべての全国大会に出場した。プレーはもちろん、高校バレーではこれまでにあまり見られなかった先鋭的な取り組みも魅力の一つ。昨年の春高県予選決勝からは部の公式インスタグラムアカウントのQRコードがプリントされたユニフォームを着用し、そのアカウントでは日々チームの魅力を発信している。

 

 

インスタグラムはフォロワー3500人超え。他校とのコラボ動画など、その取り組みは高校バレー界トップクラス

 

 今回のプロジェクトの背景を、北川祐介監督が語る。

「卒業生が大学に入ってからや、会社員になって苦労している話を聞くと、バレーボールだけをするのはリスクが高いと感じていました。僕もプロ(Vリーグ)に行きながら2つ目の大学(愛知学院大)に通った経験があって、やっぱり勉強もしておかないと、と考えていました」

 

 その両立を目指し、同校ではアクションを起こしていた。これまでは部員全員がスポーツコースだったが、2年前から全員が特進・選抜コースか普通コースに所属するかたちに。ともに国公立大をはじめとした大学進学を目指すコースなだけに、バレーボールだけをすればいいというわけではない。

「特に2年生は目指す国公立大学もあり、目標に向けて勉強しています。強豪校ではバレーボールで進学することがほとんどですが、彼らが3年生になるときには、バレーボールと勉強、どちらの道を選択しても、進める大学がある状態にしてもらいたいですね」

 

 そう願いを込める中で、さらなる環境整備を進めるべく今回打ち出したのが「高校バレー界では初」とうたう「活動支援募金」だ。

 

「OBから強制的にお金を集めると、Win-Winの関係ではないこともあります。また、後援会の人たちに手間をかけることもあるので」と個人からは受けつけず、対象とするのは企業。北川監督自ら資料を持って足を運び、チームの活動理念に賛同を得られた企業にお金を募る。その金額に応じて、公式戦のウォーミングアップやエキシビションマッチなど公式戦以外で着用するユニフォームに入れるロゴの位置が変化。集まった金銭は遠征費、チームウェアや治療器具の購入などに充て、保護者の負担を軽減する。

 

 

公式戦のウォーミングアップやエキシビションマッチなど、公式戦以外で着用するユニフォーム。賛同を得た各企業のロゴが並ぶ(画像:チーム提供)

 

 反社会的勢力との関わりがないか、などいくつかのチェック項目もあり、綿密に交渉を進める。名刺の肩書きが「GM兼監督」に変わった北川監督は、「教員しかしてこなかったのに、今は営業の勉強をしています」と笑いながらも、声を弾ませる。

「社長さんの中にはバレーをしていた方もいて。『高校を選ぶときにバレーが強い学校にいきたかったけど、勉強をしたかったからあきらめた』という方や、『部活と勉強を両立できるところがあったら、俺もそうしていたのに』と言ってくれる方もいました。賛同してくれる方が結構いて、話していて楽しいですね」

 

 今回の取り組みを受け、選手たちは「勉強と部活を両立しながら春高に出場することを目標に掲げていました。企業さんから応援していただけるのは本人たちもすごくうれしいことだし、より一層前向きに取り組もうとミーティングをしていました」と士気を上げている。

 

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募金を使って古賀幸一郎氏ら専属コーチを招へい

 

 そして、「効率的にスキルアップし、勉強時間を確保する」ための最大の取り組みが、各ポジションへの専属コーチの招へいだ。

 

 リベロ、ディフェンス専属コーチには、かつて日本代表に選ばれ、Vリーグで6度のサーブレシーブ賞とベストリベロ賞に輝いた古賀幸一郎氏が就任した。北川監督とは豊田合成トレフェルサ(現・ウルフドッグス名古屋)でチームメイトとしてプレーした仲。「彼は進学校(佐世保北高〔長崎〕)出身。また、子どもがいて、(高校生活を)バレーボールにすべて注ぐのはリスクがあると思っていたので、賛同してくれました」と前向きに話は進んだ。

 

 バレーボール教室の講師のような単発の参加ではなく、練習メニューの作成から携わる。初レッスンで細やかな古賀氏の指導を受けた選手たちの様子に、北川監督は「ふだんと目の輝きが違いました」と苦笑い。「外国人監督の元でずっとやっていたので、ホワイトボードにはメニューなどが英語で書かれていて。そういうところも新鮮だったんじゃないですかね」と早速、化学反応が生まれている。

 

長年第一線で活躍した古賀氏からの指導は、選手にとってかけがえのない経験になる

 

 古賀氏に加え、アウトサイドヒッター専属コーチにはヴィアティン三重で監督を務めた亀田吉彦氏が就任。プレー面はもちろん、チーム育成方法の提案や活動支援募金の運用面など、多角的にチームをサポートするという。

 

 現状はそれぞれが2週に1度指導する予定だが、支援の輪が広がれば、さらにその頻度を増やす予定。今後は専属のセッターコーチ、トレーナーの招へいも視野に入れており、Vリーグ通算ブロック決定本数の前日本記録保持者である北川監督も加えると、すべてのポジションにプロフェショナルなスタッフがそろうことになる。

 

 このような取り組みができるのは私立高だから、という見方もあるだろうが、一概には言えない。学校の学力レベルが上がるほどに部活動にかける費用を抑えるケースがあるといい、同校もその一つ。「公立高よりは支援をしてもらっていると思いますが、強豪校と比べると差が出てしまうところはあります」というのが正直な胸の内。同じような環境で活動するチームにとっても、モデルケースになりうる取り組みだ。

「今後、こういうことが当たり前になっていくと思います。最終的には部活動をするのに、すべての子どもたちの保護者に負担がかからないようになるのが理想。そういう時代がきて、これまでのような部活動は変わってくるのかなと思っています」

 

今回、チームとして掲げたのは「バレーボールだけの人生ではなく、バレーボールもできる人生」。高校バレーボール界の新たなスタンダードになっていくかもしれない。

 

「13年指導していると、練習が結構マンネリ化していて。それを改善したい思いもありました」と北川監督自身もアップデートを目指す

 

文/田中風太(編集部)

写真/石塚康隆(NBP)

 

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