平均年齢が若く、実験的なチームでFIFAコンフェデレーションズカップ2017(以下:コンフェデ杯)に臨んでいるドイツは、2勝1分という好結果を残してグループBを首位で突破した。カメルーン戦で2ゴールをマークした21歳のティモ・ヴェルナ…

 平均年齢が若く、実験的なチームでFIFAコンフェデレーションズカップ2017(以下:コンフェデ杯)に臨んでいるドイツは、2勝1分という好結果を残してグループBを首位で突破した。



カメルーン戦で2ゴールをマークした21歳のティモ・ヴェルナー

 ボールをつないでくるようになったとはいえフィジカルも侮れないオーストラリア、戦術と技術の絶妙なハーモニーを兼ね備えたチリ、相手を一気に置き去りにするパワーとスピードを持ったカメルーン――。そんな三者三様の大陸チャンピオンたちを相手に、経験不足の著しいドイツが主導権を握ってプレーを続けることには無理があるように思えた。

 1試合目のオーストラリア戦(3-2)では集中力を欠いた。2試合目のチリ戦(1-1)ではビルドアップで失点につながる致命的なミスがあった。そして3試合目のカメルーン戦(3-1)では前半に硬さがあった。ドイツを率いるヨアヒム・レーヴ監督は、チームを襲った”硬さ”をこう説明する。

「カメルーン戦はノックアウトマッチ……コンフェデ杯のベスト4に進めるか、それとも敗退して家に帰るか、そんな試合だった。ひとつのミスが命取りになる――そんな緊張が前半にあった」

 そんなカメルーン戦で前半不振だったドイツを救ったのは、これまで代表チームでノーゴールだったふたりのアタッカーだ。まずは後半開始早々の48分、MFユリアン・ドラクスラー(パリ・サンジェルマン)との絶妙なコンビネーションからチャンスを作ったMFケレム・デミルバイ(ホッフェンハイム)が強烈なシュートを決めて先制する。すると、ドイツの硬さが一気にほぐれた。

 そしてもうひとりは、21歳のFWティモ・ヴェルナー(RBライプツィヒ)。カメルーンに退場者が出た直後の66分、さらに相手に1点を返された直後の88分と、試合を左右する節目でしっかりとゴールを重ね、若きチームを試合巧者へと成長させた。

 この「Bチーム」ともいうべき今大会のドイツ代表は、6月6日に親善試合として行なわれたデンマーク戦から始まった1ヵ月間のプロジェクトチームである。3月26日のワールドカップ欧州予選・アゼルバイジャン戦でドイツが4-1の勝利を収めたのち、出場したメンバーからDFベネディクト・ヘヴェデス(シャルケ04)、DFマッツ・フンメルス(バイエルン)、MFサミ・ケディラ(ユベントス)、MFトニ・クロース(レアル・マドリード)、MFトーマス・ミュラー(バイエルン)、MFアンドレ・シュールレ(ドルトムント)、MFメスト・エジル(アーセナル)、FWマリオ・ゴメス(ヴォルフスブルク)が抜けた。

 近年のドイツ代表といえば、バイエルン・ミュンヘンやボルシア・ドルトムントに所属する選手がマジョリティー(多数派)だった。だが、一新されたデンマーク戦ではDFニクラス・ジューレ、MFセバスティアン・ルディ、FWザンドロ・ヴァーグナーとホッフェンハイム所属の選手がもっとも多く先発した。また、この試合ではGKケヴィン・トラップ(パリ・サンジェルマン)、DFマルヴィン・プラッテンハルト(ヘルタ・ベルリン)、MFデミルバイ、MFディエゴ・デンメ(RBライプツィヒ)、FWヴァーグナー、FWアミン・ユネス(アヤックス)と6名もの選手が代表デビューを記録したことも特筆したい。

 デンマーク戦のドイツは、3-4-2-1というフォーメーションだった。これまでドイツは4-2-3-1フォーメーションを基調としていたが、デンマーク戦以降はオーストラリア戦(4-1-4-1)を除いて3バックシステムを採用している。

 6月10日のワールドカップ欧州予選・サンマリノ戦では、3-1-4-2のフォーメーションを敷き、ヴァーグナーがハットトリック、DFジョシュア・キミッヒ(バイエルン)が4アシストを記録して7-0で快勝した。このときのスターティングメンバーを見てほしい。

 GKマルク=アンドレ・テア・シュテーゲン(バルセロナ)/DFキミッヒ(バイエルン)、DFシュコドラン・ムスタフィ(アーセナル)、DFヨナス・ヘクター(1FCケルン)/MFエムレ・ジャン(リバプール)、MFレオン・ゴレツカ(シャルケ04)、MFドラクスラー(パリ・サンジェルマン)、MFユリアン・ブラント(レバークーゼン)、MFユネス(アヤックス)/FWラース・シュティンドル(ボルシアMG)、FWヴァーグナー(ホッフェンハイム)。

 なんと11人の先発メンバーが全員、異なる所属チームだったのだ。UEFAのダイジェストビデオでは、コメンテーターが「これは1960年以来の出来事です!」と叫んでいた。

 このように6月からの「ドイツB代表プロジェクト」で、レーヴ監督はメンバー構成でも、フォーメーションでも、さまざまなトライを行なってチームに刺激を与えている。しかし、彼らの攻撃パターンを見ると、今のドイツは決して即席チームではない。3バックシステムを採用するという方針には、「ウイングバックを置きたい」という明確な意図が見て取れる。

 サイドアタックが代名詞のアヤックスですら、今や安易にサイドへパスを出すことはなく、攻撃の優先順位はあくまで「縦」である。なかでもキラーパスの出しどころは、ペナルティエリア内の左右のスペースだ。その攻略法はチームによって違うが、6月のドイツ代表はウイングバックがインナーラップからペナルティエリアの左右に走り込んだり、逆にウイングバックが左右に開いて味方に中のデンジャラズゾーンへ走り込むことを促したりしている。

 コンフェデ杯のゴールシーンから一例を挙げるならば、カメルーン戦の3点目がそうだ。右サイドでボールを持ったDFベンヤミン・ヘンリヒス(レバークーゼン)はブラントに縦パスを出した瞬間、ペナルティエリアの右側のスペースに走り込み、進路を斜めにしながら猛ダッシュを仕掛けた。ここのゾーンをヘンリヒスがえぐった瞬間、勝負あったと言えるだろう。あとは、鋭角の折り返しを受けたヴェルナーが丁寧にシュートを撃つだけだった。

 このカメルーン戦の勝利で、レーヴ監督は代表就任100勝を達成した。2014年のワールドカップで世界の頂点に立ち、2006年から代表を率いた試合数は150にものぼる。いくらサッカー大国のドイツといえども、調子が下り坂に向かったり、マンネリムードがチームに蔓延してもおかしくはないだろう。だからこそ、この6月の5試合で3勝2分という好成績を残し、レーヴ監督がBチームという実験的なチームで100勝目を飾ったことを、私は心の底からリスペクトするのだ。