三菱ラリーアートが多くのモータースポーツファンの期待に応えるためには、活動の拡大が望まれる。そのためには海外拠点の整備が不可欠だが、組織の解体で失った拠点の再建には大きなエネルギーを要する。しかし、その足がかりはある。

◆三菱自動車に期待されるプライベーター支援ネットワーク復活のシナリオ

■「TEAM RALLIART」を掲げるニュージーランド

それは、かつてのラリーアートファミリー創設期から存在する「ラリーアート・ニュージーランド」だ。現地では「TEAM RALLIART」の呼称で三菱系プライベーターの支援を継続している。一時はプジョーで国内選手権に出場しているユーザーをトップレンジに置いていたが、そのような時期でもスリーダイヤとRALLIARTのロゴをファクトリーに掲げ続けた。

現在は三菱ミラージュAP4(ミラージュを1.6リッターターボ4WD化した地域選手権専用車)を筆頭に、各世代のランサー・エボリューションユーザーの多くを取り込み活動は認知されている。ニュージーランドではアウトランダーと競走するミラージュAP4も登場する三菱自動車のコマーシャルもあったほどだ。

ラリーアート・ニュージーランドの活動は同国内だけではない。2022年のアジアクロスカントリーラリー(AXCR)でチーム三菱ラリーアートの一員として出場したリファット・スンカーがインドネシアのスプリントラリー選手権に持ち込んだミニバン(!)三菱エクスパンダーAP4は、ラリーアート・ニュージーランドが車両を製作した。※AP4はFIA公認不要で、アジア・パシフィックラリー委員会と各国モータースポーツ統括団体(日本のJAFに相当)の承認のみで出場が可能な車両規格

X-pander AP4 インドネシア三菱

■そろえるべきスプリントとクロスカントリーの両輪

これらのことからも私は、現在の新生ラリーアートがラリーチームとしてのオペレーションを一定水準で維持してきたラリーアート・ニュージーランドとの関係を再構築し、またASEAN地区でも生産拠点のあるタイ、インドネシアにラリーアートを名乗る事業組織を置くことで、スプリントラリーとクロスカントリーラリーの両輪をそろえるべきだと考える。

もちろんそれぞれが「ラリーアート」を名乗ることで三菱自動車のオペレーションとして機能することが望ましいが、当面は共通ブランドを掲げ独立した収益事業組織の「緩やかな連合」というのが現実的だろう。つまり、各ラリーアートは「三菱自動車の丸がかえではない」ということだ。これもかつてのファミリー構成が範となる。

それぞれ個別に活動しながら、たとえばタイとインドネシアは国内を追い、AXCRでは三菱ラリーアートののもとに結集する。ニュージーランドも国内選手権を追いつつ、同国内、あるいはオーストラリアでの世界ラリー選手権(WRC)開催時は現状AXCRでも採用されている「技術支援」という形式で三菱ラリーアート本体が関与する方式だ。

トライトンAXCR仕様車 提供:三菱自動車

ASEAN地区ではトライトンやパジェロスポーツが活躍するだろう。

では日本・ニュージーランド連合での車種は、前々記事で日本国内のモータースポーツに導入を提唱した「新型コルトAP4」はどうだろうか。

FIAアジア・パシフィックラリー選手権(APRC)ではSUVクラスもあるが、あえてコルトを託す。ルノーOEMでヨーロッパ専用車になるかもしれない新型コルトだが、特定車種の販売促進ではなくブランディング活動と位置づける。もちろん日本導入があるのならプロモーションの一環だ。

三菱が量産市販車でグループNラリーカー市場をリードした時代が過去のものとなって久しい。

現在トップワークスは最上位カテゴリーの「ラリー1」車両で出場する一方、プライベーター向けに下位カテゴリーとなる「ラリー2」以下の車両も開発・販売する収益事業を展開している。

三菱がアライアンスを組むルノーもエントリーレベルのラリーカーとして「クリオ・ラリー3~5車両」をヨーロッパのラリー市場に投入しているが、三菱はアジア・パシフィック地域を主戦場とすればコルトAP4(WRCでのラリー2に相当)はクリオとも競合しない。

新型コルト 提供:MME

この地域で三菱ラリーアートのモータースポーツプログラムを実行する複数の拠点が稼動することで、「香港~北京ラリー」の後継イベントであるチャイナラリーでのAPRCチャンピオン決定戦にアジア地区とパシフィック地区、それぞれの国のラリーアートが並び立つこともあり得る。

そしてこの体制の構築の最終目標は(本年以降もFIAのカレンダーにあることが前提だが)、「ラリージャパン」への出場と仮想したくもなる。プライベーターへの車両供給は将来の課題となるが、全日本ラリーでさえシュコダR5(ラリー2)で出場しているチームもあるのだから、APRCで鍛えたコルトAP4を日本のラリーフィールドでも見たいものだ。

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ファンの期待はあるものの、さすがにWRCの通年出場やダカールラリーとなると現状の三菱自動車には荷が重いとは思う。だが、みな待っているのだ。それは日本だけではない。

かつてラリーアート・スウェーデンを名乗ったチームが独自に開発し現在のAP4の原型であるFIA未公認のミラージュR5が特認でWRCを走ったとき、またダカールラリーの運営に提供された三菱パジェロがオフィシャルカーとして南米を走ったとき、それぞれ日本に伝わった声は多くはなかったが、私は知っている。誰もが異口同音にこう言っていたのだ。「ミツビシが、ラリーに帰ってきた」と。

2017年APRCラリー北海道を走ったミラージュR5 提供:FIAAPRC

現状は質を重視した三菱自動車のラリーアート・ビジネスではあるが、量も追求することを忘れてはいけない。量(規模)はやがて質へと転化する。

モータースポーツ活動のアジア・パシフィック地域での規模拡大は、三菱自動車の日本国内での存在感も高めることに間違いなく貢献すると確信する。その好循環を実現したときこそ、ファンの期待に応え世界への再挑戦の扉の前に立つ姿を見せてくれるはずだ。

チーム三菱ラリーアート 提供:三菱自動車

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著者プロフィール

中田由彦●広告プランナー、コピーライター

1963年茨城県生まれ。1986年三菱自動車に入社。2003年輸入車業界に転じ、それぞれで得たセールスプロモーションの知見を活かし広告・SPプランナー、CM(映像・音声メディア)ディレクター、コピーライターとして現在に至る。