開幕4連勝――。幸先のいいスタートを切ったヴィッセル神戸だったが、気がつけば主役の座から引きずり下ろされ、順位表の中位を彷徨っている。 シーズンの約半分となる第16節を消化して、7勝2分7敗の11位。17得点・17失点と、白星も得点も…

 開幕4連勝――。幸先のいいスタートを切ったヴィッセル神戸だったが、気がつけば主役の座から引きずり下ろされ、順位表の中位を彷徨っている。

 シーズンの約半分となる第16節を消化して、7勝2分7敗の11位。17得点・17失点と、白星も得点も貯金ゼロである。


ケガ人続出でネルシーニョ監督も頭を抱えている?

 昨季は年間順位で7位、セカンドステージに限れば2位と躍進を遂げた神戸は、今季の開幕前に初タイトル獲得への「本気度」を示していた。FW田中順也(←柏レイソル)、MF高橋秀人(←FC東京)、MF大森晃太郎(←ガンバ大阪)と各ポジションに実力者を迎え入れ、さらには元ドイツ代表FWルーカス・ポドルスキ(前ガラタサライ)の今夏加入も発表。3シーズン目を迎える知将・ネルシーニョ監督のもと、悲願成就へ機は熟したかに思われた。

 開幕節で昨季得点王のFWレアンドロが左ひざじん帯損傷の重傷を負うアクシデントに見舞われたものの、MF中坂勇哉ら若手の台頭を促しながら、スタートダッシュに成功。試合をこなすなかで新加入選手たちも徐々にフィットしていき、一時は首位に立った。この勢いをポドルスキが合流する夏まで保てれば、タイトル獲得も現実味を帯びてくる。そんな予感さえ漂わせていた。

 しかし第7節から3連敗を喫し、首位の座を明け渡すと、そのまま流れを失った。加えてケガ人の多さが悪い状況に拍車をかける。5月にはMF藤田直之、FW大槻周平が戦線を離脱し、6月に入るとDF橋本和、DF高橋峻希、DF岩波拓也、MF高橋秀人と守備陣に故障者が続出。豊富に見えた陣容も、まともにメンバーを組むことさえままならない状況に陥った。

 その苦しい台所事情を表すかのように、第16節の横浜F・マリノス戦のスタメンには、今季10試合以下の出場にとどまる選手たちが6人も名を連ねていた。ただ、ベストメンバーを組めないにもかかわらず、前半の戦いぶりは悪くはなかった。

 横浜FMのワイドな攻撃に苦しみながらも、GKキム・スンギュを中心に粘り強い対応でゴールを割らせない。ロングボールに頼らない攻撃もまずまず機能し、素早いカウンターやバイタルエリアでの連動からゴールに迫るシーンもあった。

 前半終了間際には、巧みな連係から抜け出したFW渡邉千真が決定的なシュートを放つなど、個ではなくチームとして崩そうとする狙いが見えた。

「前半は拮抗したゲームにもっていけた。守備も狙いどおり対応し、カウンターでの攻撃にも展開できた」

 試合後、ネルシーニョ監督が振り返ったように、3連勝中と勢いに乗る横浜FMと互角に渡り合った。

 ところが、後半立ち上がりに右サイドを崩されて先制点を許すと、意気消沈してしまう。追いかける展開にもかかわらず、ほとんどチャンスは作れず、中途半端に攻め入っては鋭利なカウンターの餌食に。そして85分、FWウーゴ・ヴィエイラに追加点を許し、万事休す。

「前半はしっかりボールもつなげたし、ブロックを組んで粘り強く戦うことができたんですけど、後半立ち上がりに失点して、そこから思うように攻められなかった。前に急ぎすぎて、受け手と出し手が合わず、そこから自滅していってしまった」

 そう振り返ったのは、キャプテンの渡邉だ。

「(ボールの)取られ方が悪く、カウンターを浴びる機会も多かった。焦らずじっくり攻める必要もあったし、サイドを使ってもっと揺さぶりをかけないといけなかったと思います」

 焦りから単調になってしまった攻撃を反省した。

 ネルシーニョ監督も「最後までやり切れていれば、カウンターを浴びることもなかった」と、攻撃の機能不全を敗因のひとつに挙げる。後半のシュートはわずかに2本と、反発力をまるで示せず、敗戦を黙って受け入れるような展開だった。

 不調に陥った原因は、やはりケガ人続出の事態を無視できないだろう。それでも渡邉は、それは言い訳に過ぎないと主張する。

「ケガ人は毎年多いですからね。ピッチに立っている選手がもっとやらないといけないですし、チームみんなでカバーしないといけない」

 では、開幕時と比べて、どこに問題があるのか。渡邉はふたつの課題を挙げた。

「いいときと比べれば、簡単に失点している印象はあります。もうひとつは、セットプレーの精度。そこで得点が獲れていたのに、今は獲れなくなっている。でも、一番は守備ですね。連勝していたときは、いい守備から攻撃につなげられていたし、失点も少なかった。やっぱり自分たちは、まずは守備のところをしっかりやっていかないといけない」

 苦境に立たされるなか、間もなくポドルスキがチームに加入する。世界的な名手が加われば、この状況は一変するのか。さらに、元日本代表のFWハーフナー・マイク(ADOデン・ハーグ)の加入もウワサされている。もし獲得が実現すれば、神戸の前線の陣容がさらに迫力を増すことは間違いない。

 もっとも、一個人の力でチームが劇的に良化すると考えるのは短絡的だろう。とりわけ前線の選手は、組織の機能性によってパフォーマンスが左右されるものだ。いい守備からのいい攻撃を実現できていない今の神戸において、彼らの存在はともすれば宝の持ち腐れとなりかねない。

「ゲームを読む力が、まだウチにはない。とにかく先に失点しないことが大事」

 渡邉が言うように、勝ち運に見放された今の神戸に求められるのは、ワールドクラスのストライカーではなく、確かな組織力と展開に応じて試合をコントロールしうる「適切な判断力」なのかもしれない。