「ケガをするという恐怖心が頭の隅に引っかかっている」とレース後に藤光謙司(ゼンリン)は苦笑いした。大阪市のヤンマースタジアム長居で6月25日、第101回日本陸上競技選手権大会最終日の最終種目となった男子200m決勝。5月で31歳を迎えたベテ…
「ケガをするという恐怖心が頭の隅に引っかかっている」とレース後に藤光謙司(ゼンリン)は苦笑いした。
大阪市のヤンマースタジアム長居で6月25日、第101回日本陸上競技選手権大会最終日の最終種目となった男子200m決勝。5月で31歳を迎えたベテランスプリンター藤光は第7レーンから走り出した。内側第6レーンは前日の男子100mを制した18歳のサニブラウン・ハキーム(東京陸協)、第5レーンはリオデジャネイロ五輪男子4×100mリレー銀メダルメンバーの飯塚翔太(ミズノ)だった。
サニブラウンが100m決勝の勢いそのままに、200mでも強さを見せて二冠を達成した。タイムは20秒32。藤光は20秒47で2位となったが、世界選手権への参加標準記録20秒44には0秒03秒届かなかった。
「勝ちたかったのが本音だが、しっかり着順が取れて最低限の目標は達成した。しかしタイムは(参加)標準に届かずもやもやするが、まだチャンスが失われたわけではない。もう1回、2週間後にチャンスがあるのでそれに向けてしっかり準備をしたい」
男子200m決勝
悔しさをにじませる藤光には、昨年の日本選手権の苦い思い出がある。リオデジャネイロ五輪への弾みとするべく優勝を狙ったが、レース中に左足に異変を感じて6位に沈んだ。すでに派遣標準記録は突破していたことと、回復の見込みがあったためにリオデジャネイロ五輪の出場は果たせたものの「誰もが納得できる形で選ばれたかった」という気持ちになった。
「去年のこともあるので、どこかで勝負を仕掛けてケガをするという恐怖心が頭の隅に引っかかっている。だから(全力を)出し切れない気持ち悪い部分があった。それが決勝で出ちゃったのかな」
藤光は長期的なプランを組むことによって、年齢を重ねてもパフォーマンスを落とすことなく、確実に結果を残してきている。今年もトレーニングに新しい試みを取り入れた。
「それが完璧に自分のものにできているわけではなく、ここに来るまでレースの中で試しながらやってきて、ようやく自分のものにできるような感覚が近づいてきた」
藤光謙司(左)は2位
トレーニングの収穫は感じるが、まだ完成はしていない。自分の持っている力をすべて出し切れていないことも自覚している。もし出せたとしても、またケガをするのではないかという不安がよぎる。
「そういう意味で前半100mは100パーセント出し切れる形では入れなかった。それが敗因になっていると思う」
内側のレーンを走るサニブラウンと飯塚が「どこかで勝負を仕掛けてくるだろう」と予想して走ったが、前半乗り切れなかったことで結果的にサニブラウンにはおよばなかった。しかし、後半では手応えを感じ、2週間後の南部忠平記念に向けて意欲を見せる。
「今回レベルの高いレースを2本踏めた。そういう意味では自分の足に対してもこれぐらいでは足は壊れないぞっていうメンタル的な不安要素も抜けた。次はもう少し力を入れて走れる」
日本選手権が幕を閉じた翌26日、日本陸上競技連盟は8月に英国ロンドンで行われる世界選手権の日本代表選手を発表。男子4x100mリレー種目候補選手として、男子100mで代表入りを逃した桐生祥秀(東洋大学)とともに藤光の名前を挙げた。若手が台頭する短距離界だが、藤光の走りはまだまだ日本には必要ということだ。
第101回日本陸上競技選手権大会、男子200m決勝を終えて握手するサニブラウン・ハキーム(右)と藤光謙司(2017年6月25日)撮影:五味渕秀行
第101回日本陸上競技選手権大会、男子200m決勝。左から2位藤光謙司、1位サニブラウン・ハキーム、3位飯塚翔太(2017年6月25日)撮影:五味渕秀行
第101回日本陸上競技選手権大会、サニブラウン・ハキームが男子200mで優勝。二冠を達成(2017年6月25日)撮影:五味渕秀行
第101回日本陸上競技選手権大会、サニブラウン・ハキームが男子200mで優勝。二冠を達成(2017年6月25日)撮影:五味渕秀行