スポーツライターすしこが、日本や世界を旅して車いすバスケットボールの魅力を伝えるシリーズ連載「すしこが行く!車いすバスケの旅」。第2回は、前回に続いて昨年11月26、27日に「すぽっシュTOYOHAMA」(香川県観音寺市)で行われた「202…

スポーツライターすしこが、日本や世界を旅して車いすバスケットボールの魅力を伝えるシリーズ連載「すしこが行く!車いすバスケの旅」。第2回は、前回に続いて昨年11月26、27日に「すぽっシュTOYOHAMA」(香川県観音寺市)で行われた「2022 jキャンプ mini TRIAL in 四国」をレポートする。今回は、初めて講師を務めた香西宏昭や、ファンダメンタルキャンプを初体験したキャンパー(キャンプ参加者)たちの思いにふれる。

恒例の”J”ポーズの集合写真では笑顔があふれた

わずか1日にして起こった大きな変化

充実したカリキュラムのもと行われたJキャンプのファンダメンタル。すると、わずか2日間にしてキャンパーたちは大きな変化を遂げていた。2日目の朝、香西は体育館の空気が前日とは違うものであることを感じていたという。その最大の要因は、キャンパー自身の気持ちが変わっていたことにあったようだ。

今回のキャンプでは最遠距離の群馬県から参加した一人、小林未歩(群馬マジック)はこう語る。

「香西選手の指導を受けたい」と群馬県から参加した小林未歩

「私自身、こういうキャンプが初めてで1日目の朝はどうしていいかわからなかったのですが、その日に教えてもらったことを夜にホテルで振り返っていたら、早くそれをコート上で表現したくてうずうずしていました。それで2日目の朝、体育館に行ってすぐに動き始めたのですが、そういう選手が少なくありませんでした。たぶんみんな、同じ思いだったのだと思います」

変化を遂げたのは、キャンパーだけではなかった。初めて講師という大役に挑んだ香西は、1日目は反省しかなかったという。特に気がかりりだったのは、キャンパーたちの表情だった。緊張は仕方にないにしても、成長することの楽しさや、可能性を感じる喜びをうまく引き出せていないように感じていたのだ。

その日の夜、スタッフたちと長時間、反省会をし、何をどう伝えていくかを話し合ったという。そこで2日目は、伝える側の自分たちがもっと元気よくいこうということになった。さらに自分自身も、どういうコーチングをしたいのか改めて思いを巡らせた。

気持ちを新たに臨んだ2日目、活気に満ちあふれるキャンパーたちの様子に、香西は嬉しさと同時に安堵の気持ちを感じていた。

キャンパーもスタッフも成長を感じられた2日間に

「1日目が終わった時に、もしかしてつまらなかったのかなと思うような表情をしていた選手が、2日目には本当にいい表情をしていたんです。また、どうしていいかわからない様子だった選手に個人的にボードを使って話をした時には“あ、なるほど!”という表情が見られたり。実際にその選手がドリルをやってみると、しっかりと動けていて、僕も嬉しくなりました」

キャンプを通じて広がったそれぞれの可能性

2日目の最後に総仕上げとして行われた40分間フルでの紅白戦は、熱戦が繰り広げられた。合宿での成果を発揮しようと好プレーの応酬で試合は白熱。さらにコート内ではトークし合う姿があり、ベンチからはチームメイトを鼓舞する声が聞かれるなど、両チームともに一体感があった。

小林は、「このキャンプに参加したら、絶対に自分の人生がさらに素晴らしいものになると思っていましたが、実際に想像していた何千倍もの貴重な経験をさせていただきました」と感想を述べた。

さらに、車いすバスケットボール歴はすでに15年になる有瀬智寛(高知シードラゴンズ)は、キャンプに参加した意義についてこう語った。

「チームでも全力でプレーする楽しさを伝えたい」と有瀬智寛

「自分は所属するチームではキャプテンで若手に指導する立場なのですが、まだまだ基礎がしっかりと身についていないと感じていました。それではきちんとしたことを教えられないと思っていたので、今回四国にまで来てくれて、しっかりと基礎を学ぶ機会を設けていただいたことに本当に感謝しています。また年齢を重ねるなかで、全力でバスケットを楽しもうという気持ちが薄れていた部分もあったことに気付けたり、どういう選手になりたいか一人ひとりがしっかりとイメージして練習することがいかに大事かを再認識することもできました」

キャンプに参加して良かったと感じたのは選手だけではなかった。今回、初めて補助講師を務めた山本大は、こんなことを語ってくれた。

山本大は「Jキャンプは成功体験を積めるプログラム」と語る

「僕はもともと性格的に自分の感情を言葉にするのがあまり得意ではないのですが、1日目の反省を生かして2日目はできるだけ元気よく声をかけるなどして盛り上げようと努めました。まだまだだなという部分の方が大きいのですが、それでも自分も少し変われたように思います。実はキャンプの翌日、(作業療法士の)仕事で『すごい、前よりもだいぶできるようになっていますね』と自然に感情をこめて相手の成長を伝えられた自分がいたんです。こういう日頃からの積み重ねが大事だと思うので、今後も続けていきたいと思います」

そして香西は「積極的に声をかけあいながら一緒に成長していこうという姿勢を見せてくれた選手たちにだいぶ助けてもらった」と感謝の気持ちを述べ、自分自身については「初めてだったので当たり前かもしれないけれど、コーチングのスキルはまだまだということを痛感した2日間だった」と胸の内を明かした。しかし、沸き上がってきた感情はそれだけではなかった。

「これまで自分にはコーチングは合わないし、できないと思っていました。ただ、その一方でずっとあったのはマイク(・フログリー)や(及川)晋平さんという偉大な2人からコーチングを受け、バスケットをしてきた自分が、彼らから伝えてもらったものを途絶えさせてはいけないということでした。そうしたなかで今回初めて講師を務めさせてもらい、自分は人が成長すること、その過程に携わることに興味を持っているということがわかりました」


恩師二2人のコーチングを目標とする香西宏昭

“車いすバスケットボールの真の楽しさを伝え、人間の可能性を追求する”ことを第一義に掲げるJキャンプのファンダメンタルキャンプ。それは参加者だけでなく、コーチやスタッフの可能性を広げる場でもあった。

及川氏からのバトンを受け、香西が講師を務める新たな形で始動した「jキャンプ mini TRIAL」の第2回は、4月15、16日に東北ブロックの岩手県で開催される。一人でも多くの選手が自分自身の可能性を感じ、豊かな人生を歩むきっかけとなることを期待したい。