中学生として最後のレースだった昨年3月に出場した国際大会選考会女子400m個人メドレーでは、派遣標準記録IIを突破する4分36秒71を出して2位と結果を残した成田実生(金町SC)。しかし、3位の大橋悠依(イトマン東進)が東京五輪優勝ですで…

 中学生として最後のレースだった昨年3月に出場した国際大会選考会女子400m個人メドレーでは、派遣標準記録IIを突破する4分36秒71を出して2位と結果を残した成田実生(金町SC)。しかし、3位の大橋悠依(イトマン東進)が東京五輪優勝ですでに代表を内定していたため、世界選手権の代表を逃していた。今回、高校2年になったばかりで挑んだ4月4日からの競泳日本選手権では、期待の重圧もかかるなか個人メドレー2種目を制し、7月の世界選手権の代表を決めた。



今年、福岡で開催される世界水泳の出場権を得た成田実生

 大会初日の200mは、ゴールのあと、涙を流しながらうれしさを表現した。

「最近は平泳ぎでいい泳ぎができると、最後の自由形にもつながってタイムもいい感じで出るので、今日も平泳ぎに入ってから冷静になれたと思います。最後の自由形では周りの選手が見えたけど、『絶対に代表に入りたい』という強い気持ちがあったから出し切れたかなという感じです。今までにないくらいにきつくて体が動かなかったけど、一生懸命腕を回しました」

 スタートから先行したのは大橋だった。最初のバタフライは28秒05で背泳ぎの100m通過は1分00秒89。世界選手権の決勝進出ライン想定の派遣標準Ⅱを突破する2分09秒台を狙う前半の泳ぎに、成田は1秒41差をつけられた。それでも平泳ぎで0秒25差まで詰めよると、最後の自由形では大橋と競り合い0秒09先着してゴール。昨年9月の国体で出していた自己ベスト(2分10秒27)には0秒64及ばなかったものの、代表内定条件となるパリ五輪参加標準記録Aを0秒56上回る2分10秒91で初の世界選手権への切符を手に入れた。

「世界選手権は憧れというより、目標の舞台という感じでした。小さい頃からテレビで観ていたわけではないけど、去年のブダペスト大会はインスタなどで見たら、みんなすごくキラキラしていたのでそこに自分も立ちたいなと思っていたのですごくうれしいです。

 世界選手権では自己ベストを出すのが目標だけど、世界の200m個人メドレーのレベルをよく知っているわけではなくて決勝ラインもわからないので、コーチとしっかりミーティングをして決勝を目標にして泳げればいいと思います」

 こう話していた成田の2種目目は中4日で調整も難しかったが、予選は余裕のある泳ぎに徹して4分41秒28で1位通過を果たした。午後の決勝では「最初のバタフライと次の背泳ぎは『楽に速く』を意識し、平泳ぎから一気にスピードを上げていく感じで自由形につなげる」という成田のレースプランに対し、東京五輪出場の谷川亜華葉(イトマン/近畿大)が前半から積極的な泳ぎをしてきた。バタフライで成田に1秒51先行すると、次の背泳ぎでは2秒20差まで広げた。

 成田は、バタフライで6番手、背泳ぎは4番手で通過。だが本人はそれを意識していなかったという。レース後に通過順位を知ると「エーッ!」と絶句し、「順位はあまり気にしていなかったんですけど、ちょっとビックリです」と言い、1分03秒65のラップタイムも「予選より悪かったので、ちょっと遅かったですね」と振り返る。

 自己新を狙いながらも、200m通過も予選より0秒27遅くなった理由をこう分析した。

「いつもバタフライは遅いので。予選より楽に速く泳げてタイムを上げられたらよかったけど、背泳ぎの時に『これ以上スピードを上げたら後半に響いてしまう』というのも感じていたので、ちょっと遅くなっちゃったかなと思います」

 しかし、自信を持つ平泳ぎからは強かった。300mの手前で谷川をかわすと、自由形では突き放し、1秒01差まで広げて4分36秒89でゴール。

「派遣Ⅲを目標にしていたのであとちょっとで届かなかったのは悔しいし、やっぱりそこが足りないところかなという気持ちもあります」と言うが、パリ五輪参加標準記録Aは1秒64上回って2種目目の世界選手権代表に内定。「目標にしていた2種目で世界選手権にいけるし、こういう大舞台の勝負がかかったなかで優勝できたことはすごくうれしい」と笑顔を見せる。

 だが、この大会は自信を持って臨めたわけではなかった。

「年末年始の練習もよくなかったし、3月半ばぐらいに朝寝坊して練習ができなかった時もあって、けっこうショックでした。本当にアラームの音が聞こえなくて、起きたら9時45分で練習が終わるくらいの時間でした。コーチには『選考会の前に朝寝坊する人なんかいないよ』と笑いながら言われたけど、多分怒っていたと思う。今だから笑って話せる感じだけど、けっこう不安になったので反省しています」

 ちょっとした大物感も漂わせる成田だが、この大会期間中はほかの選手たちを観察していた。苦手にしているバタフライでは、200mで優勝した三井愛梨(横浜サクラ/法政大)を見て「力が入っていない感じの泳ぎがカッコいいので、ああいうふうになれたらいいなと思った」と言う。また「瀬戸大也さんは控え場所が目の前のスペースで、泳ぎやインタビューを見てもすごく充実している感じだったし、自信がみなぎっている感じですごかった。私も世界選手権までには自信がつける練習をして、自信がみなぎるような泳ぎができるように頑張りたいと思います」と話す。

 昨年は世界ジュニアで個人メドレー2種目と4×100mリレーで優勝して3冠を獲得した成田だが、代表に選ばれたアジア大会は延期になったため、シニアの大舞台は経験できなかった。今回の優勝記録を昨年の世界選手権と比較すれば、400mは4位相当で、200mは準決勝9位相当のタイムだ。

 だが今年は、昨年の世界選手権400mで史上最年少優勝記録を10年ぶりに更新した同い年のサマー・マッキントッシュ(カナダ)が、4月1日に4分25秒87の世界記録を樹立し、200mでも世界歴代4位の2分06秒89を出している。五輪前年の世界選手権だけに、レベルが上がることも予想されている。

 そんななかでの挑戦に成田は、「14歳で東京五輪にも出たマッキントッシュ選手とやっと同じ舞台に立つことができるので。相手は世界記録も出しているので、まだまだだなと思うけど、私もベストを出して少しでも近づけるようにしていきたいと思います」と話す。

 彼女にとって初めての世界選手権は、シニアトップの洗礼を浴びる場であるとともに、次のための様々なことを学ぶ場にもなるはずだ。