石川祐希のAttack The World vol.1 名実ともに日本の男子バレーボールの中心にいる石川祐希は、イタリア1部リーグのミラノで濃密なシーズンを過ごしている。プロとなって5季目、イタリアでのプレーは中央大在学中を含めると8季目だ…

石川祐希のAttack The World vol.1

 名実ともに日本の男子バレーボールの中心にいる石川祐希は、イタリア1部リーグのミラノで濃密なシーズンを過ごしている。プロとなって5季目、イタリアでのプレーは中央大在学中を含めると8季目だ。

 近年、イタリアで上位を独占している"4強"に勝つ試合もあったが、逆に格下に取りこぼすなど波に乗りきれなかったレギュラーシーズン。それでも、日本人初のイタリア通算2000得点を達成し、プレーオフでは準決勝進出を決めるなど、着実にステップアップしている。

 そんな石川の連載がスタート。第1回は、今季のレギュラーシーズンの振り返り、見えた課題と収穫について聞いた。



イタリア・セリエAのミラノでプレーする石川祐希

【もったいない試合が多かった】

――ミラノは、レギュラーシーズンは10勝12敗で8位。戦いぶりを振り返ってどう感じていますか?

「思っていた結果にはたどり着けなかったです。できれば上の4つに入りたかったですし、入る能力を持っているチームだと感じていたので。今季のリーグ序盤は混戦で、上位に食い込むチャンスがあったのにモノにできなかったところがレギュラーシーズンの反省点です。

 最終的には、力がある4強のペルージャ、トレント、モデナ、チビタノーバが上位を占めて、いつも通りのリーグになってしまいました。そこを変えたかったですね」

――ミラノは力のあるメンバーもいて、石川選手も「4強の一角を崩す力がある」とシーズン前に話をしていました。

「ペルージャはちょっと別格ですけど、トレントには1勝1敗でしたし、モデナにも2勝しています。チビタノーバには、リーグでは2戦ともストレート負けでしたが、コッパ・イタリアでは勝ちました。上のチームに勝って上位にいくチャンスがあったんですけど、下位のチステルナに2連敗するなど、もったいない試合が非常に多かった。ポテンシャルがあるけど、波もあるチームだったと感じています」

――波があるのは何が原因になっているのでしょうか。

「メンタル面が一番大きいと思います。いい時と悪い時の差が激しい。いい時は集中できているんですけど、集中が欠けたり、ミスが続いてしまう場面も多いです。それは練習から起きていることだったので、練習でやっていることが試合にも出てしまった。練習の質を高めることに、ひとりひとりが個人で意識して取り組まないといけません」

【シーズン中に感じた、まだ足りない力】

――その中で、石川選手はチームの中心という立場になりました。どうやってチームを作っていこう、チームをまとめていこうと心がけていましたか?

「いい時はみんないいので、悪い時にどうチームをまとめたらいいか、どうチームに声をかけたらいいか、ということを考えながらやっていました。

 主将をしている日本代表とは少し役割が違います。日本代表では僕にボールが上がったり、ボールに触れたりする回数も多いので、それで流れを切ったり、流れを作ったりすることができる。声もかけつつプレーでも引っ張れています。でも、ミラノだと打数がそんなに多くないので、言葉でしかチームをサポートできない場面も多い。自分がボールに絡んでない時に点数を取られて連続失点するケースが多かったので、そういった時にチームをコントロールする力が、僕にはまだ足りてないと感じています」

――ボールに絡んでいない時にチームをコントロールするのは、非常に難しいことだと思います。

「どうしたらいいんだろうと考えていますが、まだ答えは見つかっていません。ボールに絡んで流れを切ったり、流れを掴んだりすることは得意なので、ボールをもっと呼んだりするのも解決方法のひとつではあると思います。逆に、ボールを触らない時の解決方法も見つけていきたいです。何をしたらいいかはまだわからないですけど、なんとかできないかと思っています」

――それができるようになったら、プレーヤーとしてまた新たな階段を上れそうですね。

「そうなったらすごいことだと思います。ボールに触らなくてもチームのリズムをコントロールできたり、選手のモチベーションを上げたり、選手を安心させてプレーをよくしたり、いい方向に持っていく。そういうことができたら、選手としての価値がより上がっていくと思います。『石川がいたらみんなのプレーがよくなっている』というレベルに達することができると思います」

【「あとに続く日本人選手の目標をたくさん作りたい」】

――シーズンを過ごす上で、新たな目標が見つかったという感じですね。

「自分自身のプレーも少し波のあるレギュラーシーズンでしたけど、昨季や一昨季よりも数字的にはいいものを残せている。シーズン前に課題にしていたスパイクも決定率が70パーセントを超える試合もありましたし、成長を感じています。繰り返しになりますけど、ボールに絡む時のパフォーマンスは評価されていると思うし、レベルが上がったのかな。スパイクを打って点を取る部分では、チームに必要な存在だと証明できたと思います。

 次は、そこからどうチームを勝たせていくかという段階です。これまでは、自分のプレーでチームに貢献しようと思ってやっていましたけど、今季は言葉も含めてチームにアプローチすることも課題にしています。

 それは『自分のプレーの質が高い』というのが大前提で、それに加えて声かけや言葉でチームをいい方向にもっていくことができたら、と考えていましたが、今考えているのはまったく別物です。極論を言うと、自分がプレーをしなくてもチームをいい方向に持っていけるような表現力、言葉のチョイス、声のかけ方といったこと。そういうことも考えて、実践できるようになれたらと思っています」

――今季は日本人で初めて、イタリア通算2000得点も達成しました。

「正直、『2000得点だ。やったぞ』という思いはあまりないです。日本人としては初めてなので誇らしいとは感じています。僕の実績が数字として残されていくということですし、あとに続く日本人選手の目標にもなると思います。

 そういう目標をたくさん作っていきたいですし、そこを目標にしてくれる子どもたちがたくさん増えることを願いたいです。これからの選手たちに目標にしていただけるなら、それはありがたいことだと思います」

【髙橋藍と話すのは「非常に価値がある楽しい時間」】

――シーズン中、パドバでプレーする髙橋藍選手との対決もありましたが、試合後にいろいろとお話をされたようですね。

「昨季に続いて、パドバでの試合後にご飯を食べました。昨季は、僕はその日のうちに車でミラノに帰りましたが、今季はパドバに泊まって、夜ご飯と朝ご飯を一緒に食べて話をして、翌日に帰りました」

――どんな話をするんですか?

「いたって普通ですよ(笑)。『イタリアどう?』『パドバはどう?』『言葉はどう?』とか。あとは、バレーボールの話やプライベートの話もしますね。彼がよくしゃべるので、それを聞くのも面白いですし、話は尽きないです。僕もそういう時はけっこう話しますよ。

 その日は試合が夕方からだったので、試合が終わってから夜11時半ごろまで一緒でした。翌朝も2、3時間くらい話しましたね。去年はイタリアに西田有志選手もいましたけど、今は2人しかないので仲が深まっている感じはします。

 2人にしかわからないこと、経験もあるので、そういったものを共有できる時間は非常に価値がある楽しい時間です。髙橋選手は楽しそうにプレーしているし、イタリアで過ごすことが『楽しい』と言っていたので、とてもいいことだと思います。これからもどんどん伸びていくでしょうね」

(vol.2:昨年の日本代表で得た「濃い経験」 全員が「この1点をもぎ取る力をつけようと思ったはず」>>)

【プロフィール】

◆石川祐希(いしかわ・ゆうき)

1995年12月11日生まれ、愛知県出身。イタリア・セリエAのミラノ所属。星城高校時代に2年連続で三冠(インターハイ・国体・春高バレー)を達成。2014年、中央大学1年時に日本代表に選出され、同年9月に代表デビューを飾った。大学在学中から短期派遣でセリエAでもプレーし、卒業後の2018-2019シーズンからプロ選手として同リーグで活躍。2021年には日本代表のキャプテンとして東京五輪に出場。29年ぶりの決勝トーナメント出場を果たした。