今年7月に福岡で開催される世界水泳選手権に向けて、面白くなってきた。4月7日の競泳・日本選手権女子200m平泳ぎ決勝で、今井月(バローHD/東京ドームS)が優勝を果たし、世界水泳の出場権を獲得。高校2年生以来となる、6年ぶりの自己ベスト更…
今年7月に福岡で開催される世界水泳選手権に向けて、面白くなってきた。4月7日の競泳・日本選手権女子200m平泳ぎ決勝で、今井月(バローHD/東京ドームS)が優勝を果たし、世界水泳の出場権を獲得。高校2年生以来となる、6年ぶりの自己ベスト更新とともに代表の座を掴んだ。
ついに平泳ぎで世界選手権への出場を得た今井月(いまい・るな)
最初の50mは、2日目の100mですでに世界選手権代表を内定している青木玲緒樹(れおな/ミズノ)が、日本記録(2分19秒65)のラップタイムを上回る32秒07で入り、100m通過は2位に0秒97差をつける展開。そこから今井が追い上げて150m通過では0秒33差にして、ラスト50mからは強さを見せた。
「隣のレーンの玲緒樹さんには絶対に先行されると思っていたので、そこでどれだけ冷静に落ち着いていけるかが大事だと思っていたし、最後の50mは絶対に上げられる自信がありました。それまでは冷静に行って、最後はすべてを出し切るというレースプランでした」
その言葉どおりに今井は青木をかわすと後半は突き放し、2秒21の大差をつけて初優勝。世界選手権内定の条件である2分23秒91を大きく上回る、2分22秒98の自己新で6年ぶりの世界選手権出場を決めた。
「今回は派遣記録突破もちょっと怪しいと思っていたし、100mが5位に終わったあとも気持ちを切り替えるのがすごく難しくて悩みもありました。でも決勝のレースは本当に一瞬だったと思うくらいにすごく集中できていたなと思います。2分23秒をやっと切れたけど、意外とあっけないというか、すんなり切れてよかったです」
こう話す今井は、2016年に高校1年でリオ五輪(200m個人メドレー)に出場し、翌2017年も同種目で世界選手権に出場して5位になっていた。しかし、本人がもっともやりたかった種目は、200m平泳ぎだったという。小学6年から平泳ぎで学童新を連発し、中学生になったばかりの2013年4月の日本選手権では初出場ながら、北京五輪出場の金藤理絵(16年リオ五輪優勝)や2012年ロンドン五輪メダル獲得の鈴木聡美に次ぐ3位に入り、注目された。
そのあとも決して悪い記録ではないながらも200m平泳ぎは代表の座を逃し続けていた。目標としていた東京五輪も、2021年4月の代表選考会で100m、200mの平泳ぎで共に派遣標準記録にはほど遠い結果だった。
だがその秋から、拠点を東洋大から東京ドームスポーツに移して平泳ぎでの代表を目指し始め、昨年8月の日本インカレ200mでは2分23秒02の自己新で優勝し、100mも自己記録に0秒08まで迫る1分06秒99で優勝と復活の道を歩み始めていた。
「東京五輪の時は代表を狙うというレベルにもいなかったので、試合に行くことさえすごく嫌で憂鬱でした。この東京アクアティクスセンターもその時の選考会ではいい思い出がなかったので、今回も会場に入った時には『嫌な思い出が蘇ってくるな』という感じがしていて......」
こう言って苦笑する今井は、今大会直前も200mで自己記録を出した昨年の日本インカレに比べて自信を持てずにいた。そんな思いが100mの5位という結果につながってしまったが、そこで心が切れることはなかった。
「16年と17年に代表に入った時は本当に若い勢いというか、運も味方してくれて代表には入れたという感じがすごくあったけど、今回の内定は実力で取ったんじゃないかなと思えるのですごくうれしいですね。レース自体もすごく冷静に平常心で臨めたというのと、最後まで落ち着いて泳げたというイメージです。インカレの時は、最後は少し力んだ部分があったけど、今回は最後まで出し切れたのはよかったと思います。
それに今回は、昨年の夏に比べると自信につながる練習というのが少なかったかなと思っていました。それでも2分22秒台が出たというのはベースが上がっているんじゃないかと思えるし、予選もラクに行って2分25秒台だったので力はついているんじゃないかなと思っています」
東京五輪に出場できなかったことで、自国開催の世界選手権には絶対に出場したいと思っていた。
昨年3月の国際大会代表選考会の200mは、新型コロナに感染した影響もあり、優勝はしたものの派遣設定記録Ⅲには届かない悔しい思いをした。だが、その福岡大会が今年に延期されたことも運がよかったと顔を綻ばせる。
「去年のシーズンのあとは、この日本選手権で2分21秒台を出して世界選手権でも21秒で泳ぐことを目標にしてきましたが、なかなかうまくいかなくて22秒台になってしまったので。ただ、今回も昨日までは不安だったけどしっかり気持ちを切り替えてやれたので、今日のレースは本当に今後につながってくれると思います。世界選手権でも必ず成長している姿を見せられるようにしていかなければいけないので、7月に向けて頑張っていきたいと思います」
日本水泳連盟では、代表選考に前年夏までの世界ランキングを元に派遣標準記録を設定している。出場人数に制限のある五輪の場合は、その下限が決勝進出圏内と厳しいが、自国開催の福岡大会は昨年、24位以内の入賞候補として派遣設定Ⅲ突破を選考条件としていた。だが、今年はその設定をさらに下げ、国際水泳連盟が定める来年のパリ五輪参加標準記録Aの突破で2位以内になれば内定となった。より多くの選手にチャンスを与え、本番での競技力を競わせようとする意図もある。
今井の場合は、今回はそのパリ五輪参加標準記録Aの突破だった。
「平泳ぎは日本のお家芸だと思うので、代表としてそれに恥じないようなレースをしたいと思うし、日本の平泳ぎが強いというのをまた証明できるようにしたい」と話す今井。代表に返り咲いた彼女の世界選手権でのさらなる飛躍に期待したい。