三菱自動車は第44回バンコク国際モーターショーにコンセプトカー「MITSUBISHI XRT Concept」を参考出品した。そのシルエットからもXRTは、2023年度中に投入されるピックアップトラック「トライトン」の新型であることは明白だ…

三菱自動車は第44回バンコク国際モーターショーにコンセプトカー「MITSUBISHI XRT Concept」を参考出品した。そのシルエットからもXRTは、2023年度中に投入されるピックアップトラック「トライトン」の新型であることは明白だ。トライトンといえば、2022年11月に開催されたアジアクロスカントリーラリー(AXCR)に実戦復帰となったチーム三菱ラリーアートが投入し、デビュー戦にしての優勝も記憶に新しい。

◆初参戦初優勝、復活のチーム三菱ラリーアートはさらにその先の頂を狙う

■トライトンでAXCR連覇へ

三菱自動車は次期型であるトライトンで2023年のAXCRへの出場を表明しており連覇の期待もかかるが、いすゞやトヨタ勢も反撃のために一層強力な布陣で臨んでくると思われる。今年もアジアが舞台の日本メーカーの激突に注目である。

XRT Concept 提供:三菱自動車

三菱自動車の経営環境は徐々にではあるが好転しているようだ。主力マーケットであるASEANに加え、一時は完全撤退も考えられたEU市場でもアライアンスを活用しOEMとは言え新型車を投入している。残るは本国たる日本でのプレゼンス向上が課題ではなかろうか。

私はかつて三菱自動車の販売の最前線で「モータースポーツは販促に貢献する」という持論のもとに各種施策を投下していた。その頃とは環境はまったく異なるが、今こそ三菱自動車はモータースポーツの話題を販売促進に活用すべきだと考える。だがそれには、トライトンによるAXCR出場だけでは当然足りない。

三菱自動車の国内回帰には単に商品の充実だけでなく、幅広い話題の展開・提供も必要だ。もちろんモータースポーツもそのひとつだ。それが電動化戦略も下支えするだろう。

だが、三菱ラリーアートがトライトンによるクロスカントリーラリー以外で訴求を行おうとした場合、現行車種にモータースポーツマインドを直接表現したものがないという現実に突き当たる。海外では4WDターボ化の改造を施すことでラリーでの需要もあるミラージュも日本での販売(タイ生産の輸入販売)も終了した。だが私は「望みは潰えていない」と考えている。

■ランサーエボリューションX投入

HKSランサーエボリューション 提供:HKS

面白い動きが2023年の国内モータースポーツに見られた。国内トップクラスのチューナーでありパーツメーカーでもあるHKS(株式会社エッチ・ケー・エス)が、全日本ダートトライアルにランサー・エボリューションXを「新たに」投入したのだ。

ランエボといえば2015年に販売が終了して8年が経過している。純粋プライベーターが使い続けての参戦ではなく、なぜHKSは新たに車両製作をしてまで国内トップカテゴリーに参戦したのか。そこには、HKSと三菱のモータースポーツとの密接な関係が作用しているのではないかと推測している。

HKSの創業間もない時期、まだ三菱がラリーアートの呼称を用いる前から両社のモータースポーツでの協力関係が始まっている。ラリーアートとしての三菱のモータースポーツ全盛期には、ほぼすべてのエンジンにHKSの手が入っていたはずだ。

今季ランエボでのHKSの全日本ダートトライアルへの参戦は「人材育成や自社製品へのフィードバック」という目的が掲げられているが、それならば新しいクルマでも可能ではないか。むしろその方が妥当だ。そう考えると、近い将来の三菱ラリーアートの活動拡大に備えてのものである可能性も否定しきれないのではなかろうか。推測の域は出ないが、両社のこれまでの関係から、既に内々のオファーがあっても不思議ではない。

■欧州で新型コルト発表

新型コルト ティザー写真 提供:MME

また、三菱自動車の欧州部門MMEは本年6月8日に新型「コルト」を正式発表する。おそらくはルノー・クリオ(ルーテシア)、日産マイクラとシャシを共有するだろう。

新型コルトの日本導入の可能性は読めないが、私はいっそ「ラリー専用車」として少量輸入し、HKSなどのトップチューナーを事実上の国内ワークスとしてコルトを委ねるぐらいのことはできるのではないかと考える。

全日本ラリーにはWRCにも出場可能な「ラリー2」規格の車両を欧州から導入しているチームもある。HKSであれば新型ミラージュを日本のラリーにも出場可能な「AP4」規格へのコンバートも比較的容易にできるだろう。三菱自動車のラリー活動がコルトから始まったことを考えると、その原点の名を引き継ぐ車種での再開はマーケティング上の武器となるだろう。

もちろんそれとて、いざ実現させようとするには多くの壁を越えなければならないのは理解している。そう遠くない将来への希望として残しておこう。だがひとつ、決断だけで今、大きく進められることがある。

三菱自動車で技術開発を行う部門の社員有志が、自社商品であるSUV「エクリプスクロスPHEV」でのラリー活動を2022年から始めている。純粋なプライベートチームではあるが、彼らの活動を三菱自動車オフィシャルな活動に「昇格」させることでの国内モータースポーツ活動への再参入は最も現実的でハードルも低く、また電動化を推進する同社の方針にも合致するではないか。

エクリプスクロスPHEV 国内ラリー仕様 提供 :MMC社員有志チーム

WRCやパリダカの結果を誇るのも良い。だがそれらに頼ってばかりでは、いずれ単なる過去の栄光となっていく。たとえ今、限られた車種だけでマーケットに挑んでいかねばならないのなら、三菱ラリーアートは再び国内ラリーにも挑んでいかねばならない。なぜ眠っていたRALLIARTというブランドを復活させたのか。それは三菱ブランド復活のためだ。トヨタ一強の様相も呈している日本のラリー界に、ライバルとして帰還するスリーダイヤに期待するファンも少なくはないだろう。

「スポーツはライバルがいるからこそ面白い」。

◆AXCRで復活の三菱・増岡浩総監督が語る地球との戦い「それがラリーだ」 前編

◆【三菱ラリーアート正史】第1回 ブランドの復活宣言から、その黎明期を振り返る

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著者プロフィール

中田由彦●広告プランナー、コピーライター

1963年茨城県生まれ。1986年三菱自動車に入社。2003年輸入車業界に転じ、それぞれで得たセールスプロモーションの知見を活かし広告・SPプランナー、CM(映像・音声メディア)ディレクター、コピーライターとして現在に至る。