10位──待望の今季初入賞。しかし、オーストラリアGP決勝を終えた角田裕毅の表情に笑顔はなかった。「今日は複雑な気分ですね。10位でフィニッシュできたのはポジティブですし、序盤からかなり厳しいレースを強いられてポイントが獲れるとは思ってい…
10位──待望の今季初入賞。しかし、オーストラリアGP決勝を終えた角田裕毅の表情に笑顔はなかった。
「今日は複雑な気分ですね。10位でフィニッシュできたのはポジティブですし、序盤からかなり厳しいレースを強いられてポイントが獲れるとは思っていなかったので、この結果には満足です。でも、5位でフィニッシュできる可能性もあるかなと思ったので、少しガッカリはしています」
今季初ポイントを獲得した角田裕毅の表情は冴えない
長く苦しいレースの最後に赤旗が出され、レースは残り2周で再開されることになった。
13番グリッドについた角田は、抜群のスタート加速でターン1までに2台を抜き、ターン1でエステバン・オコン(アルピーヌ)のインに入って10位に浮上。
角田の前でフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)が追突されてスピンを喫し、アウト側ではピエール・ガスリー(アルピーヌ)とセルジオ・ペレス(レッドブル)がコースオフ。角田はその混乱をすり抜けて7位に浮上した。
さらにその先のターン3でランス・ストロール(アストンマーティン)が止まりきれずコースオフし、そのアウト側にいたランド・ノリス(マクラーレン)もこれを回避するためにスローダウン。角田はインのスペースに飛び込んで、気づけばなんと5位まで浮上してみせた。
レースは残り1周と3分の2。フィニッシュまでDRS(※)の使用は許可されない。
※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。
「大きなチャンスが転がり込んで来た時に、それを掴み取れるように自分たちの実力をすべて出しきって中団の上にいること」
今シーズンの開幕前から角田が言い続けてきたことが現実になった。
しかし、角田の後方でガスリーが僚友オコンを巻き込んで激しくクラッシュ。これによって赤旗が提示され、再びレースは中断。残り2周を走りきるまでもなくこのまま5位が確定......かと喜びかけた角田だったが、それはぬか喜びに終わった。
【危険な再スタートに批判の声】
中断を挟んで残り1周でリスタートとなる際、コースインの順番は赤旗が出た瞬間ではなく「最後の計測ポイント」の順位となる。しかしリスタートからあまりに早く赤旗が出されたため、誰もセクター1を通過しておらず、再スタート前のグリッド順に戻されることになったのだ。
そのため、角田の驚異的なジャンプアップはなかったことになり、再び13位に戻されてしまった。アルピーヌ勢2台が消えて11位に上がったとはいえ、再スタートが行なわれて事故が起きたから彼らは除外される一方で、赤旗提示前にスピンやコースオフをしたアロンソやペレス、ストロールらは救済されるという、やや不公平感のある結末となった。
残りたった2周でのレース再開と、危険度が増すスタンディングスタートが選択されたことにも批判の声は上がった。
DRSが使用できない超スプリントレースとなれば、スタート直後の変動がほぼすべて。たったそれだけで、ここまでの55周のレースと週末の努力が報われたりも水の泡になったりもするのだから、特に後方のドライバーたちはリスクを負ってでも攻めてくる。その結果、オーバードライブにもなる。
ただし、残り2周のスタンディングスタート再開は2021年アゼルバイジャンGPと同様の判断であり、FIAおよびレースディレクターの方針にブレはない。大きな事故が起きなかったバクーでは批判の声は上がらず、大きな事故が起きて混乱につながった今回は結果論で批判されただけだ。つまり、見直すのであれば「結果論」ではなく、根本的なスタンスを議論し直す必要がある。
それはさておき、レースは57周目途中のまま赤旗終了とはならず、最終58周目に全車がコースインしてセーフティカー先導でフィニッシュするという幕切れになった。11番手でコースインすることになった角田だが、アロンソに追突した4位のカルロス・サインツ(フェラーリ)に5秒加算ペナルティが科されたため、サインツの5秒以内でフィニッシュすれば10位に繰り上がるという状況となった。
【原因はダウンフォース不足】
「ペナルティのことはわかっていましたので、できるだけ前のクルマについて行け、と言われました」
先頭のマックス・フェルスタッペン(レッドブル)が高速で駆け抜けてくれたこともあり、隊列のスピードは速く、サインツから7台分の距離があった角田もなんとか4.458秒差でチェッカーを受けて、10位に繰り上がることができた。
待望の今シーズン初入賞。だが、決して喜べる状況ではない。「5位も有り得た」という落胆もさることながら、純粋なペースでは入賞どころか中団勢のなかでも最下位レベルの遅さだったということもある。
「普通にペースがなかったですね。タイヤが全然温まらなくて、普通にいけばそもそもポイントが獲れるレースではなかったので、この状況下でポイントが獲れたのはよかったと思います」
12番グリッドからスタートした角田は、ノリスを抑えて走り、セーフティカー中にピットストップしたマシンもいたため、8位まで上がって10周目の再スタートに臨んだ。
しかし、そこで履いたハードタイヤがうまく使えず、中団勢のアルピーヌ、マクラーレン、ハース、さらにはアルファロメオにまで次々と抜かれる悔しい展開になってしまった。
アルファタウリのペースが上がらない原因は?
ストレートの遅さに苦しんだが、実際にはアストンマーティン、アルピーヌ、アルファロメオの最高速は角田と同じだった。しかしDRSを使われた結果、簡単に抜かれてしまった。
4箇所ものDRSがあるアルパートパークでは、DRSが非常に効果的だったこともある。だがやはり一番の原因は、ハードタイヤに十分な熱が入れられなかったことだ。
その主原因は、ダウンフォース不足にある。最高速をライバルに合わせようとウイングを寝かせれば、ライバルよりもダウンフォース不足になってしまうのが最大の問題だ。
今回のアルファタウリは新型フロアを投入し、主に低速域でのダウンフォース増大をターゲットにマシン改善を図ってきた。ドライバーたちは「あまり違いを感じない」と言うが、アルバートパークには低速コーナーがふたつしかないのだから、ラップタイムに及ぼす影響が小さいのはたしかだ。
しかし、角田はFP1でのスピンオフでこの新型フロアにダメージを負ってしまい、旧型で走らざるを得なくなってしまった。効果は薄いとはいえ、今後の開発に向けて新型フロアの走行データを少しでも多く収集しておくべきだったという点では、手痛いミスになった。
【角田も今季初めてのミス】
路面温度の低いFP1で、タイヤが温まっていない状態での最初のブレーキングで犯したスピンオフは、ドライバーだけのミスとは言えない。だが、角田としては今季初めてと言っていいミスだった。
「旧型フロアを使わなければならなくなったのは、間違いなく僕のミス。チームとしても理想的な状況でなかったのはたしかです。
新型に比べれば低速コーナーでは少しパフォーマンスが劣るんですけど、中高速コーナーではそんなに違いがありません。僕としては旧型のほうが慣れ親しんだフィーリングではありました。
もちろん、理想的なことではありません。それでも(旧型フロアのマシンで)持っているパフォーマンスは最大限に引き出すことができたと思うので、自分自身のパフォーマンスには満足しています」
ふだんのレースで上位5チームが全員完走すれば、中団グループに入賞のチャンスはない。何台かの自滅で可能性が転がってくるとしても、1ポイントや2ポイントなど、入ってくる得点はごくわずかだ。
しかし今回のように大荒れのレースでは、一気に大量得点が可能になる。もし角田が5位でフィニッシュしていれば、一気に10ポイントだ。
つまり、ふだんのレースで1点1点を積み重ねるよりも、大荒れのレースで一点集中でポイントを稼いだほうが、ランキングは上位に来ることができる。中団グループの戦い方は、これまでの常識では通用しなくなってくる。
そんな流れでの次戦は、大荒れの展開になることが多いアゼルバイジャンGP。今回の成功体験と教訓と悔しさをバネに、アルファタウリと角田の逆襲に期待したい。