コリセウム・アルフォンソ・ペレスで行なわれたリーガエスパニョーラ・プリメーラ(1部)昇格プレーオフ決勝第2戦、ヘタフェ対テネリフェは、パチェコの2得点などで3対1とホームチームのヘタフェが勝利し、2戦合計を3対2としたヘタフェが1年ぶ…

 コリセウム・アルフォンソ・ペレスで行なわれたリーガエスパニョーラ・プリメーラ(1部)昇格プレーオフ決勝第2戦、ヘタフェ対テネリフェは、パチェコの2得点などで3対1とホームチームのヘタフェが勝利し、2戦合計を3対2としたヘタフェが1年ぶりのプリメーラ復帰を決めた。

 テネリフェの日本人MF柴崎岳はこの試合でロサーノのゴールをアシスト。プレーオフ3試合連続でゴールに絡むパフォーマンスを見せたものの、個人、そしてチームとしての目標だったプリメーラ昇格を決めることはできなかった。


ヘタフェとの昇格プレーオフ決勝第2戦に先発した柴崎岳(テネリフェ)

 ミックスゾーンのある記者室。取材に応じるために姿を見せたDFエルナンに寄り添いながら、テネリフェの地元記者は溢れてくる涙を抑えることができず、肩を震わせながら嗚咽していた。その部屋の外、スタジアムに設置されたスピーカーからは、プリメーラ昇格を決めた英雄たちの名前が誇らしげに告げられ、大きな歓声がマドリード郊外の街の市営スタジアムを包む夜空に消えていった。

 この日、スペインの首都マドリードには300人を超えるテネリフェサポーターたちが駆けつけていた。

 テネリフェは序盤に2点を奪われたが、17分、アイトール・サンスの縦パスから、柴崎が体勢を崩しながらもダイレクトで中へラストパスを送り出すと、そこにロサーノが飛び込みネットを揺らす。

 アウェーゴールにより、1点差での敗退ならプリメーラ昇格が決まる。テネリフェにとって値千金の得点だった。試合開始直後はヘタフェサポーターを凌駕する応援を見せながら、2点を先制されて意気消沈していたテネリフェサポーターに喜びと活力を与えたプレーは、水曜日の第1戦同様、日本人MFのラストパスからだった。

 だが、その歓喜は20分後のパチェコのゴールで消し去られた。

 3対1。ホセ・ルイス・マルティー監督は後半開始早々、プレーオフここまでの殊勲者である柴崎を下げてアーロンを投入した。

 交代を告げられた柴崎はサイドラインをまたぐと、かすかに両手を上げ拍手のようなポーズは見せた。だが、その視線は決してテネリフェサポーターには向けられていなかった。こみ上げてくる悔しさを押し殺すかのように、ただただベンチへと続く地面に向けられていた。

 この時点でテネリフェに残された時間は30分以上あった。前半は圧倒的なパフォーマンスを見せていたヘタフェの選手たちの足も止まり、アウェーチームがホームチームの陣地でボールを支配し、パスを繋いでゴールへと迫っていく時間が徐々に増えていった。日本人MFが得意とする高い位置でのつなぐサッカーだ。だが、その時間帯にはすでに背番号20はピッチの中にいなかった。

 主審が鳴らした試合終了の笛は、昇格試合の恒例である観客のピッチ乱入の合図となり、コリセウム・アルフォンソ・ペレスのグラウンド上は文字通り青色に染まっていった。そして憤慨するテネリフェサポーターは椅子を破壊しピッチに投げつけるなど、スタジアムの空気は混沌としたものとなった。

 身の危険を感じたテネリフェの選手たちが早々にロッカールームへと戻る中、柴崎はベンチの中から全く動かなかった。遮断された空間の中、何をしていたのか、どんな表情だったのかはわからない。そして数分後、キャプテンのスソとともに足早に姿を消した。

 それが、この試合で柴崎の姿を確認した最後の瞬間だった。ミックスゾーンに姿を見せることはなかった。ヘタフェ関係者に柴崎のことを聞くと、両手の人差し指を両目の端に持っていき、徐々に下へと指を落としていった。

 本当かどうかはわからない。だが、掴みかけていたテネリフェ、そして柴崎の夢であり目標であったプリメーラ昇格が、あと一歩のところでその手からこぼれ落ちてしまったという悲しい現実が残ったのは確かだった。