2023年のMotoGP開幕戦ポルトガルGPは、チャンピオンライダーのフランチェスコ・バニャイア(Ducati Lenovo Team)と三冠達成企業ドゥカティが、前評判どおりに死角のない圧倒的な強さを際立たせた週末だった。 対照的に、ホ…

 2023年のMotoGP開幕戦ポルトガルGPは、チャンピオンライダーのフランチェスコ・バニャイア(Ducati Lenovo Team)と三冠達成企業ドゥカティが、前評判どおりに死角のない圧倒的な強さを際立たせた週末だった。

 対照的に、ホンダとヤマハの日本メーカー勢は、これもまた開幕前から予想されていたとおり、苦戦傾向が白日の下に晒された格好になった。



開幕戦はドゥカティが前評判どおりの強さで勝利

 今年からMotoGPのレーススケジュールには大きな変更が施され、土曜午後にスプリントレースが導入されることになった。週末の娯楽性を高めることを目的に、日曜午後に行なう決勝レースの半分の周回で争う。

 スプリントレースはF1などですでに実施されているが、MotoGPの場合は毎大会行なうため、レースの数だけで見れば選手たちは大会数の倍のレースを走ることになる。今年は史上最多の21戦が予定されているので、日曜の決勝レースは21回、土曜のスプリントレースも21回で、計42レースが実施される計算だ。

 また、このスプリントレース導入に伴い、従来は土曜午後に行なわれていた予選が、土曜午前へ前倒しになっている。この予選で決定するグリッドポジションは、スプリントレースと日曜午後の決勝レース双方のスタート位置になるため、予選の重要度もさらに高まる。

 この予選では、ドゥカティ勢や進境著しいアプリリア勢が速さを見せていたが、ポールポジションを取ったのはマルク・マルケス(Repsol Honda Team)だった。

 午後のスプリントレースでもマルケスは3位に入る健闘を見せたが、「短い周回数のスプリントレースでは、(他陣営に対する)劣勢をブレーキングで埋め合わせてなんとか勝負できたけれども、このやり方では明日の25周の決勝レースは厳しくなると思う」と、自分たちの現在の戦闘力について正直に述べた。

【ヤマハはトップから8.5秒遅れ】

 このスプリントレースで勝利を収めたのはバニャイア。速さと強さと巧さが三位一体になった走りで、とにかく隙のない安定感が際立った。

 まったく危なげのないバニャイアの走りは日曜午後の決勝レースでも同様で、2番手のマーベリック・ビニャーレス(Aprilia Racing)が最後まで僅差で追走したものの、接戦のバトルに持ち込まれるような隙を見せることもなく、トップでチェッカーフラッグを受けた。

 レースを終えたバニャイアは「最後はタイヤが消耗しきっていた」と述べはしたものの、完璧な内容で勝てた週末を満足げな様子で振り返った。

「2023年モデルのバイクは、前年型よりも自分のライディングスタイルにとてもよく合っている。(開発やバイクの煮詰めも)いい方向に進んでいる。次戦からは、プレシーズンテストで走行していないコースで新フォーマットのレースを戦うことになる。そこでどれだけの違いが出るのかを見極めたい」



表彰台に立ったのは、左からビニャーレス、バニャイア、ベツェッキ

 2位に入ったビニャーレスも、最後までバニャイアに食らいついていいレースをできた、と述べた。

「ペコ(バニャイアの愛称)の背後で気持ちよく走りながら、序盤から後続を引き離すことができた。10周目にペコがさらにペースを上げたとき、ついていこうとして少しミスをしたので、落ち着くことを心がけ、終盤に備えてタイヤを温存しようと考えた。仕掛けようとしたけれどもペコは実にスマートな走りだった。今日のレースはトップ争いをできたのでよかった」

 ビニャーレス自身の満足感と同時に、バニャイアの隙のなさもよくうかがえるコメントだ。

 3位は最高峰クラス2年目のマルコ・ベツェッキ(Mooney VR46 Racing Team/Ducati)。ベツェッキは2022年モデルのマシンだが、それでこの好成績という事実に、現在のドゥカティの高い水準がよくあらわれている。

 実際に4位以下はドゥカティ、ドゥカティ、KTM、KTMと続き、ようやく8位に入ったヤマハのファビオ・クアルタラロ(Monster Energy Yamaha MotoGP)は優勝したバニャイアから8.5秒遅れ。クアルタラロは週末を通してトップ争いに手が届かず、開幕前には改善傾向の見えたヤマハだったが、レースウィークの本番で苦況が改めて浮き彫りになった格好だ。

【マルケスに大きなブーイング】

 一方、土曜午前の予選でポールポジションを獲得し、スプリントレースではバイクの厳しい戦闘力を技術でねじ伏せてなんとか3位に食い込んだマルケスはというと、この決勝レースで序盤に転倒を喫してリタイアとなった。

 単独の転倒ではなく、右へ旋回する3コーナーで直前を走行していたホルヘ・マルティン(Prima Pramac Racing/Ducati)に接触してオーバーランさせ、さらに地元ポルトガル出身ライダーで表彰台争いも期待されていたミゲル・オリベイラ(CryptoDATA RNF MotoGP Team/Aprilia)に追突して転倒させてしまったものだから、観客からはマルケスに大きなブーイングの声が上がった。



転倒したマルケスは右手を負傷して次戦欠場

「ブレーキング時にフロントタイヤがロックしたので、ブレーキをリリースして左へ向かおうとしたけれども、バイクは(旋回で)寝た状態のままで、右方向への動きを避けることができなかった。ミゲルとチーム、ファンには本当に申し訳なく思う。この過失で2回のロングラップペナルティが科されることになったけれども、その処分は当然のこととして受け入れる」

 ブレーキングで頑張る以外に勝負できる方法がない、と土曜のスプリントレース後に話していたことが、日曜の決勝レースでは見事なまでに裏目に出てしまった格好だ。

 6度のMotoGPタイトルを獲得してきたマルケスが、それほどの無理を強いられているのが現状のホンダのポテンシャルで、その無理がマシンの限界を超えて破綻した、ということでもあるだろう。

 マルケス以外のホンダライダーは、アレックス・リンス(LCR Honda CASTROL)が10位、ジョアン・ミル(Repsol Honda Team)が11位、中上貴晶(LCR Honda IDEMITSU)が12位で終えている。

 昨年の終盤3戦で2勝を飾ったリンスと2020年のチャンピオンライダー、ミルのレース結果がこの位置、というところにも、現在の欧州メーカーと日本メーカーの〈格差〉が象徴的にあらわれている。

【ホンダ移籍の河内効果は?】

 また、ダブルロングラップペナルティが科されたマルケスはというと、転倒で負傷した右手を手術し、次戦アルゼンチンGPを欠場することが月曜朝にチームから発表された。

 開幕戦は、プレシーズンから充分に予想されていたドゥカティやアプリリアの欧州勢と日本メーカーの戦闘力の差がおしなべて顕在化したレース、といえるだろう。

 ちなみに、昨年限りでMotoGPを撤退したスズキの技術監督だった河内健がホンダへ移籍してテクニカルマネージャーに就任したことは世界的に大きな注目を集めたが、走行が始まる前の木曜に河内はこんなことを述べている。

「僕が入ったからこのバイクの何かが劇的に変わる、なんてことはなくて、ホンダの皆さんが一所懸命作ってきたバイクを、今、皆と一緒にどうしようかと考え始めたところです。だから、それが形になっていくのはもっと先のことだと思います。シーズン中に改善を続けて、終盤戦にはしっかりトップ争いをできるようにしたい、と考えています」