●桁違いの緊張感のなか「まとめられた」 過去2回の世界選手権は直前に辞退者が出て代役出場だった友野一希(上野芝スケートクラブ)。自力でつかんだ3度目の世界選手権は、順位こそ前回と同じ6位だったが、満足感もある結果となった。 友野は昨シーズン…

●桁違いの緊張感のなか「まとめられた」

 過去2回の世界選手権は直前に辞退者が出て代役出場だった友野一希(上野芝スケートクラブ)。自力でつかんだ3度目の世界選手権は、順位こそ前回と同じ6位だったが、満足感もある結果となった。

 友野は昨シーズン、合計260点台を安定して出せるようになり、2月の四大陸選手権ではチャ・ジュンファン(韓国)に次ぐ2位。世界選手権は、羽生結弦の欠場で繰り上がった三浦佳生がケガをして、"代役の代役"として出場。それでもショートプログラム(SP)では自己ベストの101.12点で表彰台が見える出だしだった。

 だが今回のSPは、ミスが出た。冒頭の4回転トーループ+3回転トーループはしっかり決めたものの、練習で跳べていた2本目の4回転サルコウで転倒してしまった。

「サルコウには今シーズン、ずっと苦しめられていて。練習では決まっているから苦手意識だけかなと思うけど、(本番で)機械的にいきすぎたというか。もっと勢いに任せていってもよかったかなと思います」

 日本開催の世界選手権の緊張感は、想像以上だった。さいたまスーパーアリーナの試合は全日本選手権でも経験しているが、「桁違いだった」と友野は言う。

 公式練習から動きのキレはよく、準備は万全にできていた。ミスはあったものの、そのあとの滑りはしっかりとまとめて、得点は今季自己ベストの92.68点でSP7位。表彰台の可能性は少しだが残す発進となった。

「緊張感のなかでよくまとめられたなと思います。楽しみながら演技ができたし、失敗のあとも冷静に対応できた。

 今回は105点くらいを出す気持ちできていたけど、転倒があっての92点というのは高得点だと思う。その数字には自分の成長を感じました」

●会場を沸かせた気持ちの演技

 楽しさ半分、悔しさ半分だったSPを終え、「フリーはもっと調子がいいので切り替えて、自分のすべてを出せたらいいと思っています」と前を向いた友野。

 そのフリーは最終グループの6人を残した第3グループの最終滑走。上位選手たちに刺激を与える滑りを見せた。

 最初の4回転トーループ+2回転トーループは着実に決めた。しかし、SPでも「2本目のジャンプを失敗することが多いので......」と話していたように、次の4回転トーループは4分の1回転不足で転倒する悔しい結果になった。

 それでもSPで転倒した4回転サルコウを3.33点の加点をもらう出来で鮮やかに決めると、流れに乗った。3回転ループのあとのシットスピンとキャメルスピンは最高評価のレベル4。ステップシークエンスはレベル3ながらしなやかな滑りを見せた。

 次のトリプルアクセルからの3連続ジャンプは、最後の3回転サルコウが4分の1回転不足でわずかに減点されたが、流れを途絶えさせることなく、そのあとの3回転フリップ+ダブルアクセル、トリプルアクセルをしっかり決め、終盤の見せ場でもあるコレオシークエンスに移った。

「足は動いてなかったけど、気持ちだけは出しました」という滑りで観客席を一気に沸かせると、最後はコンビネーションスピンで締めくくった。

 フリーの得点は、これまでの自己最高を9点近く上回る180.73点。SPとの合計も前回大会を14点以上も上回る273.41点。

●史上最高の仕上がり

 そのハイスコアが、最終グループのジェイソン・ブラウン(アメリカ)やケビン・エイモズ(フランス)らのノーミスの演技を引き出し、280点台の熾烈な表彰台争いを演出したといってもいいだろう。

「2本目のジャンプはさすがに悔しかったし、言っていたとおりポイントになる2本目でしたね。でも、そのあとのサルコウは練習どおり。

 今回は今までのなかでも史上最高の仕上がりだったので、もっと飛躍したいなと思っていたけど、またひとつ上がっただけの点数だったので、本当に少しずつだと思いますね(笑)。

 それでも、ショートとフリーでひとつずつミスがあったなかでの自己ベストなので、そこは成長していると思う。全日本選手権の前くらいから少しずつ感覚がよくなってきていたので、やってきたことが間違いじゃなかったなと。

 仕上がりが少し遅かったというのはあるけど、世界選手権に間に合ったというのはよかった。毎年成長できているということを実感できました」

 2本のジャンプの転倒がなければ、13点以上は上積みでき、メダル争いにも絡めた結果だった。総合6位に終わった友野の世界選手権は、悔しさはありながらも次への希望も見える、貴重な大会になった。