サウジアラビアGPの決勝を終え、マシンを降りた角田裕毅はフェンスに寄りかかりながら、荒い息で悔しい気持ちを必死に抑えつつ言葉を選んだ。「とてもタフなレースでした。フラストレーション......。ずっと入賞圏内を走ってきたのに、そのポジショ…

 サウジアラビアGPの決勝を終え、マシンを降りた角田裕毅はフェンスに寄りかかりながら、荒い息で悔しい気持ちを必死に抑えつつ言葉を選んだ。

「とてもタフなレースでした。フラストレーション......。ずっと入賞圏内を走ってきたのに、そのポジションを維持する速さがありませんでした。残り4周でポジションを失って11位でレースを終えたので、これにはフラストレーションを感じます。それ以外にあまり言葉はありません......」

 フィジオセラピストに渡されたタオルで額に滴る汗を拭いながら、顔も覆った。



角田裕毅は2戦連続して11位でフィニッシュ

 あとわずかのところで、どうしてもほしかったポイントは指の隙間からこぼれ落ちていった。

 今年のF1は超激戦。トップ4チーム(レッドブル、フェラーリ、メルセデスAMG、アストンマーティン)が別格で、中団グループからはアルピーヌが頭ひとつ抜け出している。

 つまり、5チーム10台が入賞圏を埋め尽くし、残り5チームの中団グループには入賞のチャンスはほとんどない。そのうえ、中団勢が0.2〜0.3秒にひしめく大接戦だ。

 角田は予選でわずか0.01秒届かず16位でQ1敗退。金曜の苦戦を思えばまだマシとはいえ、チームとしては9番目か10番目のマシンという立ち位置は開幕戦の時と変わっていない。

 これは、角田としても覚悟していたとおりのことだった。

「Q2進出まで0.1秒差ですか? そんな僅差でQ2進出を逃してしまったのは残念ですけど、自分の力はほぼすべて出しきれたかなと思います。

 この2日間で学んだことはうまく改善につなげられたと思いますし、チームはいい仕事をしたと思いますが、コンスタントにQ2やQ3で争うためにはもっとグリップが必要です。それが僕らの現状ですし仕方がないので、これからどうなるかを見ていきたいと思います」

 決勝は16番グリッドからスタートし、ミディアムタイヤを堅実に保たせて第1スティントを引っ張った。

 前を行くハース勢は早々にピットインをして、撹乱作戦に出てきた。だが、それに動じることなくタイヤマネージメントに徹した角田の判断は正しかった。

【フロントタイヤを滑らせて...】

 18周目にセーフティカー導入となり、ここでピットイン。スロー走行中にピットストップを済ませることで約10秒を稼ぎ、気づけばピットインを済ませていたハース勢だけでなくアルピーヌ勢まで喰って8位までポジションを上げることに成功した。

 もちろんこれはセーフティカー導入という運も味方したが、その運を掴むことができたのは、角田がステディな走りでミディアムタイヤを労り、好ペースを維持して走り続けたからだ。

 運を掴むのにも実力が必要な世界──それがF1だ。

 リスタートから角田は果敢に攻め、アルピーヌ勢をなんとか抑え込んだ。しかし、本来のペースが格段に違う彼らを抑え続けることは難しく、2台に抜かれて10位へ。続くハース勢も純粋なペースでは敵わない相手だが、テクニックを駆使してコース上で抑え続けた。

 なかなか熱が入らず長いストレートで冷えてしまうフロントタイヤの熱を維持するために、ドライビングを変えて「フロントを滑らせて摩擦で熱を入れる」という手段まで使い、なんとかグリップを少しでも高めてコーナーでタイムを稼ぐ。ニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)のタイヤが先に音を上げて後退し、勝負はケビン・マグヌッセン(ハース)との一騎打ちになった。

 たった1席──ランス・ストロール(アストンマーティン)のリタイアによって空いた最後の入賞圏を巡る死闘。

 この入賞1ポイントが、中団グループにとってどれだけ大切な1ポイントかは、誰もがイヤと言うほど知っている。だから、その争いにも熱が入る。何度も仕掛けるマグヌッセンに対し、角田は巧みにポジションを守り続けた。

 レースが残り5周となった45周目の最終コーナーで、マグヌッセンは角田のインに飛び込んだ。

 角田はそこではあえて抵抗はせず、最終コーナーを立ち上がった先でDRS(※)を獲得し、メインストレートでその加速を使ってマグヌッセンを抜き返す。これでなんとか10位を取り戻した。

※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。

【AT04の実力は9〜10番目】

 10位を死守──そう思われた瞬間、マグヌッセンは角田のスリップストリームから再び、ターン1へ向けて鋭くインへとラインを変えて飛び込んできた。一瞬の隙を突かれた角田はブロックラインを取ろうとしたものの、時すでに遅し。ターン1へブレーキングを遅らせるが、マグヌッセンもそれ以上のレイトブレーキングで奥に突っ込んでくる。

 なんとかコース内にとどまったマグヌッセンは、ターン2でアウトに食い下がろうとする角田を押しのけて前に出た。

「ノーーーーッ!」

 無線に乗って届いた角田の悲痛な叫びは、ポジションを失った悔しさと、自分への怒りが入り混じって響いた。

 マシンを降りた角田は、ガックリと肩を落としながらもマグヌッセンの健闘を讃え、テレビカメラに向けては悔しさをにじませながらもチームを鼓舞するように前を向いた。

「最後の最後でポイントに手が届かなかったのには、とてもガッカリしています。でも、全力を出しきりましたし、マシンの性能を最大限に引き出すべく努力して、その結果としてポイント獲得ができそうなところで戦えたというのはポジティブな要素だと思います。

 ポイント獲得に必要なのは、あと0.2〜3秒なんです。(開幕戦の苦境から)ここまでのペースを発揮できていることには、とても満足しています」

 9番目か10番目のマシンでしかなかったAT04でも、チーム全員が完璧な仕事をすれば、ここまで戦える。クルマが改善できれば、もっと上が狙える。

 自分自身も、チーム全体も、間違いなく進化している。とりわけ、角田自身のF1ドライバーとしてのドライビング、そして立ち居振る舞いの成長は著しく、それは誰の目にも明らかだった。

 その手応えがあったからこそ、角田は前を向いた。

「こういう戦いを続けていれば、いつか今回よりも大きなチャンスが巡ってくることもあると思うので。それが巡って来た時には最大限に生かせるように、常にマシンの性能を最大限に引き出し続けて、チャンスを待つしかないと思っています」



第2戦を制したのはレッドブルのセルジオ・ペレス

 苦しいマシンで戦うこの開幕2戦の苦戦は、覚悟の上だった。しかし次戦、オーストラリアGPには待望のアップデートが入る。今年のアルファタウリはたとえ小さなものでも、毎戦のようにアップデートを投入し、マシンを進化させ続けていく計画だ。

 サウジアラビアで取りこぼした忘れ物を取りに、いざ南半球へ──。いよいよアルファタウリと角田裕毅の逆襲が始まる。