皆さんは「常に完璧に物事をやり遂げなければならないプレッシャーを感じる」や「ふとした時に自己嫌悪に陥っている」などの感覚はありませんか?自分でも気付かない間に完璧を過度に追い求めてしまう「完璧主義」が現代では急増しています。そこで今回は、…

 皆さんは「常に完璧に物事をやり遂げなければならないプレッシャーを感じる」や「ふとした時に自己嫌悪に陥っている」などの感覚はありませんか?

自分でも気付かない間に完璧を過度に追い求めてしまう「完璧主義」が現代では急増しています。

そこで今回は、完璧主義とアスリートのメンタルへの悪影響について解説し、効果的な完璧主義対策も紹介していきます。

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完璧主義者が蔓延する現代

「何でも完璧にこなそうとする」、または「完璧でなくては気が済まない」といった完璧主義者が、1980年代から今日まで急増していると現代の科学界では言われています。

これには多くの原因が考えられますが、現代では過去よりも社会的な競争力が増し、SNSを開くと他人との比較が容易となり、ニュースを開くと大会で結果を残した他のアスリートの情報が簡単に手に入る、など「完璧な他人」が近くに感じられるようになったことが理由にあげられるでしょう。

これらの原因から他人の目が異常に気になってしまい、完璧ではない自分に「こんな自分ではダメだ。」と自己批判をしてしまいがちな時代となっています。

「完璧を目指すことは良いことでは?」と疑問に思う読者の方もいらっしゃると思いますが、人間は常に完璧でいる事は不可能な上に、他人からの評価軸での「完璧」を求めてしまうようになるため、極度の完璧主義に取りつかれてしまうと、メンタル的にも負の連鎖に陥ってしまいます。

その一例として、海外論文では完璧主義とスポーツでのパフォーマンスに関する調査も行われています。プロゴルファー486人とアマチュアゴルファー233人の計719人を対象に行われた研究では、プロゴルファーの方がアマチュアゴルファーに比べて、完璧主義の度合いが低い傾向にあることが示唆されています。

この結果は、完璧主義の傾向が強いアマチュアゴルファーのほうが、完璧な結果を求めるため、ミスを極度に恐れ、自分へのプレッシャーが過度にかかってしまい、練習の成果を発揮する本番が脅威でしか無くなってしまうため、パフォーマンスが上がりにくいのではないかと考えられています。

これらの理由から完璧主義はアスリートのメンタル的には、あまり良くないとされています。他にも、強すぎる完璧主義に陥ってしまうと以下のような状態となってしまいます。

・自分の練習やタスクへの集中力が低下。

前述の通り、他人との比較が容易な時代である現代では、「他人よりも完璧でなくてはならない」といったプレッシャーが強まっているため、他人の評価や言動ばかりが気になってしまい、自分の練習ややるべきタスクへの集中力が低下してしまいます。

特に、極度の完璧主義者は科学的にみた性格特性ビッグファイブの1つである、誠実性(コツコツと練習に打ち込む等)も落ち込むことが分かっているため注意が必要です。

・新たな挑戦が恐怖となってしまう。

完璧主義者は、完璧を求めるがゆえにミスを異常に恐れるようになってしまいます。そのため、新たな挑戦が恐怖と化してしまい、チャレンジを避け、ミスの少ない現状維持に走ってしまいます。

セルフコンパッション

そこで、アスリートにとって有効な完璧主義対策は、セルフコンパッションです。セルフコンパッションとは、自分に対しての思いやりの事で、いつも責めてしまいがちな自己批判の態度を改め、慰めの言葉をかける事によって自らを励ましていく態度を養います。

他人が何か失敗をした際、多くの人は慰めの声をかける事が多く、批判的な声をかける人はあまりいません。しかし自分が失敗したとなると、なぜか人は批判的な声を自らに浴びせてしまいます。特に完璧主義の人は、その傾向が高いです。

そのため、完璧主義的な考えを持ってしまうアスリートの方々は、日常的にセルフコンパッションを行うことが重要です。

最初のステップとして、自己批判的な対応を自らに取っている完璧主義な自己を認識してみましょう。一歩引いて内なる声をどのように自分にかけているのか、再確認してみる事が大切です。

その後は、つい自分に浴びせてしまう批判的な言葉から、自らを思いやる言葉に変えていきます。「なんで自分はいつもダメなのだ。」と言っているところを、「あの点においては、良くなかったが、今日は昨日よりもこの点では良くなっている」、「完璧な人などいないよ。」など、より多面的に物事を考え、自分に思いやりのある言葉をかけることが大切です。

スポーツ界では、他人より速く、より強く、高い理想を掲げ、それに向かった努力を行っていくことが求められているため、他人と比較した完璧主義に陥りやすいです。

高い目標に向かって努力していく事はアスリートにとって重要ですが、完璧主義の罠に陥る事なく、より多面的に見た自分への思いやりを重要視してみると良いのではないでしょうか。是非参考にしてみてください。

参考文献:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7459616/

[文:スポーツメンタルコーチ鈴木颯人のメンタルコラム]

※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。

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一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会
代表理事 鈴木颯人

1983年、イギリス生まれの東京育ち。7歳から野球を始め、高校は強豪校にスポーツ推薦で入学するも、結果を出せず挫折。大学卒業後の社会人生活では、多忙から心と体のバランスを崩し、休職を経験。
こうした生い立ちをもとに、脳と心の仕組みを学び、勝負所で力を発揮させるメソッド、スポーツメンタルコーチングを提唱。
プロアマ・有名無名を問わず、多くの競技のスポーツ選手のパフォーマンスを劇的にアップさせている。世界チャンピオン9名、全日本チャンピオン13名、ドラフト指名4名など実績多数。
アスリート以外にも、スポーツをがんばる子どもを持つ親御さんや指導者、先生を対象にした『1人で頑張る方を支えるオンラインコミュニティ・Space』を主催、運営。
『弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉』『モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術』など著書8冊累計10万部。