開幕1カ月前に行なわれた2023シーズンのスーパーGT公式テスト。GT500クラスを戦う3メーカーが顔を揃えるなか、日産、ホンダ、トヨタの勢力図が徐々に明らかになってきた。 昨シーズンのGT500クラスを制したのは、15年ぶりにスーパーG…

 開幕1カ月前に行なわれた2023シーズンのスーパーGT公式テスト。GT500クラスを戦う3メーカーが顔を揃えるなか、日産、ホンダ、トヨタの勢力図が徐々に明らかになってきた。

 昨シーズンのGT500クラスを制したのは、15年ぶりにスーパーGTの舞台に帰ってきた日産「新型Z」。シーズン序盤から圧倒的な速さを見せつけて、3勝をマークして2015年以来となるシリーズチャンピオンのタイトルを獲得した。

 日産は長らく、ライバルのホンダやトヨタの後塵を拝していた。だが、見事な復活を遂げた勢いそのままに、2023シーズンもトップ争いに名乗りを上げてくることは間違いないだろう。


スーパーGTで

「NSX」の勇姿は今季が見納め

 しかし、日産の独走に待ったをかけるべく、ホンダも今シーズンに賭ける意気込みは強い。

 今年1月、ホンダは東京オートサロンでファンの度肝を抜くサプライズを用意していた。GT500に参戦するベース車両を2024年から「シビック・タイプR」に変更すると発表。それにともない「NSX」は2023年シーズンいっぱいで参戦車両としての使用を終了する。

 つまり、ホンダにとって2023年は「NSX-GTラストイヤー」。シーズンを最高の結果で締めくくるべく、ホンダ陣営はチーム体制を大幅にテコ入れしてきた。

 なかでも注目を集めたのは、スーパーGTで長年の実績を誇る「ARTA」と、スーパーフォーミュラのチャンピオンチームである「TEAM MUGEN」がタッグを組み、「ARTA MUGEN NSX-GT」として2台体制の布陣を組むことだ。8号車には野尻智紀と大湯都史樹、16号車には福住仁嶺と大津弘樹が乗る。

 さらにModulo NSX-GT(ナンバー64)には、伊沢拓也の相棒にルーキーの太田格之進が加入。そして昨年チャンピオン争いをしたSTANLEY NSX-GT(ナンバー100)には山本尚貴/牧野任祐、ASTEMO NSX-GT(ナンバー17)には塚越広大/松下信治と、体制変更なく今シーズに臨む。

【NSXで優勝争いできるとは...】

 2代目のNSXがスーパーGTに登場したのは2014年。当初は市販車のコンセプトバージョンをベースにした「NSX CONCEPT-GT」としてGT500クラスにデビューした。その後、2017年から「NSX-GT」として参戦し、昨シーズンからタイプS仕様の変更が施されている。

「NSX-GTにかけた努力は、かなりのものがありましたね」と語るのは、スーパーGTのホンダ陣営ラージプロジェクトリーダーを務める佐伯昌浩。2017年に就任して今年で7年目。「全然気にしていなかったけど、そんなに長い間(NSXを)やっているのか」と本人も驚いた様子だ。

 スーパーGTのGT500クラスは、2014年から原則として「コックピットの前方にエンジンを搭載しなければならない」ことになっていた。だが、NSXはベース車両最大の特徴でもあるミッドシップレイアウトを採用していたため、その差を埋めるためにサクセスウェイトとは別のハンデウェイトを積むという条件で参戦が認められていた。

「FRがベースの規則になっているなか、ハンデを背負ってミッドシップで参戦する形でしたので、『このハンデが正しいのかどうか?』という議論もありました。しかし参戦する以上、その状況でチャンピオンを獲りにいかなければならない。そこに対して『空力はどうする?』『エンジンはどうする?』という課題の解決には相当努力しました」

 NSX-GTで戦ってきたドライバーたちにとっても、このマシンには相当な思い入れがある。2014年のNSX CONCEPT-GTから開発ドライバーとしても貢献してきた山本尚貴も、NSXには語り尽くせないほどの思い出がある。

「振り返ると『大変だったなぁ』という感じです。特にNSX CONCEPT-GTの頃はハイブリッドシステムを搭載していたので、ほかのメーカーとは違う開発をしなければいけなかったし、そのなかでレースを戦わなければいけなかった。

 当時は伊沢選手と僕とで開発ドライバーをやらせてもらい、苦労もいっぱいしてきました。あれから9年くらい経ちましたが、あの時は『トップ争いやチャンピオン争いができる』とは想像できないくらい、正直かなり大変でした」

【非公式ながらコースレコード】

 NSXとともに歩んできた山本は、2018年にはジェンソン・バトンと、FR化された2020年には牧野任祐と組んでGT500クラスのチャンピオンに輝いている。

「このクルマに対してはどのドライバーよりも思い入れはあるし、イチから携わっているという責任と自負もあります。今のタイプS仕様で走るのも今年が最後。ここでチャンピオンを獲って、来年のシビック・タイプRにつなぎたいです」

 全日本スーパーフォーミュラ選手権で2021年と2022年に連続チャンピオンに輝き、国内現役ドライバーでは"最強"との呼び声も高い野尻智紀。2015年からGT500クラスに参戦している野尻を1人前のドライバーに育てたのも、このNSX-GTというクルマだ。

「(NSX-GTの思い出は)僕のなかでは『うまく走らせてあげることができなかったな』『あの時はもっとやれたよな』という思いが強くて......『うまく走らせてあげられなくて、ごめんなさい』という気持ち。このクルマを通して、成長させてもらってきました。

 優勝も経験させてもらいましたが、どちらかと言うと失敗のイメージが95%くらい。でも、おかげさまで(NSX-GTでの経験が)スーパーフォーミュラでの走りにも活きています」

 ホンダ関係者のみならず、スーパーGTを応援するファンにとっても、NSX-GTにまつわる思い出はたくさんあるだろう。

 そんなホンダを代表するレーシングカーのラストイヤーとなる2023年だが、開幕前公式テストのパドックでは「NSX-GTが速い!」との話題が飛び交っている。

 例年2月ごろからGT500クラスに参戦する各メーカーはプライベートテストを行なうのだが、シーズン開幕2カ月前にしてホンダ勢は好タイムを連発。3月初旬に行なわれた鈴鹿サーキットでのテストでもARTA MUGEN NSX-GT(ナンバー8)の大湯が1分42秒630をマークし、非公式ながらコースレコードを1.5秒も上回った。

【エースドライバーも手応え】

 3月11日・12日に岡山国際サーキットで行なわれた公式テストでも、ホンダ勢がライバルを尻目に上位を独占。テストのタイムだけで今季の実力を判断するのは難しいが、昨年チャンピオンのMARELLI IMPUL Z(ナンバー1)を駆る平峰一貴、ベルトラン・バケットともに「今年のホンダは速い」と口を揃えて話していた。

 公式テストの結果に対し、ホンダの佐伯LPLはこのように分析する。

「昨年からある程度いいクルマはできあがっていたと思いますが、各チームが(タイプS仕様のNSX-GTのクセなど)全部を理解するのに時間がかかりました。今年はこのクルマの理解が深まって、みんなが同じようなレベルのところまで持ってこられている。それが、周りから『ホンダが速いんじゃないのか?』と言われている要因かもしれません」

 シーズン前はいつも控えめなコメントの多い山本も、今年に関しては「調子はよさそう」と明言した。

「僕たちの強みは、毎年のように最終戦でチャンピオン争いに加われていること。この5年で2回チャンピオンを獲れています。『レースは最後まで何があるかわからない』のは骨身に沁みてわかっているつもりです。まずは開幕戦でスタートダッシュを決めつつ、チャンピオン獲得の権利を持った状態で最終戦に臨めるよう1年間しっかりと組み立てたいです」

 2021年はトヨタ、2022年は日産と、2年連続でタイトルを逃した悔しさは結果でしか晴らせない。2023年のホンダは「NSX-GTラストイヤー」を有終の美で飾ることができるか。