3月18日に開幕する第95回記念選抜高校野球大会(センバツ)。対面で行なわれた組み合わせ抽選会に続き、開会式も全選手が行進する。マスク着用を条件に観客の声出し応援も解禁され、PCR検査の義務化も廃止。ほぼコロナ禍以前と変わらなくなった。 …

 3月18日に開幕する第95回記念選抜高校野球大会(センバツ)。対面で行なわれた組み合わせ抽選会に続き、開会式も全選手が行進する。マスク着用を条件に観客の声出し応援も解禁され、PCR検査の義務化も廃止。ほぼコロナ禍以前と変わらなくなった。

 都道府県大会を勝ち上がる夏とは異なり、地区大会や明治神宮大会などほかの都道府県チームとも戦う秋は、試合数が多い。豊富なデータが集まるため、数字からチーム力をはかることができる。

 そのなかで、筆者が必ず調べるのがBB/K(四球/三振)、OPS(出塁率+長打率)、K/BB(奪三振/与四球)の3項目だ(※公表されているデータの都合上BBに死球も含める)。2019年の大会では3項目すべてでトップ10入りした3校のうち東邦が優勝、明豊がベスト4入りするなど上位進出する可能性が高く、優勝を予想するうえで見逃せないデータになっている。

 あらためて3項目を説明すると、BB/Kは打者のアプローチを評価する指標で、四球が選べて三振が少なく、選球眼とミート力を兼ね備えているかを表す。OPSは出塁率と長打率を足した数字で、打率や打点よりも打者の攻撃力を示しており、チーム得点との相関性が高い。K/BBは投手の指標で、数値が高い投手は奪三振が多く四死球が少ないため、投手としての完成度が高いといえる。



プロ注目のスラッガー、広陵の真鍋慧

【50連勝達成の広陵の実力は?】

 昨年は3項目すべてでトップ10入りしたのは3校あったが、今大会は1校のみ。そのチームが広陵だ。

 BB/Kが4位、OPSが10位、K/BBが10位。昨秋終了時点で通算49本塁打の今大会屈指のスラッガー・真鍋慧(けいた)、左腕・倉重聡、昨年、中井哲之監督就任後初の1年生エースとなった2年生右腕の高尾響と投打の軸がしっかりしている。14試合で11失策と守備力も安定。新チーム結成後は、昨秋の明治神宮大会決勝で敗れるまで練習試合、公式戦で50連勝を記録した。

 唯一の黒星となった神宮大会決勝では太陽が目に入り、打ちとった打球を捕球できず2年連続の準優勝に終わった。倉重が先発すると左打者が6人となる打線の左対策が課題だが、「今度こそ優勝」という気持ちは強い。

 広陵に続くのが、2項目でトップ10入りした大阪桐蔭、智辯和歌山、報徳学園、履正社、沖縄尚学の5校。このなかで順位をつけるなら、複数の好投手を擁する智辯和歌山、大阪桐蔭か。

 智辯和歌山は今大会ナンバーワンの投手数値を誇る。チームとしてのK/BB(3.82)もトップだが、おもに登板する左腕・吉川泰地、右腕・清水風太の2人に限定すると4.67にまで数字が跳ね上がる。

 今大会はK/BBが4を超えたチームが1校もない(昨年は6校)ため、この数字は突出している。OPSで9位に入った打線も昨秋の近畿大会で3試合連続本塁打をマークした中塚遥翔(はると)、高校通算30本塁打を超える青山達史を中心に6試合で7本塁打とパワーがある。

 昨秋の明治神宮大会王者で、センバツ連覇を狙う大阪桐蔭はドラフト1位候補の前田悠伍がどんな投球を見せるか。昨秋はわき腹を痛めた影響からか、制球を乱す試合もあり、K/BBは3.92(102奪三振、26四死球)。ともにドラフト1位指名された天理・達孝太が7.56(68奪三振、9四死球)、市和歌山・小園健太が6.15(80奪三振、13四死球)だったことを考えると物足りない数字に終わった。甲子園で本来の実力を発揮することができるか注目だ。

 打線はOPS.915。いずれも優勝した2018年は1.050、昨年は1.084だったことを考えるとやや小粒だ。それだけに、前田の奮起、さらには前田につづく南恒誠ら二番手以降の投手の踏ん張りが不可欠になる。

 この3校を追うのが、報徳学園と履正社。報徳学園はBB/Kが 12位、OPSが8位、K/BBが6位。プロ注目の強肩捕手・堀柊那(しゅうな)を中心に守りは堅く、12試合で8失策。187センチの大型右腕・盛田智矢も安定している。

 履正社はBB/Kが 13位、OPSが2位、K/BBが9位。チーム打率.401、10試合で9本塁打と破壊力満点の打線に加え、10試合で6失策の堅守を誇る。秋は大阪桐蔭戦、報徳学園戦で結果を残せなかったエース左腕・増田壮、秋はケガで出遅れた右腕・今仲巧ら投手陣の出来がカギを握りそうだ。

【昨夏の王者・仙台育英も虎視眈々】

 この5校につづくのが沖縄尚学と夏春連覇を狙う仙台育英。沖縄尚学は、秋は多彩な変化球を武器に好投したエース・東恩納蒼(ひがしおんな・あおい)がひと冬を越え、どこまでスケールアップしているか。打線は秋の公式戦で打率.676と打ちまくった1番の知花慎之助が引っ張る。

 仙台育英は昨夏の日本一に貢献した高橋煌稀(こうき)、湯田統真、仁田陽翔(にた・はると)の3投手が健在。3人とも145キロを投げる能力を持ち、投手陣は質量ともに大会随一。守りも11試合で4失策と安定している。秋はチーム打率.288と打線が物足りなかったが、こちらも優勝メンバーの橋本航河、齋藤陽(ひなた)、山田脩也、尾形樹人(みさと)らが残り、実力、経験ともに申し分ない。甲子園には仕上げてくるはずだ。

 関東王者の山梨学院はBB/Kが6位、OPSが7位。昨秋の公式戦で10試合4本塁打を放った高橋海翔、進藤天ら甲子園経験者5人が並ぶ打線は強力。昨秋は防御率3点台に終わったエース・林謙吾ら投手陣がどこまで奮起できるか。

 龍谷大平安はBB/Kが2位、OPSが3位で打率も.388と強打が光った。例年は守りのチームだが、珍しく攻撃型のチームでセンバツに臨む。

 このほかには、北大津を春夏通算6度甲子園に導いた宮崎裕也監督が就任してわずか2年で甲子園出場を果たした彦根総合(滋賀)は、ダークホース的な存在として注目したい。昨秋の近畿大会では大阪桐蔭を苦しめただけに、勢いに乗ると面白い存在だ。

【センバツ注目の選手たち】

 選手では、大阪桐蔭の前田とともに大会屈指の投手といわれる専大松戸の平野大地に注目。昨秋は肋骨を痛めて万全ではなかったが、試合をつくり、チームを甲子園に導いた。中学時代は控え捕手で投手歴はまだ3年。伸びしろ十分な最速151キロ右腕が甲子園で進化した姿を見せるか。

「木下達生コーチ(元日本ハム)の指導を受けたい」と、沖縄から愛知にやってきた東邦・宮國凌空(りく)も最速149キロを投げる右腕。昨秋は球速よりも制球を重視し、勝てる投球に専念した。甲子園ではどんな投球を見せるか。

 このほか、同じハーフのダルビッシュ有(パドレス)に憧れて東北高校に進学したハッブス大起、能代松陽・森岡大智の東北勢の右腕も注目。

 ハッブスは昨秋32回2/3を投げて15四死球と制球が課題。力任せにならず、佐藤洋監督から言われている「8割ピッチング」ができるかどうか。昨夏の甲子園で143キロをマークした森岡はK/BBの数値が4.42と30イニング以上投げた投手のなかではナンバーワンの数値を記録した。

 東海大菅生・日當直喜(ひなた・なおき)は190センチ、95キロの堂々たる体躯を生かしたスケールの大きな投球に期待が集まる。見た目のインパクトはないが、北陸を34年ぶりのセンバツに導いた右腕・友廣陸はゆるいカーブを巧みに使って打者を打ちとる。K/BBは4.38と森岡と遜色ない。

 打者では昨夏の甲子園で1年生ながら本塁打を放った二松学舎大付・片井海斗、PL学園で甲子園通算13本塁打をマークした清原和博さんを父に持つ慶応義塾・清原勝児、強肩が自慢の常葉大菊川・鈴木叶らに注目。

 今大会からタイブレークが従来の延長13回からではなく、延長10回からに変更された。延長までもつれれば、どうなるかわからない。新たなドラマが生まれるのか......球児たちの熱いプレーから目が離せない。