負傷に関するデータをまとめたドイツのサイト『FUSSBALLVERLETZUNGEN.COM』(FUSSBALL=サッカー、VERLETZUNGEN=ケガ)が、ブンデスリーガの2016-17年シーズンにおける負傷および疾病による離脱日…

 負傷に関するデータをまとめたドイツのサイト『FUSSBALLVERLETZUNGEN.COM』(FUSSBALL=サッカー、VERLETZUNGEN=ケガ)が、ブンデスリーガの2016-17年シーズンにおける負傷および疾病による離脱日数をクラブごとにまとめ、ランキング形式で公開した。


3月のバイエルン戦で負傷し、長期離脱したフランクフルトの長谷部誠

 もちろん、所属選手の数が多ければ多いほどこのランキングでは不利になるため、あくまで「ひとりあたり」の平均で比較されている。まずはその詳細をご覧頂きたい。

<2016-17年シーズン、各クラブひとりあたりの離脱日数>
※カッコ内は昨季の順位

1位:インゴルシュタット(3位)・・・・・・15.42日
2位:ホッフェンハイム(4位)・・・・・・28.57日
3位:ダルムシュタット(1位)・・・・・・31.57日
4位:ハンブルガーSV(14位)・・・・・・37.03日
5位:ライプツィヒ(データなし)・・・・・・37.29日
6位:フライブルク(データなし)・・・・・・40.98日
7位:マインツ(9位)・・・・・・47.02日
8位:ケルン(2位)・・・・・・48.79日
9位:バイエルン(18位)・・・・・・52.04日
10位:ヘルタ(11位)・・・・・・54.30日
11位:レバークーゼン(12位)・・・・・・57.02日
12位:シャルケ(17位)・・・・・・60.40日
13位:ヴォルフスブルク(8位)・・・・・・60.80日
14位:アウクスブルク(10位)・・・・・・62.66日
15位:ボルシアMG(15位)・・・・・・63.57日
16位:ブレーメン(13位)・・・・・・65.09日
17位:ドルトムント(5位)・・・・・・65.61日
18位:フランクフルト(16位)・・・・・・76.77日

 17位と18位には、今季のドイツサッカーの締めくくりとなるドイツ杯決勝に進出した、ドルトムントとフランクフルトが名を連ねている。しかし両者の差は大きく、フランクフルトはドルトムントに比べ、ひとりあたり10日以上も長く離脱していた計算になる。

 かかとの炎症で66日間を欠場したアレクサンダー・マイヤー、アキレス腱炎で70日間不在だったオマール・マスカレル、アキレス腱とふくらはぎ、そして太ももを負傷して計2カ月半を棒に振ったヘスス・バジェホらは、まだ少ないほうだ。

 右ひざにメスを入れた長谷部誠は計113日、腰の手術をしたヤンニ・レゲゼルは165日間、足首負傷のギュレルモ・バレラが207日間、前十字靱帯断裂と半月板手術の災難に見舞われたマルク・シュテンデラは314日間の離脱となり、昨年の5月に悪性腫瘍を摘出したマルコ・ルスは第23節で初のメンバー入り。ここで名前を挙げた選手の離脱期間を合算すると、約3年分の日数に匹敵する。

 一時はチャンピオンズリーグ(CL)本戦出場権を得られる3位に浮上し、前半戦を6位で終えたフランクフルトだが、第20節以降の15試合で白星を獲得したのは、第30節アウクスブルク戦のみだった。後半戦の大失速と負傷者の多さは、決して無関係ではないだろう。

 先述の順位表で見事首位に輝いたインゴルシュタットのチームドクター、フローリアン・プファブ教授は、ビルト紙にこう話している。

「体の中で弱い部分を見つけること、トレーニングの負荷を調節すること、予防のための処置をすること、選手にその意識を持たせること、そしてもちろん、栄養に気をつけることなど、我々は数年前からこれらケガの予防にかなり力を入れてきた」

 今や、どのクラブも選手の疲労度を数値化し、トレーニング負荷や試合出場時間を調整しながらケガの予防に努めている。しかし、フランクフルトのニコ・コバチ監督によれば、「選手たちは痛み止めを飲まなければプレーできない」のが現状だという。

 2月28日のドイツ杯準々決勝、アルミニア・ビーレフェルト戦を終え、彼は今まで暗黙の了解とされていた鎮痛剤の存在について、「もし、『プロサッカー界に痛み止めは必要ない』と考えている人がいるのならば、それはとてつもない勘違いだ。選手たちに求められているものは、あまりにも多すぎる。我々の選手に関して言えば、彼らの体はもう限界にきている。前半戦のメンバーのうち、半分の選手は離脱しているんだ。毎試合、ほとんどぶっつけ本番で臨まなければならないようなものだ」と嘆いていた。

 それから数日後、現役時代にドイツ代表の常連だった過去を持ち、現在はダルムシュタットで指揮官を務めているトルステン・フリンクス監督も、この発言を支持している。

「プロ選手の経験があり、今は監督をしている私の正直な意見を言おう。ニコ(コバチ監督)の言っていることは100%正しい。常に体をぶつけ合い、全速力で走っている時に地面へ叩きつけられるプロサッカー選手は、みんな少なからず痛みを抱えている。痛みがそこまで強くない時に、アスピリンなどの薬で乗り切ろうとするのは、今のサッカー界では極めてノーマルなことだ。しかし、健康への影響もある。服用するかどうかの決断は選手自身が下す必要があるが、自分の体のことを考えなければならない」

 ビルト紙によると、FIFAが行なった調査の結果、2014年のW杯ブラジル大会に出場した選手のうち、約70%が定期的に痛み止め等の薬を飲んでおり、2010年南アフリカ大会より10%も増加。しかも、ブラジル大会では約30%の選手が、毎試合ごとに鎮痛剤を服用して試合に臨んでいたという。

 無理もない。6月末~7月上旬に始動した選手らは、翌年の5~6月までリーグ戦、国内カップ戦、CLなどの欧州カップ戦、そして大陸をまたいで移動しながら代表戦もこなす。鍛錬に鍛錬を重ねたトップアスリートといえど、生身の人間である彼らの体が平穏無事なままであるわけがない。

 ドイツ通信社の取材に応じた薬理学者のフリッツ・ゼルゲル氏も「痛み止めを多く服用することは、決して支持できることではない。薬の乱用にほかならないからだ。副作用のことを何も考えていない」と、専門家としての立場から警鐘を鳴らしつつも、「試合に出るために痛み止めを飲んでしまう選手の気持ちは理解できる」とし、あくまで過密日程が問題の根源だと主張している。

 人工的に作られた”偽りの健康”を維持し続ければ、そこで生じたひずみはいつか必ず大きな反動となって、選手の体に表れてくるだろう。事実、鎮痛剤の定期的な服用は、軽いもので消化器系の不調を、重いものになれば潰瘍や肝機能障害、腎不全などを引き起こしてしまう可能性がある。また、痛みを抑えてだましだましプレーを続けることで、もともとは軽度だったケガが重傷になる恐れも多分にある。

 商業主義の潮流に飲み込まれつつある現代のプロサッカー界だが、その屋台骨を支えているのは選手たち。本来、最も重要視されなければならない彼らの体調が軽視されている現状は、やはり”異常”と言ってしかるべきだろう。