22年12月3日から1月28日の間、横浜市内で開催された「第3期 横浜スポーツビジネススクール」。横浜DeNAベイスターズが開催しているビジネススクールで、全5回に亘り行われた。 各回をお送りする連載企画の本編は第2回。前回は「チーム力向…

22年12月3日から1月28日の間、横浜市内で開催された「第3期 横浜スポーツビジネススクール」。横浜DeNAベイスターズが開催しているビジネススクールで、全5回に亘り行われた。

各回をお送りする連載企画の本編は第2回。前回は「チーム力向上に向けた取組み」で、グラウンド内における取り組みなどが中心のテーマであった。

第2回はベイスターズのビジネスにおける考え方や取り組みについてフォーカスした。

(取材協力:横浜DeNAベイスターズ、撮影 / 文:白石怜平)

ベイスターズが考えた新たな野球観戦の定義

第2回の前半で講師を務めたのは、ベイスターズのビジネス統括本部所属の原惇子さん。

大学時代にスポーツビジネスを専攻していた原さんは、健康スポーツ事業会社から広告代理店を経て14年にベイスターズに入社。かねてから熱望していたスポーツ業界への転職を果たした。

前半の講師を担当した原惇子さん

原さんはまず、ベイスターズが独自で考えた新たな野球観戦の定義を解説した。

本来、球場は”野球そのものを楽しむ場所”と考えられてきた。球場は野球好きのための場で、応援するチームの勝敗に満足度が左右される傾向が強かった。

ここから、ベイスターズは従来の価値観にとらわれない野球観戦の在り方を編み出し、それを発信していった。新たに定義づけたのは、

”野球を一度も体験したことのない人も含め、家族や友人・同僚と気軽に集まり楽しめる場”

”負けても楽しい。勝ったらなおよし”

”居酒屋感覚でも使える”

”家族サービスの場にもなる。接待にも使える”

この4点であった。この定義に向けて、球団として最も重要視していることを原さんは説明した。

「我々はチケットの売り上げを最大にすることだけではなく、”実際に球場に来場していただく”ことを重要視しています。

35,000人の方にスタジアムでグッズなどを購入いただく、スタジアムにある広告を見る、イベントの冠スポンサーのサンプリングをご利用いただく。球場に来場いただくことの価値を高めていきたいと考えています」

「I☆YOKOHAMA SERIES」開催におけるエピソード

球場により多くのお客様が来場し楽しんでいただき、この観戦定義を実現するため、「コミュニティボールパーク化構想」を掲げ様々な工夫を凝らしてきた。

球場内においては、多様な層が観戦できるようなシートを用意したり衛生環境を整えるなど改修を何年もかけて行ってきた。

小さなお子さんを持つ家族も安心して観戦できるようなクッション性の席を備えた「リビングBOXシート」や、職場の同僚など大人数で楽しめるために1つのカウンターに10リットルのビールサーバーが付いている「スカイバーカウンター」などが挙げられる。

「リビングBOXシート」(写真右)と「スカイバーカウンター」(同左:球団提供)

また、試合のイベントも幅広いファンに楽しめる内容を用意している。女性向けに開催している「YOKOHAMA GIRLS☆FESTIVAL」や子どもたちを対象にした「キッズSTAR☆NIGHT」、そして横浜夏の風物詩とも言える「YOKOHAMA STAR☆NIGHT」など毎年開催してきた。

もちろん、毎年同じことをしているだけではなく、常に新たなアイデアと工夫を凝らし続けている。

ここでは昨年行われた新たな取り組みとして、「I☆YOKOHAMA SERIES」を紹介した。

同シリーズは球団名を冠して30周年を迎えたベイスターズと、横浜F・マリノスがクラブ創設30周年を迎えたことを記念して行われたコラボレーションイベント。

昨年開催された「I☆YOKOHAMA SERIES」(球団提供)

このイベントの中核となるのが、両チームによるスペシャルコラボユニフォームだった。ベイスターズは6/28~6/30の阪神3連戦で、マリノスは6/25のJリーグ第18節 柏レイソル戦と、それぞれのホームゲームで着用した。

このユニフォームは、競技やリーグの垣根を越えた同じコンセプトを持つデザインとなっている。制作するにあたり、実現までの苦労を講義で明かした。

まず、両チームでユニフォームサプライヤーが異なることだった。デザイン会社も同様に異なるため、双方の調整を経て完全に同じユニフォームとするには様々なハードルがあった。

「完全に同じデザインは難しいということで、両チームで再度協議し、共通したコンセプトをそれぞれのデザイン会社様へ共有することで、双方で落とし込んでいただきました。その結果、極力似せたユニフォームになる形で着地しました」

同じコンセプトを持ったスペシャルユニフォーム(球団提供)

コンセプトのキーとなったのは、「海と港のまち」。横浜を象徴するレンガ調の街並みにも馴染みやすいネイビーが基調となり、アクセントとして横浜市花であるバラを表現したピンクを彩った。

また、普段使いのファッションとして日常生活に取り入れやすいスタイリッシュなデザインとなっているのも特徴となっている。

プロモーションにおいても、これまでにない新たな取り組みが行われていた。原さんは意図を語った。

「観戦する以外の方々にも広がりを見せるために、ファッションの1つとして、例えばランニングや買い物に行く時の一部にユニフォームなどがある世界観をつくりたいと考えました」

これまで行ってきた選手がモデルになり着用した形ではなく、「私服との着合わせ×ホームタウンを連想させる背景でのモデル起用」というスタイルのキービジュアルを採用した。

加えて、ユニフォームコンセプトの世界観醸成のための専用サイトの制作や、ユニフォームのプロモーション動画を両チームで共同でつくるなど、近年の欧州サッカー界のトレンドを参考にしたプロモーションを行った。

横浜を代表する2チームがタッグを組んだ取り組み、斬新なプロモーション企画による話題性などもあり、ユニフォームを始めグッズの売り上げ増にも貢献する企画となった。

さらにグラウンド内においても、このユニフォームはチームの2位躍進に欠かせないものとなった。

着用した3連戦は、サヨナラ勝ちを含む3戦全勝。イベント初戦である6/28は、球団記録である本拠地横浜スタジアムでの17連勝を記録した最初の試合でもあった。

選手たちからの要望も受け、9/11からの東京ヤクルト戦から再び着用するなど、縁起のいいユニフォームとしてファンにも強い印象が付いた。

志を持つ受講者に向けて「まず門を叩いてみてほしい」

約1時間弱の講義終了後、原さんに受講者の方々に伝えたかったことを改めて訊ねた。

「ベイスターズがビジネスとして現状どこのフェーズにいるのか。我々の目指してるものは球場で野球観戦をするにとどまらず、次のステップへ羽ばたいてさらに上を目指してるというのはお伝えしたかったです」

最後に受講生の方々へメッセージを贈った

この講座は、スポーツビジネス・エンタメ業界を志す方が受講している。ここで学んだ経験を活かしてほしいことについてはこう答えた。それは、自身が望み続けてきたステージに果敢に挑み続けたからこそ出た言葉だった。

「まだまだ門戸は狭い領域だと思います。ただ、そこで諦めるのではなく、まず門を叩いてみてほしいです。今は他の業界にいたとしても、中途で入って行けるルートが構築されつつあると思うので、自分の長所をしっかりつくり上げていただきたいです。

あとは入ってゴールではなく、みんなが”自分がここで活躍できる”ところまで成長していければ、我々の業界も発展していくと思います」

次代のスポーツに必要なのは”共創”

後半では、「スポーツから考えるイノベーション」をグループワークを交えて展開された。講師は上林功(いさお)・追手門学院大学社会学部スポーツスポーツ文化学専攻准教授 / 株式会社スポーツファシリティ研究所代表。

上林氏は、設計事務所に所属していた時に「兵庫県立尼崎スポーツの森水泳場」「広島市民球場(Mazda Zoom-Zoom スタジアム広島)」などを担当してきた。17年にはベイスターズのファーム施設基本構想にも携わっている。

「スポーツから考えるイノベーションについて登壇した上林功氏

上林氏はワークショップの前に講義を実施。ここでは、今後のスポーツ界に必要なのは”クリエイティビティ”だと語った。その根拠を話した。

「スタジアムを設計している中で、マツダスタジアムでは何が一番良かったかというと、“壁(枠組み)”を取り払ってまち全体に波及効果があったことです」

ベイスターズはこの”枠組みを”超えた創造について、すでに5年以上前から描いていた。

「当初コミュニティボールパーク化構想を出すときに、外野スタンドから抜けて大通りに抜けていくイメージ像を描いていました。スタジアム⇆まちというのを考えた時に、枠組みを取り払ったクリエイティビティ、それもみんなで一緒に創る”共創”が必要になってきます」

上林氏が語ったかつてのスタジアムのイメージ(球団提供)

この”つくる”ことに加え、特にみんなで一緒に行う”共創”という概念は、2010年代の前半から中盤ごろにかけて社会に浸透してきた。この共創が浸透するあたりから率先して行っていたのがベイスターズだと上林氏は語った。

「具体的に何をしたかと言うと、17年に横浜スタジアムの隣に場所を作ったんです。それが『THE BAYS』です。僕も当時参加者だったのですが、南場オーナーらも参加して学生たちとこの場所でワークショップをやっていたんです」

それが同年6月と7月に行われたハッカソン「超☆野球」。様々な技術を活用して、今までの野球を超えた新しい野球を創り出すことを目的に、参加者間でアイデアを出し合い開発するワークショップを開催していた。

技術者や大学生・ベイスターズファン約40名が集まりし、現オーナーの南場智子氏や現球団社長の木村洋太氏も参加したイベントだった。

「青く光るデバイスを開発して、持っているファン同士が球場など集まる場所で光が大きくなっていくのはどうだろうというアイデアがあって、『面白い、やりたいですね』と。

たくさんの人が意見を交わしながら、その中でアイデアを作る。これがイノベーションを起こす大切な要素です。とにかくたくさん集めて1つキラ星を見つけるんです」

これらの講義を踏まえ、残りの時間はワークショップで「ボールパークをみんなでどう創り上げていくか」のアイデア出しなどを行っていった。

講義後はワークショップを実施した

上林氏は第1期から講師を務めている。ベイスターズのこれまで行ってきた様々な取り組みについてこう語った。

「野球に限らずプロリーグはたくさんありますが、全部含めてベイスターズの取り組みは最も先進的だと思います。まずどこよりも先に共創スペースをつくり、ファンとともに地域をつくっていく点もそうです。

それをまちづくりへの展開に繋げているのは、全国でもここしかないんです。これからもトップランナーとして頑張っていただきたいと思っています」

ワークショップでも多くのアイデアが生まれ、発表も活気で溢れた。次の回では、「スポーツ×まちづくりから見る、コンテンツの活かし方」をテーマに第3回が開催された。

(つづく)