「ちょっとビックリしてますね、ここまで遅いとは思っていなかったんで」 バーレーンGPの金曜フリー走行を18位で終えた角田裕毅は、愕然とした表情で語った。 1週間前のテストではQ3も争えると思っていただけに、チームとして9番手・10番手を争う…

「ちょっとビックリしてますね、ここまで遅いとは思っていなかったんで」

 バーレーンGPの金曜フリー走行を18位で終えた角田裕毅は、愕然とした表情で語った。

 1週間前のテストではQ3も争えると思っていただけに、チームとして9番手・10番手を争う位置でしかないという現実を突きつけられたショックはあまりに大きかった。



角田裕毅の開幕戦は11位でフィニッシュ

「ロングランで一緒に走っていた周冠宇(アルファロメオ)と比べて、特に大きく差が感じられたのはトラクションでしたし、それは予選アタックでも効いてくるので、そういうところは改善したいですね。課題となっているものが大きすぎて、それをうまく改善してまとめ上げられるかわかりませんけど......」

 だが、これはセットアップ面で攻めたトライをした結果だったと、エンジニアリングディレクターのジョナサン・エドルスは語る。

「テストで収集したデータを分析して、さらに前へと進めたセットアップをフリー走行でトライしたんだ。しかし、前に進めすぎたことがわかった。だから土曜に向けて、またセットアップを元に戻すことでマシンバランスの問題は改善した」

 ただしFP3は暑い昼間に行なわれるため、予選の涼しいコンディションでマシンがどうなるかはぶっつけ本番のような状態だった。

 だから、アルファタウリ勢はQ1から3セットの新品ソフトタイヤを投入して、3回のアタックランを行なった。10チームで唯一の"捨て身の戦略"が、いかに彼らが追い詰められていたかを物語っていた。

 そのなかで、同僚のニック・デ・フリースは最終アタックをまとめきれず19位。それに対して3回のランともにタイムを縮めていった角田は8番手タイムでQ2進出を決めた。まさにチームの狙いどおりの結果だった。

「予選での自分のパフォーマンスには満足しています。Q2に行けるとはまったく思っていなかったので、最初からQ1で3セット投入することは決めていたんですけど、Q1での8番手タイムはすごくポジティブな結果でした。Q2では新品タイヤがもう残っていなかったので厳しかったですが、全体としては非常にポジティブな予選だったと思います」

【もっとグリップがほしい】

 Q2の角田は、新品タイヤでアタックできず14位。しかし、Q1のタイムはQ3まで0.273秒差であり、路面の向上を考えれば、新品タイヤがあればQ3進出争いができていたはずだった。つまり、テストの時の手応えは間違ってはいなかったということだ。

 そして、苦しい状況のなかで角田がミスなく、マシンとドライバーの全力を出しきったことが、この結果につながった。

 予選14位という結果を手にすることはできたが、ラップタイムで言えば、アルファタウリは9番手のチームだった。アルピーヌやハースとの差は0.4〜0.5秒と大きく、マクラーレン、アルファロメオ、ウイリアムズの4チームが中団第2グループを僅差で争っている状況だ。

 だからこそ角田はこの状況に満足するのではなく、改善すべき点を指摘した。

「ここまで挽回できたのはよかったです。でも、その前のプロセスとしてギリギリの戦いを強いられたので、もっとその前からペースを見つけて自信を持ってQ1に臨めるようにしたいと思います。

 単純にグリップが足りないという感じです。マシンバランス自体はいいんですけど、もっとコーナリングスピードをキャリーするために、とにかくもっとグリップがほしい」

 決勝は苦しいなかでポイント獲得を目指す戦いになったが、角田はスタートで出遅れて2台のウイリアムズ勢に先行を許してしまった。

 アルファタウリは2台揃って発進加速が鈍く、クラッチの設定かタイヤのウォームアップに問題があった可能性が高い。そのため1周目の競争力が乏しかったのだ。

 ペースは角田のほうが速かった。だが、ロードラッグでストレートが速いウイリアムズをなかなか抜くことができない。

 1回目のピットストップでローガン・サージェントをアンダーカットしたが、アレクサンダー・アルボンが前に立ちはだかる。また、予選で後方に沈んだが純粋な速さがあるアルピーヌのピエール・ガスリーに先行された。だが、アルファタウリは彼とは戦わず、アルボン攻略だけを考えていたとエドルスは説明する。

【角田は最後まで冷静だった】

 その結果、想定よりもかなり早い25周目にガスリーが2回目のピットストップでアンダーカットを仕掛けてきた。アルボンと角田はこれに反応して26周目に同時にピットインすることになり、角田はアンダーカットのチャンスを失ってしまった。

 VSC(ヴァーチャルセーフティカー)が入った40周目にピットに飛び込み、ソフトタイヤに履き替えた。ここからアルボンとの3.5秒差を毎ラップ0.1〜0.3秒ずつ、じわりじわりと、しかし着実に縮めていった。

 そして53周目、いよいよDRS(※)圏内に入り、ギャップは0.5秒まで縮まった。

※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。

 ただ、それでもウイリアムズはストレートが速く、最後にタイヤのグリップを残していたアルボンは巧みに決定機を作らせない。

「僕がコーナーで近づいても、ストレートの速さで彼に離されてしまいました。DRSが使えない状況で約12km/hもウイリアムズより遅かったので、その差は大きかった。

 自分はミスなくプレッシャーをかけ続けて、アルボンがミスをすればそこを突こうと考えていました。でも彼もミスをすることはなかったので、抜くことができませんでした。次はミスを待って抜くのではなく、クルマのペースの差で抜けるようにしたいです」

 今までの角田なら、フラストレーションを溜めて集中力を失いそうな場面はいくつもあった。しかしレース序盤から最終盤まで、角田は冷静に、そして完璧なレースをしてみせた。マシンのすべてを出しきったと言えた。

 それでも角田は「ポイントが獲れなくて悔しいです」と語り、マシンの改善が急務だと訴えた。レース後にはテクニカルディレクターのジョディ・エジントンと個人的に話し合い、マシン開発の方針について訴える場面も見られた。

「レース週末が始まった時点では9番目のチームで、フラストレーションも溜まりましたけど、3日間を通してやってきたことがいい結果につながったと思います。クルマの理解も進みましたし、今後のアップデートに期待したいと思います」



開幕戦を制したのはレッドブルのフェルスタッペン

 今年のアルファタウリは毎戦のように小さなアップデートを次々と投入する計画を立てており、現状の課題であるダウンフォース増大をさらに進める予定だ。

 最後に角田はチームメンバー全員とグータッチを交わして、パドックをあとにしていった。その背中には、昨年までとは明らかに違うチームリーダーとしての自覚が感じられた。