今季ア・リーグ西地区で首位を快走するアストロズ。2005年以来となるワールドシリーズ出場、そして悲願の初制覇に向けて好位置につけている。アストロズの強みと言えば、何と言っても爆発力のある打線だ。チーム打率(.279)は30球団トップで、チー…

今季ア・リーグ西地区で首位を快走するアストロズ。2005年以来となるワールドシリーズ出場、そして悲願の初制覇に向けて好位置につけている。アストロズの強みと言えば、何と言っても爆発力のある打線だ。チーム打率(.279)は30球団トップで、チーム本塁打(106本)、チーム打点(350点)は5傑入り。一方で、昨季までの課題だった三振の多さは影を潜め、レッドソックスと30球団最少を争うほどに減った。

■MLBで指導者として手腕発揮、元中日助っ人がNPB発展へ「外国人枠撤廃」提言

 今季ア・リーグ西地区で首位を快走するアストロズ。2005年以来となるワールドシリーズ出場、そして悲願の初制覇に向けて好位置につけている。アストロズの強みと言えば、何と言っても爆発力のある打線だ。チーム打率(.279)は30球団トップで、チーム本塁打(106本)、チーム打点(350点)は5傑入り。一方で、昨季までの課題だった三振の多さは影を潜め、レッドソックスと30球団最少を争うほどに減った。

 好調アストロズ打線を今季から支えるのが、1990年代に中日で活躍したアロンゾ・パウエル打撃コーチ補佐だ。1992年から7年にわたり日本球界でプレーし、中日時代の1994~96年には外国人選手として初の3年連続首位打者を獲得。5年連続で打率は3割を超えるなど“優良外国人選手”として大活躍した。

 アメリカ合衆国はもちろん、プエルトリコ、ドミニカ共和国、ベネズエラ、キューバ、日本と多国籍なアストロズで打撃コーチ補佐を務めるにあたり、日本球界で“外国人選手”としてプレーした経験が大いに生きているという。特にアメリカ人以外の選手に、自身が日本で学んだ「我慢強く諦めない」ことの大切さを、実体験として伝えられるからだ。

「同じスポーツではあるけれど、やっぱり野球とベースボールの違いはあった。それと同じように、キューバでの野球とアメリカの野球にも違いはあるだろうし、ベネズエラやドミニカ共和国の野球とアメリカの野球、あるいはメジャーとマイナーの野球にも違いはあるだろう。

 新しい環境に置かれた時、すぐに結果が出るのは稀なこと。研究と練習を繰り返しながら、我慢強く諦めずに続ければ、徐々に結果に現れてくる。コーチとしてはもちろん、海外でのプレー経験を持つ先輩として、伝えられることは何でも伝えていきたいと思っているんだ」

■MLBで指導者として生かす故・大豊泰昭氏の教え

 自分で得た技術や知識を“起業秘密”として独り占めせず、仲間や後輩に伝えながら互いに高め合うことの大切さを学んだのも、日本だった。中日に入団当時、ロッカーが隣だった故・大豊泰昭氏が、外国人選手のイロハを教えてくれたという。

「一生懸命に練習すること。諦めないこと。よきチームメイトであること。大豊さん自身が、中日というチームに溶け込むために心掛けたことを、いろいろと教えてくれたんだ。打撃についてもアドバイスをくれたし、球場を離れても本当によく面倒をみてくれた。2015年に亡くなったという連絡を受けた時には、本当にショックで……」

 球場内外で惜しみないサポートを続けてくれた大豊氏に感化されたパウエルが、2001年を最後に現役を退いた直後から指導者の道を歩み始めたのは自然の流れだったのかもしれない。日本球界から監督就任の要請があれば、もちろん快諾するつもりだが、同時に「選手として果たせなかった唯一の後悔」という「ワールドシリーズ制覇」をメジャー球団で経験したい想いも強い。日本で優勝する難しさも知っているが、「やはり世界最高峰リーグはメジャー」と断言する。

■NPBの「外国人枠撤廃」訴えるパウエル氏、その意図とは…

「メジャーは世界からトップレベルの選手が集結する場所。やはり、そこで頂点に立つことが目標なんだ。

 メジャーは年々レベルが上がり、より質の高いプレーが生まれている。その1つの理由は、外国人選手の登録枠を設けず、門戸が広く開かれていることにあるだろう。アメリカ国籍を持たない選手でも、才能さえあれば、何人でもメジャー登録できるし、出場ができる。そういった健全な競争が、メジャーの質とレベルを支えている。

 日本の野球には大きなリスペクトを抱いているが、やはりレベルとしてはメジャーに劣ると言わざるを得ない。日本プロ野球のレベルアップを図り、より球界を盛り上げるためには、外国人枠を撤廃した方がいいんじゃないかと思うんだ。外国人選手が増えれば、日本人選手もそれに負けじとレベルアップに努め、互いに切磋琢磨するいい循環が生まれる。必然的にリーグのレベルが上がる。

 自分も含め日本でプレーする外国人選手は、メジャーとマイナーを行き来する選手がほとんど。だけど、幅広く門戸を開いてリーグのレベルアップにつながれば、メジャーに定着する選手も日本行きを希望するようになるだろうし、逆にメジャー行きを選択しない日本人選手も増えるのではないかと思うんだ」

 年間1兆円以上の利益を上げる一大産業に発展したメジャーと対照的に、現状維持が精一杯の日本プロ野球界。スポーツとしてもビジネスとしても、日本球界がメジャーとの差を縮めるためのヒントが、元助っ人選手の提言に隠されているのかもしれない。

佐藤直子●文 text by Naoko Sato