「日本は全体として、セカンドボールへの意識を高める必要がある。ただ、それは選手のポジション的優位を高めることと同義。率直に言って、直前の(テストマッチ)シリア戦の内容を改善できなかった」 ロシアワールドカップアジア最終予選、イラク戦の日…

「日本は全体として、セカンドボールへの意識を高める必要がある。ただ、それは選手のポジション的優位を高めることと同義。率直に言って、直前の(テストマッチ)シリア戦の内容を改善できなかった」

 ロシアワールドカップアジア最終予選、イラク戦の日本代表を分析したミケル・エチャリは端的に指摘している。


イラク戦で、去年11月のオマーン戦以来の先発出場となった本田圭佑

 エチャリは現在、バスク代表(FIFA非公認)監督を務める。リーガエスパニョーラの古豪、レアル・ソシエダで、20年近くに及び強化部長、育成部長、ヘッドコーチ、セカンドチーム監督、戦略担当などを歴任してきた。鋭い洞察力で「ミスター・パーフェクト」と呼ばれ、ホセバ・エチェベリア、ハビエル・デ・ペドロ、シャビ・アロンソら世界的選手を発掘。また、監督ライセンスを与える立場として、ファンマ・リージョ、ウナイ・エメリ、ガイスカ・ガリターノら指導者の”弟子”も多い。

「イラク戦は、リアクション重視の戦略だったのだろう。しかし、長谷部(誠)、香川(真司)の不在の影響が出たのか、速い攻撃は影を潜め、相手の優勢を許した」

 スペインの慧眼(けいがん)が、世界標準で見たハリルJAPANの実像を明らかにする。

「日本は4-2-3-1で試合をスタートしている。テストマッチのシリア戦は4-3-3だったが、こちらを選択せざるを得なかったということか。やはり、長谷部不在の影響があるだろう。

 序盤、2列目の本田(圭佑)、久保(裕也)、そしてトップ下の原口(元気)が連係。主導権を握り、相手に自由なプレーを許さない。トップの大迫(勇也)とボランチの遠藤(航)、井手口(陽介)が縦に軸を通し、イラクを自陣に入れなかった。

 右サイドを中心にコンビネーションが生まれる。本田が時間を作って、酒井(宏樹)がスペースに抜け出し、パスを受けるとゴールラインからニアポストに入った大迫のシュートをアシスト。さらに右サイドでボールを回してから大迫にくさびが入り、反転からボールがこぼれるも、エリア内で原口がシュートを放ち、これが右CKとなる。一連の攻撃は目を見張るものがあった」

 そして7分、そこで得た右CKを本田が左足でインスイングのボールを蹴り、ニアポストで大迫が沈める。

「大迫はいち早く落下点を予測し、ファーポストにヘディングを沈める、すばらしいゴールだった。日本は悪くないスタートを切ったと言える。イラクにプレーの質の高さを見せつけた」

 ところが、先制点を奪ってから、日本は攻守で安定感を欠いた。

「先制後、日本は戦略を変更している。ラインを下げ、プレッシングは消え、受け身になってしまった。試合のイニシアティブを失った(捨てた)のである。

 これによって、イラクが息を吹き返し、ボールをつなげるようになる。イラクの選手たちが落ち着きを取り戻し、ボールを回し、攻撃を展開。ポジショニングがよくなって、ことごとくセカンドボールを拾い始める。左MFのカミルがボランチと連係することで、質の高いボールを供給し、イラクが主導権を握り返した。

 そして後半になると、日本はリスクを恐れて長いボールを蹴るだけになってしまう。空中戦はイラクに軍配が上がった。こうして局面で後手に回ったことで、日本は持ち味としてきた速い攻撃も繰り出せなくなった。

 もっとも、日本はいくつかチャンスを創っている。57分、長友(佑都)が左サイドを攻め上がって、ゴールラインからマイナスのボールをゴール正面の原口に折り返すが、コントロールが乱れた。64分には、本田が中に入って、酒井が外を駆け上がり、大迫の決定機を創っている。本田、酒井のコンビネーションは数少ない収穫だったと言えるか……。しかし、日本の攻撃は単発で、全体的にイラクに押し込まれた」

 ハリルJAPANの失点は必然に近かったと言えるだろう。

 72分、遠藤がインターセプトを狙い、距離をつめると、その裏をかかれてパスを通され、DFラインが攻撃に晒される。身体を投げ出し、どうにか事なきを得たかと思われたが、GK川島(永嗣)と吉田(麻也)が一瞬”お見合い”したところをつつかれ、カミルに押し込まれた。

「川島と吉田の連係ミスだ。率直に言って、言い訳のできないミスだろう。しかし、試合の流れとしては驚きはない。

 失点後、日本が決定機を創り出せなかった事実は深刻だ。終了直前のロングスローを、エリア内で吉田が落としてから本田がシュートしたのが限界。前線は、ダイアゴナルに走る動きを増やす必要がある。それに合わせ、サイドバックもより高い位置を取るべきだ」

 そう言ってから、エチャリは試合を総括してこう繰り返した。

「全体として、セカンドボールの意識を高める必要がある。ただ、それは選手のポジション的優位を高めることと同義なのだ。イラク戦は、選手間の距離が悪かった。これでは戦術は機能しない。

 暑さなどの影響もあるだろうが、奪ってから攻撃に移るトランジションも、本来のものではなかった。また、采配としては、後半に今野(泰幸)、倉田(秋)を入れても何も好転しなかった点はマイナスだろう。しかしアウエーでポイントを稼いだ点は悪くはない。残り2試合、幸運を祈る」
(イラク戦の選手評価に続く)