角田裕毅の目が変わった。顔つきが変わった。身体つきが変わった。 2023年シーズンの開幕を前に、久しぶりに会った角田のあまりの変わりぶりに驚いた。「随分、格好よくなったね」と言うと「本当ですか!?」とうれしそうに照れ笑いし、「よく言われま…

 角田裕毅の目が変わった。顔つきが変わった。身体つきが変わった。

 2023年シーズンの開幕を前に、久しぶりに会った角田のあまりの変わりぶりに驚いた。

「随分、格好よくなったね」と言うと「本当ですか!?」とうれしそうに照れ笑いし、「よく言われます(笑)」とジョークで返す無邪気さは変わらない。しかし、レースの話をしている角田の表情も雰囲気も、すべてが今までとは違っている。



角田裕毅の目、顔つき、身体すべてが変わった

 特にトレーニングを変えたわけではないと言う。だが、新たなフィジオセラピストのマイケル・イタリアーノ(元ダニエル・リカルド担当)と組んでドバイでトレーニングを積み重ね、ジムでの通常トレーニングはより詳細に行ない、ワーク量全体も増やししたという。

「僕は怠け者でトレーニングが嫌いでしたし、正直言って今もトレーニングは嫌いです。だけど去年、F1でパフォーマンスを上げるためにはアスリートとして向上することがとても重要だということがわかった。そこは大きな変化でした。

 1年目に比べればトレーニング量は各段に増えていますし、今では少なくとも週に6日はトレーニングをしたいと思っています。トレーナーに『もっとトレーニングをさせてくれ』と頼むこともあります。それは今までレースをやってきて一度もなかったことです。そういうメンタリティの変化が大きかったように思います」

 ニック・デ・フリースが加入したことで、新人とはいえFIA F2、フォーミュラEで王座を獲得し、メルセデスAMGでリザーブドライバーを務めるなど技術的知識が極めて豊富な彼の存在は、角田にとっても大きな刺激になったようだ。

 昨年のアブダビGP後のテストでデ・フリースは詳細な技術フィードバックをもたらし、チーム改革のためにやるべきリストを提示したという。

 しかし、角田はチームリーダーとしてアルファタウリを牽引する役割は自分が担うべく、フィードバックの強化もさることながら、エンジニアとの間でもよりドライバーの意見を反映させるような意思決定のプロセスにシフトし、なにより結果を出してチームからの信頼を勝ち取ることを最重要課題に据えている。まさにピエール・ガスリーがチームの中心的存在となったようにだ。

【角田に漂う一流のオーラ】

 そのためには、契約交渉や身の回りの雑務にわずらわされることなく、レースだけに100%集中する環境作りが大切だということにも気づいた。そのため角田はマネージメント体制の強化を図ってきている。

「去年も、契約更新するとかしないとかいう話が出てきた時に焦って、自分のパフォーマンスを出しきれていない部分もありました。今年はマネージャーもいて心強いサポートを得たことで、そういった部分はなくしていきたいと思っています。自分のなかで何がよくなかったのかを見つめ直して、特にレースのシチュエーションのなかでポイントが取れる・取れないの見極め方がもっとクリアになっているので、よくなっていると思います」

 チームとのつき合い方やメディア対応など、過去2年間にはなかったマネージャーからのアドバイスによって随分と変わった。

 レースに100%集中するために周りの環境を整える努力をし、レースで100%実力を発揮するためにトレーニングもエンジニアとの関係強化も努力してきた。自分にやれるかぎりのことをやり尽くし、これ以上なく努力しているという自負が、角田に自信を与えているのだと感じられる。

 F1のような世界でトップドライバーを取材していれば時折出会う、努力をし、結果を出している人間特有のオーラというものが、角田からも感じられるようになった。

 実際、3日間のバーレーン合同テストで一発の速さでも、ロングランでも速さを示したのは、角田のほうだった。

「去年の開幕前のクルマに比べると大きくインプルーブしています。主に中高速域でのダウンフォース量が増えたことですね。昨年型マシンは高速コーナーでスライドしまくっていたのが大きなリミテーションになっていましたけど、そこは間違いなく改善しています」

 昨年型マシンの最大の欠点だったダウンフォース不足はしっかりと改善され、バーレーンのターン12も簡単に全開で行けるようになった。

【開幕前テストでは総合6番手】

 欠点が解消されたからこそ、昨年型マシンのなかでは「長所」とされていた低速コーナーの速さでさえ物足りなくなってきたほどだ。

「低速域でのマシンバランスがまだ不安定なので、そこの最適なバランスを見つけられればと思います。中高速域は間違いなくよくなっているので、高速コーナーでのよさを犠牲にすることなく、低速コーナーでのマシンバランスを改善することが今週末のターゲットです。低速域の問題が改善できれば、いいクルマになると思います」

 テストでは総合6番手のタイムを記録した。もちろん上位勢は燃料をやや重めに搭載して走行して真の実力は明らかにしていないし、中団グループでも燃料搭載量はバラバラで実力は読めない。

「3日目午後のセッションの結果を見るかぎり、アストンマーティンは速いと思いますけど、アルファロメオやハース、ウイリアムズなどとはかなり接戦だと思います。今のところ、予選は中団グループの上位で争えるのではないかと思いますし、ギリギリではありますけどQ3が狙えるんじゃないかとは思います。でも、今年は中団がさらにタイトになっているはずなので、そこがフタを開けてみてどうなっているかですね」

 それと同時に2日目と3日目の午前中に行なったレースシミュレーションでは、タイヤのデグラデーション(性能低下)がやや大きく、同時刻のレッドブルはおろかアルファロメオにも後れを取っていた。

 これも前述のマシンバランスが改善できれば、リアタイヤの負荷は減って改善が見られるはずだ。ただ、中団グループでポイント争いをするのは決して簡単な状況ではない。だからこそ、マシンと自分自身の実力を常に100%引き出し、やれることをすべてやりきる必要がある。

 それを果たすために、やるべき努力はすべてやっている──。それが角田の目、表情、オーラに表われている。

 今までとはまったく違う、角田裕毅の2023年がもうすぐ始まる。