箱根駅伝で、過去の最高位は4位を3回、16年連続で出場している帝京大。近年は5年連続でシード権を獲得している状況だった。中野孝行監督は「13区間あればいいのにと思うほど、今回は誰を外すか悩んだ」というチーム状態で臨んだが、往路は14位と出…

 箱根駅伝で、過去の最高位は4位を3回、16年連続で出場している帝京大。近年は5年連続でシード権を獲得している状況だった。中野孝行監督は「13区間あればいいのにと思うほど、今回は誰を外すか悩んだ」というチーム状態で臨んだが、往路は14位と出遅れ、復路も13位に上げたところで力尽き、総合13位とシード権を逃す結果になった。



帝京生らしい走りで、8区を区間6位で走った2年生の山中博生(左)

「ここ2年間は、コロナ禍で思いきった練習ができていなかったし、特に今の3年生は入学した時からコロナで、本来うちがやるべききつい練習ができなかったんです。そのなかで、この2年間は小手先だけで戦ってきた感じでした。それに、細谷翔馬や遠藤大地など強い選手がいた4年生がゴソッと抜けて、戦力ダウンはわかっていました。だから、彼らが1~2年生の頃にやっていた、そのきつい練習をさせようと2019年の練習をベースにしたんです。

 でも今の選手たちはセンスもあるから、それが意外にできちゃったんですね。それに12月のメンバーを決める強化練習もできていて、取りこぼしがなかった。だから過信してしまったところはあります。普段の力というのは、毎日の積み重ねた結果というのが私の信条ですが、今回の箱根に関しては小手先になってしまったのが私の反省です」

 これまでのように制限のない普通の状態で試合などがあれば、そこの結果を見て他大学との力の差やその選手の本当の力もわかる。ほぼ従来どおりに開催されるようになった昨年春は、それほど成果を出せなかったこともあり、独自のスケールを設定することが必要になった。それが過去のデータだった。ただ、その比較対象になるのは数字だけになってしまう。ここ数年はシューズの効果もあり、数字だけでは、そう簡単には他大学と比較できなくなっているのも現状だ。

「本来だったら、もっと苦しむべきところで意外とできちゃったので、そこが落とし穴になりました。走れる理由というのは当然あるし、成功することに不思議な成功はないと思います。でも負けには不思議な負けがある。それと似ていて、やっぱり根拠というのは、しっかり練習することで、間違いはないのかなと改めて思いました」

 箱根でも数字には表れない、レースの難しさを感じたという。

「大会前には選手たちは6位を狙うといっていたけど、私は良くて8位で最低でも10位狙いができればという思いでした。他大学の力量を見れば、8位というのも、どこかの大学が落ちてきた時で......。最近の駅伝はミスが少ない分、ひとつのミスのダメージが大きく影響することもあるからチャンスはあるかと考えていました。

 ただ、今回は9区の途中から3位から9位が混戦となり、どこの学校も3位を狙えたし、9位になる可能性もあるという状態でしたよね。何が正解なのかという難しさを、今まで以上に感じた駅伝でした」

 来年を考えれば、今回走れなかった選手を含め、箱根経験者が8人残る。中野監督は「それも頼もしいといえば頼もしいです。夏をとおしてどこまでたたき上げることができるかがすべてです」と、これからを語る。

「選手たちにとって今大会は、『土台をしっかり積み上げていかなければいけない』と感じた大会になったと思います。良くはなかったけれど、きっかけにはなったかなと。箱根が終わってから練習に関して、選手たちのほうから『このくらいの練習ペースにしませんか』と発信してきているので、工夫し始めたなというのも感じています」

 そして、「シード権を逃したことは悔しいが、それが学生たちの成長にもつながる」と続ける。

「まだ学生だから失敗をしてもいいと思うんです。失敗して後悔し、反省をするから強くなれる。今までうちは5年連続でシード権を取れていたから、彼らも失敗を知らなすぎたと思います。攻めてはいたけど、今まで失敗がなかった分これまでの練習に安心をしていました。その点は私も、『勇気を持って変えていれば違ったかもしれないな』と反省です......。新入生に対しても、これまでのようにじっくりやらせるだけではなく、状況を見て大胆なことをやらせることも、できるかなとも考えています」

 こう話す中野監督は超エースがいないチーム事情のなかで、箱根は1区から3区まででひと区間と考えていると言う。そこを10番前後でしのぎ、4区と5区にある程度強い選手を置いて順位を上げ、シード権を確実にするという戦略だ。今回4区に1年の柴戸遼太を起用したが、将来は主力になって欲しいとの思いからだ。

「やはり、走るべき選手が走らなければダメですね。だから今回2区を走って区間17位だった西脇翔太(3年、22年10区区間10位)や、1区16位だった小野隆一朗(3年、22年1区区間8位)。8区で区間6位だった山中博生(2年)が、(これから)中心になるべき選手ですね。なかでも山中は1年の時は体が細くて4年まで持つかなとも思ったけど、1年の時に地道に安定感をつけた、本来の帝京らしい選手です。

 それに、ここ数年は予選会を走っていなかったので、ハーフの自己記録が全体的によくないというのもあります。でも2月の丸亀ハーフでは、福田翔(2年)が1時間02分03秒の帝京大タイ記録で走ったので。駒澤大は1年生が1時間01分36秒で走り、2年の篠原倖太朗くんが1時間00分11秒の学生新を出してうちより2分も速いけど、箱根を走ってない福田が出したので、他の選手も『このくらいは行ける』と頑張ってくれると思います」

 次の箱根へ向けては「今は財布の中身がいくら入っているかを調べる作業をやっている段階ですね」と笑う。

「やっぱり予選会が終わって初めて、『こういう戦い方ができるんじゃないか』というのを考えられると思います。あるいは夏合宿で『どの区間が適性なのか』というのを見るので、現時点では想像もつかないし、まずは予選会で全力を使い果たす気持ちで行かなければ、今の厳しい戦いは勝ち抜けないと思っています。

 本戦になったら、その時に調子のいい者を使うというのが基本だと思っているので、これまで遠藤を4年連続3区とか細谷を2年連続5区で使ったけど、それは私にとっては例外。確かに経験があるのはいいことですが、それがいいイメージなのか悪いイメージなのかも重要だと思うし、私の場合は周りが驚くような区間配置をした時のほうが行けてしまっているので。適材適所をうまく考えた、そういう配置をできるようにしたいですね」

 13年に4位になって以降、2回シード権を逃しているが、すぐに復活して連続ではシード権を逃したことがないと自信を持つ中野監督。今回の失敗を、次につなげるための戦略と考え始めている。