2023年の開幕を直前に控え、バーレーンで行なわれた3日間の合同テストは、いまだかつてない濃厚な内容となった。 すでに昨年より1.4秒も速いタイムを記録し、フロア規制強化でルール上は遅くなっているにもかかわらず、マシンはこの1年で大幅に進…

 2023年の開幕を直前に控え、バーレーンで行なわれた3日間の合同テストは、いまだかつてない濃厚な内容となった。

 すでに昨年より1.4秒も速いタイムを記録し、フロア規制強化でルール上は遅くなっているにもかかわらず、マシンはこの1年で大幅に進化していた。



ペレス(左)とフェルスタッペン(右)はコンビ3年目

 それだけでなく、開幕前のテストがわずか3日間しかないとあって、多くのチームが7レース分にあたる400周以上を走り込んだ。大きなトラブルもほとんどなく、ほとんど赤旗を目にすることがなかったのも印象的だった。

 そこに漂っていたのは、例年のテストのような緊張感ではなく、ただひたすら淡々と走行を重ね、予定していたプログラムをこなす姿であった。それは予定調和のようにすら見えた。

 セットアップ作業は、データさえあればシミュレーション技術でできる。しかし、走行距離を稼いでデータを収集すること、そして実際の激しい前後Gや暑さのなかでしかわからない細かなトラブル出しは、テストの実走でしかできない。

 だからセットアップ作業もそこそこに、どのチームもレースシミュレーションを次々と敢行していった。予選シミュレーションも行なった。その結果が、この周回数と速さだ。

 まさにF1の実力をまざまざと見せつけられたテストだった。

 そんななかでトップタイムを記録したのは、やはり王者レッドブルだ。マシンは昨年からの正常進化型であり、挙動も初日から極めてスムーズだった。

「空力は見てのとおり、大きくは変えていない正常進化型だ。しかし、サスペンションは前後とも変わっている。そして昨年の課題だった重量も大きく削減した。もちろん最低重量は下回っているよ、大幅にね(笑)」

 テクニカルディレクターのピエール・ヴァシェがそう説明するように、RB19には派手さはないが、速さがある。昨年型の「ストレートの速さ」という美点を維持しつつ、重量を削減したことで、コーナリング性能もさらに向上している。

【トップタイムはレッドブル】

 そして、多くのチームが2023年型ピレリタイヤの挙動に戸惑ったのに対し、レッドブルは早々にセットアップをまとめ使いこなしてきた。

 昨年のアンダーステアを改善すべく、フロントタイヤの強度とグリップレベルを上げてきた2023年型のピレリタイヤは、その反動としてリアが不安定になったマシンが多かった。メルセデスAMGは、特にこの傾向に苦しんでいた。

 しかし、レッドブルは初日の午前こそリアのスナッピーさを訴えていたものの、その挙動はすぐにスムーズなものとなって、初日からトップタイムを記録してみせた。

 セルジオ・ペレスは最終日にC4タイヤでアタックし、メルセデスAMGに0.359秒差をつけた。タイヤ差を考慮すれば、実質的に0.7秒以上の差だ。また2日目には、決勝と同じ57周を通して走行するフルレースシミュレーションも行なった。

 マックス・フェルスタッペンは初日と2日目の午後に走行。C4やC5といった柔らかいタイヤは使用せず、来週のバーレーンGPのソフトタイヤでありシーズンを通して最も使用される機会の多いC3タイヤを履いて、徹底的にテストを重ねた。

 この開幕前テストにおいて、質・量ともに最も充実していたチームのひとつがレッドブルであったことは間違いない。

 一方、昨年ランキング2位に終わったフェラーリはタイム的に目立ったところがなかった。レッドブルと同じC4タイヤでアタックも行なっているが0.7秒差と、つまりメルセデスAMGと同じような立ち位置だった。

 もちろんテストでは予選本番とは違い、燃料を多めに搭載して実力は見せない。燃料が10kg重ければ0.3秒遅くなるのだから、アタックラップタイムの比較は無意味だ。

 しかし、フェラーリ陣営は「現時点ではレッドブルの後塵を拝している」と認めている。

「もし現時点でドライバーたちが満足していたら、それは失敗だ。ドライバーたちは常にさらなるグリップを求めるものだし、予選本番までは限界までプッシュしない。

 我々はテストで広範囲のプログラムをこなし、いい仕事ができたと考えている。燃料搭載量やエンジンモードなど、ライバルたちのやっている内容もわからないし、まだ予想をするのは難しいよ」(フレデリック・バスール代表)

 ただ、フェラーリはストレートが圧倒的に速く、昨年の"直線番長"であったレッドブルをさらに5km/hほど上回る。ラップタイムは伸びていないが、ストレートが速いというこのマシン特性が実戦、特に決勝で勢力図にどのような変化をもたらすのか、非常に興味深いところだ。

【アルファタウリの弱点は?】

 アルファタウリは、角田裕毅が最終日の最後に6番手タイムを記録。「中団グループで戦える」という手応えを掴んでみせた。

「けっこういいラップタイムだったんじゃないかなと思います。もちろんドライバーとしては『まだあそこはいける、あそこはもうちょっと削れる』というところはありますけど、一番よかったのはフレッシュタイヤを履くたびに(ミスなく)タイムを更新していけたことですね」

 AT04は正常進化型だが、昨年の弱点であった高速コーナーでのダウンフォース不足が改善され、ターン12のような高速コーナーでも簡単にスロットル全開で走れるようになったという。

「マシンのフィーリングはポジティブでした。去年のマシンは高速コーナーでスライドしまくっていたのが大きな課題になっていましたけど、中高速域でのダウンフォース量が増えていて、間違いなく改善しています。ただ、高速域がよくなったのに対して、低速域は(昨年型と)変わっていないなという感じです。そこが改善できれば、かなりいいクルマになると思います」

 同じ中団グループでは、アルファロメオがC5タイヤを履いて総合3番手のタイムを記録している。タイヤの差を勘案すれば両者はほぼ同じタイムであり、それが中団で戦えるという手応えの理由だ。

 夜にタイムアタックを行なっただけでなく、ニック・デ・フリースともに角田は昼間にレースシミュレーションも行なっている。ややデグラデーションの大きさが気になると角田は言うが、リアが不安定なマシンバランスを改善できればデグラデーションは向上するはずだとも言う。

「クルマのパフォーマンスとして自分たちがどこにいるか、まだはっきりとはわかりません。だけどそれはそれとして、自分は自分のやれることに集中して、100%を開幕戦から出しきれればと思います。

 アルファタウリも状況は重く見ているので、さらに突き詰めて開幕に臨むという意味でもいいことだと思います。僕も今回のテストではフィードバックだったり、無線の使い方もうまく向上できました。これからチームと話し合ってしっかりと準備し、開幕戦のレース週末でより完成されたドライバーとしてスタートが切れればと思っています」

【角田裕毅は明らかに変わった】

 3年目の角田は明らかに変わった。F1に対する意識、チームに対する意識、ファンに対する意識......。

 すべてにおいて、ただ速く走るのが好きで、人間的には未成熟だった2年前とは明らかに違う。ひとりのF1ドライバーとして、アルファタウリのエースドライバーとしての自覚が、今回のテストに対する向き合い方にもはっきりと表われていた。

 テストの結果は、あくまでテスト最終日時点の結果でしかない。

 シーズン開幕まであと4日。その瞬間に向けて、どのチーム、どのドライバーも全力で準備を続けている。2023年のF1が、いよいよ始まる。