ここ数年の箱根駅伝では、6位になった2020年が唯一シード権を獲得できた明治大。全日本大学駅伝3位で臨んだ21年は11位、7位で臨んだ22年は14位と、戦力が整っているにもかかわらず箱根ではシード権を逃してきた。最大の弱点は1区の出遅れだ…

 ここ数年の箱根駅伝では、6位になった2020年が唯一シード権を獲得できた明治大。全日本大学駅伝3位で臨んだ21年は11位、7位で臨んだ22年は14位と、戦力が整っているにもかかわらず箱根ではシード権を逃してきた。最大の弱点は1区の出遅れだった。



箱根駅伝の7区で区間賞の走りをした杉彩文海(3年)

 今年はそれをやっと解消できた。1区富田峻平(4年)の区間賞獲得で1位スタート。しかし、2区の小澤大輝(4年)で大きく順位を落として往路は12位で終えた。復路も、7区の杉彩文海(3年)の区間賞獲得もあって8区で9位に上げたが、9区と10区が崩れて12位でゴール。山本佑樹駅伝監督は「2区間で区間賞を獲ってシード権を外すというのは、あり得ないことですよね」と苦笑する。

 その苦戦の最大の要因は、12月中旬を過ぎてから2区に起用する予定だった児玉真輝(3年)と、1万mチームトップとなる28分19秒77のタイムを持つ櫛田佳希(4年)が離脱し、急遽区間配置を組み直さなければならなくなったことだ。

「当初は3区で区間4位だった森下翔太(1年)を7区にして、児玉、小澤、櫛田を2区から4区に並べる。5区は1年生の吉川響で、うまく流れれば7~8番では行けると考えていて......。復路も7区で区間賞を獲った杉を9区か10区に持って行く想定をしていました」

 6区も当初は漆畑瑠人(4年)の予定だったが、児玉と櫛田のふたりが走れないために10区に回した。代わりの1年生の堀颯介は区間8位と予想以上の走りをしたが、9区と10区の4年生が本来の走りをできなかったことが最後は響いた。

「僕の反省としては、(前回、前々回と)2年連続でシード権を取れなかったあとに小澤を主将に指名して、力のある選手が揃っていた4年生を中心に目標設定など細かいことを任せて1年間やってきたが、それが結果として負担になりすぎてしまったことです。彼らは自分たちのことだけではなく、チームのことを考えるようになって、それが悪い方向にいって空回りしたような感じがして。4年生全体にいろいろ背負わせ過ぎたと思います。

 特に小澤は本当にいろいろやってくれて、自分の走りに集中できなかったというか、余計な労力を使わせてしまって。今回も実際は調子がよくて、『2区もあるかな?』という状態でしたが、児玉と櫛田が出られない状況で走り、しかもトップでタスキを受けてうしろから(駒澤大の)田澤廉選手や(中央大の)吉居大和選手、留学生が追いかけてくるという状況で相当なプレッシャーもあったと思います。本当は悪い走りじゃないのに、抜かれるうちにどんどん悪い方に考えてしまうような状態になっていたと思います」

 今回の箱根は、全体を見ても9区で3位から9位までが接近する大混戦だった。6区の堀が59分33秒とまずまずの走りをし、7区の杉が区間賞を獲得したことを考えれば、往路がもう少しだけうまく流れていれば7区で5~6位争いには加われただろう。チームとしても、目標を5~6位にする力はあった。だが、「シード権獲得」と目標を控えめにしたことも裏目に出てしまったと言える。

「4年生主導でミーティングも頻繁にやり、目標設定シートも作ったり、本当に熱心に取り組んでシード権獲得ということにすごく強い気持ちを持っていました。ただ、順位を明確にしなかったことで、そこがぼやけてしまったというか。シード権といってもどういう走りをして、各区間どういう順位を狙っていくかというのが明確になっていなかったです。

 箱根が終わって振り返りをしましたが、3年生が主になっていくタイミングで選手たちからもそういう声が出てきました。もっと具体的に目標順位を設定して、それぞれの区間で自分がどういう順位を狙い、どういうタイムで走るかというのをきちんと出した方がいいと話しているので、そこは変わっていくと思います」

 明治大としては、持っている力を出し切れずに終わったレースで、山本監督も「シード権をずっと取れていないけど、今年の負け方はより悔しさもあるし、僕個人としても力不足を感じるというか、もう少しコントロールをうまくできていたらな、という思いはすごくある」と話す。

 ただ、区間賞2つの他にも区間ひと桁の走りが3区間あった。さらに関東インカレなどのトラックレースでも入賞者を出している結果を見れば、取り組みが間違っていないことは確認できている。あとは箱根に向けてどう合わせていくかだけ。

「力のある4年生が6人抜けることで戦力ダウンは否めないですが、うちの選手は1、2年で苦労して3、4年で上がってくる選手が多いのでそこに期待しています。春先はトラックで頑張らせて、持ちタイムを上げて選手層を厚くしなければいけないですが、今回3人出場した1年生は、けっこうレベルが高い選手が揃っていて横のつながりも強い学年なので、これからチームの核に育っていくと思っています。それに区間賞を獲った杉や、エースになる児玉という新4年生がいるチームバランスもいいと思います」

 そう話す山本監督は、これからの課題のひとつに各校のエース格の選手が走る2区と9区の強化も必要だと言う。

「3区から8区と、10区は2020年以降、明治大最高記録を塗り替えているけど、2区は2011年の鎧坂哲哉の記録、9区は2015年の木村慎の記録が残っているので、そこを塗り替えられるかがカギになってくると思います。

来年の2区に関しては、今回走れなかった児玉が最後の年ということで執念を持ってやるだろうし、1年の森下が『次は2区をやりたい』と言っているうえに、『4年ではマラソンをやりたい』と、さらに上のレベルを見ているので楽しみですね。

それに6区を走った堀も5000mは13分台で1万mは28分40秒90を持っているので、6区のスペシャリストになっても面白いかなと思います。5区を走った吉川も調子はすごくよくて平地区間だったら、森下と同じくらいの区間順位で走れたと思いますし、今回は山仕様の調整がやり切れなかったところもあったので、彼も主力になってくれる選手ですね。5区でリベンジしたいとも言っているので楽しみにしています」

 他にも今回エントリーメンバーには入りながらも走れなかった齋藤拓海(3年)や新谷紘ノ介(2年)、1万mで28分48秒台を出しながらも、12月の頭にケガをしてしまった曳田道斗(2年)など成長が楽しみな選手もいる。

「正直、箱根が終わって周りから厳しい言葉をもらって選手たちも落ち込んだけど、冷静に結果を振り返ってみると、いいところもずいぶんあったので、気持ちの切り替えはスムーズにできたと思います。うちの寮は部屋を一歩出ると外なので、12月になるとその寒暖差で体調を崩すこともありましたが、それも3月に新しい寮ができるので体調管理の面では改善されると思います。また1年前から入っているフィジカルトレーナーも、ようやく馴染んできたのでこれからプラスに転じると期待しています」

 こう話す山本監督は、昨年の反省から今年は新チームになってからの主将選出も遅らせている。

「早めに決めて主将にいろいろなことを背負わせたくないので、まずは選手それぞれの個人目標を明確にし、それをみんなで共有して頑張るという形にしたい。そのフォローにも僕が力を入れていかないといけないので、今まで以上にコミュニケーションをとる必要があるかなと。駒澤大の大八木弘明さんのように、こっちが変化していかなければダメかなと思っています」