第99回箱根駅伝で往路4位、復路8位で総合4位という成績を残した國學院大。目標は、総合3位内だっただけに、達成できなかった悔しさを選手たちは口にしていた。「4位でも悔しいと思えるチームになったことはプラス」と前田康弘監督は語るが、指揮官の目…

第99回箱根駅伝で往路4位、復路8位で総合4位という成績を残した國學院大。目標は、総合3位内だっただけに、達成できなかった悔しさを選手たちは口にしていた。「4位でも悔しいと思えるチームになったことはプラス」と前田康弘監督は語るが、指揮官の目には、箱根を終えたチームを見て、どんな手応えと課題を感じたのだろうか。

國學院大・陸上競技部監督
前田康弘インタビュー後編
前編はこちら>>箱根駅伝は「5区でしとめるイメージでいた」



今年の箱根駅伝は総合4位の結果に終わった國學院大

──優勝した駒澤大との差は、7分50秒ありました。

「この結果からわかるのは、駒澤大の圧倒的な強さと分厚い選手層です。佐藤(圭汰・1年)君、花尾(恭輔・3年)君がいなくても完璧な勝利ですし、うちとは走力の差もありますけど、チーム内で12番、13番の選手があれだけ走るっていうのは、本当に選手層が厚いという証拠です。駒澤大に追随した中央大、青学大も一定の選手層を持っています。それに比べると、自分たちはまだ細い。ひとり主力が倒れてしまうと、そのリカバリーをする選手がうちにはいないので、優勝はまだ遠いなというのを実感しました」

──レース後、総合4位で選手たちは悔しさを口に出していました。出雲2位、全日本2位と好調を維持していただけに余計に悔しさが募ったのかなと思います。

「僕も悔しいですし、選手は本音を言っていたと思います。今回の箱根で、選手は優勝するのは簡単なことじゃないというのを学んだのではないでしょうか。駅伝はいいことだけ並べて勝てる競技ではなく、よくないことがあって、それをチームでフォローできるかどうかを問われるレースだと思うんです。うちには、そういう力が足りていないことが突きつけられました。ただ、見ている山は間違っていなかったですし、これから何をしないといけないのか、明確にわかる箱根になりました」

──具体的に今後、何をしていかないといけないと思ったのでしょうか。

「突き抜ける選手を作る育成、山に対応する練習方法とか、そこはちょっと変えていかないといけないと思っています」

──國學院大にもエース候補はいますね。

「この春には田澤(廉・駒澤大4年)君と近藤(幸太郎・青学大4年)君という影響力のある選手が抜けて、次は吉居(大和・中央大3年)君が中心かなと思うんです。平林(清澄・2年)にはそこのレベルにまでいってほしい。彼がそこにいかないとうちはアドバンテージがとれないと思うんです。山で言えば、一番いいのは、伊地知(賢造・3年)でもなく、平林でもない選手が出てくることですね。駒澤大の5区の山川(拓馬・1年)君は、すばらしかった(区間4位)。あのくらいの仕事をする選手が出てこないと優勝争いはできない。出てこないのであれば、平林が5区で絶対的な山の神になるとか、そういう力がある選手が山にいないと箱根で勝つというのは簡単には言えないですね。もちろん山だけではなく、1区、2区も重要ですし、そこを任せられる選手層というところにも取り組んでいかないといけないです」

箱根駅伝で勝つためには、エースの育成や分厚い選手層を作り上げていくのと同時に、レース展開でもチームとしてすべきことがあると前田監督は考えている。

──箱根で優勝をするために目指すべきレース展開とは、どういうものでしょうか。

「出雲と全日本は2位になりましたが、いずれも1区で出遅れているんです。今回の箱根もそうで、後手に回って、みんなで頑張って4位になる駅伝でした。来シーズンは、1区から先手を取る駅伝を実践したいですね。僕らは箱根では1回も先頭に立ったことがないんです。優勝した2019 年の出雲の3区で浦野(雄平・現富士通)が先頭に立って以来、1度も駅伝で先頭がない。大学3大駅伝で優勝するチームは、先頭を走る経験を経て、勝ちきれるようになっていくんだと思うんです。それができていないので、次の出雲、全日本ではそういう見せ場を作っていかないといけないですし、それを経験しないかぎり、箱根の優勝にリンクしていかないと思っています」

──選手層は浦野選手の時代からかなり厚くなっているように見えます。

「國學院という視点でとらえると、浦野と土方(英和・現旭化成)が火つけ役になって、年々、選手層が厚くなってきていると思うんです。でも、國學院史上最高だよねって自分たちで喜んでいてもダメなんですよ。過去の自分たちのチームと比べるのではなく、今の本当のトップチームと比べてどうなのかという目線を持たないといけない。今でいうなら駒澤大が基準になるわけですが、そこと比べて、どうなのか。他のチームも強化がすばらしいですし、チーム内の競争も激しく、毎年、強くなっています。自分たちも選手層が厚くなり、強くなったから順位も必然的に上がるだろうと考えていたら箱根は勝てないですし、優勝はいつまで経っても夢物語でしかないでしょう」

──國學院大はチーム内の競争が少なく、メンバーが固定化されている印象です。

「そこがうちと駒澤大、青学大との絶対的な差かなと思っています。うちもチーム内の競争という部分で、もっとキャパを増やし、レベルを上げていかないといけない。エース格の選手が確実に走るというのはあるんですけど、それ以上がないんです。ひとりが転げてしまうと、その替えがきかないので、たちまち苦しい展開に追い込まれてしまう。駒澤大でいうなら花尾(恭輔・3年)君たちの代は高いレベルの選手がすごく多いですし、1年生も山川君、伊藤(蒼唯・1年)君とかいい選手がどんどん出てくる。スカウティングのよさもありますが、うちもそこの育成はもっとやっていかないといけないと思っています」

國學院大の新体制は、すでにスタートしている。主将は伊地知が務め、副将は平林と山本(歩夢・2年)の2人体制になった。順調に成長している平林らがいよいよ上級生になり、重要なシーズンになってくる。

──伊地知主将、平林選手、山本選手の副将は早くから決めていたのですか。

「そうですね。伊地知は気持ちが強くて、発言力があるんですけど、ちょっと強すぎる。それを中和し、かみ砕いて話ができる人が必要なんですけど、ふたりはそのタイプ。それに伊地知は、走力もある。競技力がない選手が上に立つと、チームが締まらないですし、その選手自身が大変な思いをするんです。3人のバランスがよいと思うので、チームをうまくまとめてくれると思っています」

──副将のふたりのうち、どちらかが4年時の主将になる感じですね。

「それが自然だと思います。1、2年は、自分のことで精いっぱいなんですけど、3年ぐらいから徐々にチーム全体を見られるようになっていくし、そういう視点を選手に求めています。4年になっていきなり主将ではなく、3年で上に立って見てきたことを4年で主将になって活かすことが理想ですので、準備期間ということでふたりを副将にしています」

──浦野選手と土方選手が卒業し、平林選手が入学してきた時、彼が4年生になった時、優勝を狙えるチームにしたいと監督は言っていました。それよりも早くチームが仕上がってきているのではないでしょうか。

「言った以上は、そこに持っていきたいですね。2019年の出雲の優勝は、狙いにいったのもありますが、勝てるのかなと半信半疑の部分もありました。今回の箱根での駒澤大の勝ち方を見てみると、しっかり勝てるチームを作って勝つというのが本物だと思うので、そういうチーム作りをしていきたい。箱根で優勝争いができるチーム作りを進めつつ、今シーズンは3大駅伝のうち、ひとつは獲りたいと思っています」

──それが箱根であれば、記念すべき100回大会での悲願達成になります。

「優勝という言葉を今年もチーム内でしっかり共有していきたいですね。僕らはチャレンジャーなので、その精神を維持しつつ、強気に強豪校にぶつかっていきたい。そうして頂上に立ちたいと思っています。その先は、常連校から強豪校になるのがテーマだと思っています。5年連続してシード権を獲得したから強豪校というわけではないと思うんです。常に上位で戦っている駒澤大、青学大、東洋大とかはみんなが認める強豪校だと思うので、そういう存在価値を自分たちも身につけていきたいと思っています」