スーパーエース・西田有志 がむしゃらバレーボールLIFE  Vol.2(5) 男子バレーボール日本代表の左のエース、西田有志が昨年の5月ぶりにスポルティーバのインタビューに答えた。その間にセリエAからVリーグへの復帰、日本代表での活動もあっ…

スーパーエース・西田有志 
がむしゃらバレーボールLIFE  Vol.2(5)

 男子バレーボール日本代表の左のエース、西田有志が昨年の5月ぶりにスポルティーバのインタビューに答えた。その間にセリエAからVリーグへの復帰、日本代表での活動もあったが、まずは昨年度の日本代表での戦いをあらためて振り返ってもらった。



昨年の世界バレー決勝T初戦のフランス戦で、両チーム最多の31得点を挙げた西田

 西田の日本代表での背番号は、2022年度から「1」に。西田が子供の頃にテレビで見て憧れ、長く日本代表をけん引した同じ左腕のエース・清水邦広の背番号を引き継ぐ形になった。清水はそれが決定したあと、自身のInstagramのストーリーで「"ゴリ"のニックネームも背番号も西田に譲るよ!」とメッセージを送った。

「清水さんがつけていた番号ということで、すごく運命を感じます。自分も清水さんのようにしっかり結果を残せるように頑張りたいです」

 そんな西田の活躍もあり、2022年男子日本代表はネーションズリーグ(VNL)で初めてファイナルラウンドに進出。準々決勝で東京五輪金メダルのフランスと対戦し、セットカウント0-3で敗れた。

 その後、スロベニアとポーランドで共催された世界バレーでは2勝1敗でグループ予選を抜け、決勝トーナメント初戦で再度フランスと対戦する。フルセットの激闘になった最終セット、日本が先にマッチポイントを握ったが、逆転されベスト16で敗退した。

「VNLは初めてのファイナルラウンドでしたが、自分たちがやるべきことは変わりませんでした。でも、そこで1勝を挙げることがどれだけ難しいかが初めてわかった。そこに1歩足を踏み入れられたことはよかったと思います。次は、そこでどう勝つかが課題になりますね」

 2022年度の男子代表の活動はスケジュールが非常にタイトだった。VNL自体が3連戦しながら世界中を転戦するというタフな日程で、さらにファイナルラウンドも戦い、数日後には沖縄で世界バレーに向けた親善試合(紅白戦)が行なわれた。

 当時、西田自身もSNSで大変さを伝えており、他の代表選手たちからも賛同の声が上がっていた。親善試合があった沖縄では、「時差ボケが激しすぎて、何時くらいに眠りたくなるのが正解なのかわからなかった」と苦笑交じりに答えていた。

【世界バレーでは「祐希さんがいない分も」】

 あらためて当時のことを尋ねると、次のように実情を伝えてくれた。

「昨年度の日程は、これまでチーム全体でも経験したことがないくらいのハードスケジュールで進んでいたので、ストレスを感じましたし、それをリカバリーするための時間がなかなかとれなかったですね。それについては(日本代表のフィリップ・)ブラン監督や選手だけじゃなくて、スタッフともいろいろ話をしました。ブラン監督もスケジュールについては懸念していて、実際に動いてくれた。それでも変えられない部分がありましたが、今後はいろいろと改善されていくんじゃないかと思います」

 VNLのファイナルラウンドで左足首をケガした主将の石川祐希は、世界バレーでは状態が万全ではなかった。予選は大塚達宣が代わりに入っていたが、西田にかかる負担は大きかっただろう。

「アスリートにケガはつき物ですから、仕方がないことです。負担やプレッシャーは全員が感じていたと思いますが、特に僕は得点を取らなくてはいけないポジションですから、『祐希さんがいない分も』という気持ちが強かったです。ただ、どのメンバーが出ても結果が出せるようになってきましたし、もっとチーム力を上げることはできると思います」

 実際に日本代表は、世界バレーで目標の「ベスト8」には届かなかったものの好調を維持した。

「予選ラウンド初戦のカタールにしっかり勝つことは前提として、やはり同組の強豪のブラジルやキューバにも勝たないといけないと考えていました。予選ラウンド通過は簡単ではなかったですし、1試合ごとにチームの状態をどう上げていくかがすごく大事だったので、プレッシャーはすごかったですね。

 予選2戦目のキューバとは対戦が久しぶり(6年ぶり)で、現チームのデータも少なかったですが、そんな中でいい入りをして白星を挙げられたことはよかった。決勝トーナメントは初戦で(五輪覇者の)フランスとの対戦になりましたが、いずれ格上のチームと当たることに変わりはありませんでしたからね。負けはしましたが、日本代表としては形がだんだんよくなってきている印象があります」

【パリ五輪予選に向けて「勝ちに貪欲に」】

 西田自身も大きなインパクトを残し、特にフランス戦では前衛からも後衛からもスパイクを決めまくり、スパイク決定率70%、両チーム最多の31得点を挙げた。試合後、ブラン監督は「西田は世界トップレベルのオポジットだと胸を張って言える」とコメントしている。

 西田は試合後のミックスゾーンで、「着替えてくるので少しお待ちください」といったんその場を離れ、ジャージ姿で戻ってきた。その表情には高揚感が滲み出ており、「自分でも、途中から『めっちゃ(スパイクが)決まってないか?』と思いながら打ってました」とコメント。「日本のVリーグもよろしくお願いします!」と手を振って去っていった。

 ただ、時間を経るごとに悔しさが大きくなっていったようだ。

「試合内容としてはすごくよくても、結果は負けですからね。点数としては1、2点の差ではありましたが、そこを取り切れるかどうかで最終的な順位が変わってくる。

 昨年度は勝ち星も多かったし、今まで感じたことがないチームのまとまりや躍動感もあったけど、今年もそれが続くかはわかりません。また全員がレベルアップして、常にあのフランス戦のようなバレーができて、さらに勝つことができるレベルまでいきたいですね」

 29年ぶりに予選ラウンド突破を果たした2021年夏の東京五輪から、チームとして向上した点については次のように語った。

「パスの質がすごく上がって、チーム全体として同じテンポで攻撃に入れるようになりました。形や数字で見えにくいところですが、攻撃のバリエーションが増えたと思います。セッターの関田(誠大)さんが、相手ブロックに的を絞らせないようにセットアップをしてくれたり、アタッカー陣の工夫もあったので、チームとしての戦力が上がったように感じます」

 2023年度は、パリ五輪予選のひとつである「FIVB パリ五輪予選/ワールドカップバレー2023」が日本で行なわれる(女子は9月16日、男子は9月30日に開幕)。同大会では、開催国のフランスを除く世界ランキング上位24カ国が8カ国ずつ3組に分かれて戦い、各組の上位2カ国が出場権を獲得することになる。ホームの後押しを受けながら、そこで切符を手にしたいところだ。

「そこが一番の大きな大会で、代表チームとしても大切な分岐点になる。そこまでに勝つチームを作っていくために、どれだけ選手個人が勝ちに貪欲になり、先ほども言ったように(それぞれのリーグで)個々のレベルをどう上げていけるか。当たり前のことを高いレベルでやることが、オリンピック予選の結果に繫がってくると思います」

 各代表選手が奮闘するVリーグは終盤を迎えているが、西田にとっての2022-23シーズンは、バレーボールファンの感情が大きく揺さぶられるシーズンとなった。
 
(連載6:2年ぶりのVリーグを語る。妻の古賀紗理那とは「バレーの話ができるのはすごくいい」>>)

【プロフィール】
◆西田有志(にしだ・ゆうじ)
2000年1月30日生まれ、三重県出身。身長186cm。ポジションはオポジット。V.LEAGUE DIVISION1 MENのジェイテクトSTINGSに所属し、2018-2019シーズンに最優秀新人賞、2019-2020シーズンに最高殊勲選手賞、得点王、サーブ賞を受賞。昨年は海外に挑戦し、イタリア・セリエAのヴィーボ・バレンティアでプレー。今シーズンは2年ぶりに古巣に復帰した。日本代表には2018年4月に初招集。以降、左のエースとして東京五輪など国際大会で活躍を続けている。