6月17日、等々力陸上競技場で行なわれたJ1リーグ第15節、川崎フロンターレ対サンフレッチェ広島戦。試合終盤の川崎は1-0でリードしていたものの、自滅しかけていた。5バックに変更したことで、全面的に相手の攻撃を受けることになった。川崎…

 6月17日、等々力陸上競技場で行なわれたJ1リーグ第15節、川崎フロンターレ対サンフレッチェ広島戦。試合終盤の川崎は1-0でリードしていたものの、自滅しかけていた。5バックに変更したことで、全面的に相手の攻撃を受けることになった。川崎自慢のボールを握る力は消え失せ、ラインの間に何本もパスを通され、立て続けに危うい場面を迎えた。

 川崎が1-0のままゲームをクローズできたことは、僥倖(ぎょうこう)と言うべきだろう。

「今までは(そういう展開で)決められるストライカーがいました」

 対戦相手である広島のミキッチは、率直に語った。たしかに終盤の広島は複数の決定機を作っている。では単純に、広島が勝てる試合を落としたということなのか?


川崎フロンターレに敗れ、うなだれるサンフレッチェ広島の選手たち

 今シーズンは開幕以来、広島の低迷が続いている。第14節終了の時点で2勝4分け8敗と18チーム中16位。リーグ戦のホームではいまだ未勝利で、降格圏で喘いでいる。過去5年で3度のリーグ王者になってきたチームとしては、「異常事態」と言っていい。

「(川崎戦は)厳しい戦いになると覚悟して臨みました。選手はチームとしてやるべきことを諦めず、ファイトし続けてくれましたが」

 そう広島の森保一監督は語っているが、川崎戦も歯車は噛み合っていない。 

 前半は、ビルドアップにも苦しんだ。3-4-2-1の基本戦術で、攻撃時はボランチがひとつ落ちてDFラインに入り、4バックにして、両サイドをウィングのように押し上げ、厚みを作って攻撃するはずが、その前にノッキングを起こしてしまう。サイドは単発的に仕掛けるだけ。前線の選手は距離が近すぎた。流動性を欠き、相手の読みの範疇に収まってしまう。

「ボールを失わないように、落ち着いて」

 それがチームとしての戦略だけに、押し込んでも遅攻は後手に回る。横パスばかりで、縦パスは入らない。結局、攻め手はカウンターからアンデルソン・ロペスが持ち上がるしかなかった。

 それでも0-0でハーフタイムを迎えたが、後半、アクセルを踏み込んだ川崎についていけなくなる。

「前半は少し攻めあぐねましたが、後半は両サイドを高くしてリスクを冒していこう、と」(川崎・鬼木達監督)

 広島はシステムを5-4-1に変え、川崎の攻撃を受け止める。しかし、中村憲剛、大島僚太にラインの間へパスを打ち込まれ、エウシーニョ、小林悠、阿部浩之には前線でポジションに関係なく動き回られて、翻弄される。サイドを崩され、エリア内を横切るパスを通される。縦にくさびを入れられ、守備陣形がたわむ。

 56分、川崎の先制点はほぼ必然だった。中村がくさびを打ち込み、エドゥアルドネットがポストで潰れる。そのこぼれ球をエリア外でトラップした阿部が、左足を振り抜いてニアサイドに叩き込んだ。

 その後、広島は緩やかにペースを取り戻す。ラスト10分は川崎を陣内に釘付けにした。4-4-2に陣形を変えたことも功を奏したと言える。しかし得点は生まれなかった。

「(結果が出ない理由を)ひとつあげるなら、決定力にあると思います。今日も決定的なチャンスはたくさん作れましたし、あとは決めるところ。決められたら、守備でももっと耐える力が出てくる」

 森保監督はそう説明しているが、攻撃が機能し始めたのは、終盤、スクランブルになってからだった。

 攻撃構築の面ではMF森崎和幸の不在が響き、「ボールを握る、運ぶ」に支障が生じている。かつてのドウグラスのようにシャドーの選手がマークをはがしてシュート、という展開も乏しい。そして、チャンスメイクを託されたサイドの選手は抜けきれず。最強時代と同じ形式が、同じようには機能しない実状が明らかになっている。昨季はピーター・ウタカが得点王に輝いたが、ウタカは1人でゴールを仕留められた。

「今年は選手やスタッフが代わった中、いろんな変化がチームにある。その変化に対応していかないといけない」

 広島を率いて6年目になる森保監督の懊悩(おうのう)は、「変化への対応」にあるだろう。昨シーズン限りでチームの象徴だった佐藤寿人が移籍し、森崎浩司も引退。先日はDFを支えてきた塩谷司のUAE移籍も発表され、面子は大きく変わりつつある。残ったメンバーも、例えばミキッチは37歳で、着実に年を重ねている。新陳代謝は簡単な作業ではない。

 歯がゆいのは選手たちだろう。チーム全員のバーベキューや主力選手たちの焼き肉会で、緊急的に問題点を話し合っている。真面目な選手が多く、「このチームを愛している」「どうにかしたい」という忠誠心も強いという。しかし、チームを思いすぎると、個人の創意工夫や思い切りは阻害される。システムを与えるのは監督だが、システムを発展、変化させるのは選手の自由な閃(ひらめ)きだ。

 例えば、トップはペナルティエリアの幅でプレーするのが約束事でも、あえてそれを破り、サイドに流れ、攻撃の動きを出すのはひとつの手だろう。あるいはサイドは独力でなく、タメを作り、サイドバックやシャドーがダイアゴナルに中へランニングし、崩し切る。それぞれの選手が少しずつルールを破る必要がある。

「15位の残留圏に這い上がれるように……」

 森保監督は川崎戦後に言った。17位転落を踏まえれば、妥当な見解かもしれないが、勝者のメンタリティを身につけたチームがそこまで目標を低くするべきか。監督の想像を超える選手が出てくれば――このチームは変わる。卑屈になるべきチームではない。