島内全5区間、計98.2キロの長距離コースを走る「宮古島ワイドー・ズミ大学駅伝大会2023」(以下、宮古島駅伝)が12日に開催され、6大学7チームがタスキをつないだ。島への合宿誘致を目的に2020年に始まり、コロナ禍で21年は中止になったが…
島内全5区間、計98.2キロの長距離コースを走る「宮古島ワイドー・ズミ大学駅伝大会2023」(以下、宮古島駅伝)が12日に開催され、6大学7チームがタスキをつないだ。島への合宿誘致を目的に2020年に始まり、コロナ禍で21年は中止になったが、開催は今回で3回目を数える。大会名にあるワイドーは宮古島の方言で「頑張れ」、ズミは「かっこいい」「素晴らしい」といった意味がある。
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■「ミニ箱根」で新チームの状態測る
大会事務局が「ミニ箱根」と評するように、宮古島駅伝は箱根の片道と同程度の長さがある。5区間の平均は19.64キロで、三大大学駅伝の中では箱根に次いで長い。前述したように南国の島ならではの暑さや強風という厳しい自然環境もあり、「人生で一番きついコースだった」との声も聞かれた。新チームとなったばかりの時期に、この過酷なレースを走る意義を選手や監督はどのように捉えているのだろうか。
東洋大の菅野は「4年生が卒業して、3年生以下で挑む最初の駅伝なので、新チームの状態を確かめるための一つの指標になりました」と参加の意義を見い出せたよう。地元が「第4の大学駅伝」を目指していることについては「箱根の常連チームが多く出場したのは今回が初めてだと思いますが、各大学とも結構力を入れていたので、今後もっと普及して盛り上がっていくんじゃないかと思います」と私見を述べた。
今回指揮を取った東洋大の谷川嘉朗コーチも「かなり厳しいコースではありましたが、20キロという距離を走れることは意味があると思います」と語る。他チームの選手からは3月に東京都立川市で行われるFISUワールドユニバーシティゲームズの日本代表選考を兼ねた日本学生ハーフマラソン選手権を念頭に「出場する選手にとってはいい調整の機会になるのではないか」との声も聞かれた。
第1中継所でタスキをつなぎ、道路に倒れ込む立教大の上野裕一郎監督 撮影:長嶺真輝
一方で、大会レベルが急激に上がったことによる戸惑いもあったようだ。第1回大会から出場している立教大の上野監督は「僕たちはこれまで合宿の一環で出場していましたが、これだけレベルが上がると、ある程度大会に向けて備える必要も出てきます。そうすると大会の位置付けもちょっと変わってくる。怪我のリスクもあるし、この後の試合に影響が出ても困るので、どの選手を出すかなどは少し検討する必要があるかもしれません」と語った。
ただ、いずれの大学も大会に対しては概ね肯定的に捉えている印象だった。大会事務局によると、今回新たに参戦したチームは大会参加のみを目的に来島したが、来年以降は立教大や芝浦工大のように合宿を兼ねて訪れることに前向きな大学もあったという。
■にわかに盛り上がる沖縄長距離界の後押しに
開催地の沖縄にとっても、学生トップ級のランナーたちが来県してレースを走ることは地元選手の育成につながるとの期待感がある。オープン参加した沖縄選抜では県内の一般選手が一区間を1人で走り切る区間もあったが、後半は地元宮古島の中高生が一区間内を複数人でタスキをつないで大学生たちと共にコースを駆けた。今大会の閉会式では、実行委員長を務めた宮古島市陸上競技協会の本村邦彦顧問はこう語った。
閉会式で挨拶を述べる本村邦彦実行委員長 撮影:長嶺真輝
「過去に1人だけ宮古島出身の選手が箱根を走っています(与那嶺恭平・東海大/第86回大会7区)が、トップクラスの皆さんの走りを見て、これから2人目、3人目の箱根ランナーを輩出できるんじゃないかと期待しています。素晴らしいレースを展開してくれてありがとうございました」。
沖縄の陸上界は投てきや跳躍種目では全国クラスの選手を多く輩出してきた一方で、これまで長距離でトップ級の選手が生まれることは少なかった。大学駅伝においても、1992年の箱根の第68回大会で総合優勝を果たした山梨学院大の8区を県出身の比嘉正樹が走ったが、優勝争いをするような大学で走った選手は極めて少ない。
発着点となった宮古島市陸上競技場に詰め掛けた地元民ら 撮影:長嶺真輝
しかし、近年沖縄の長距離界は様子が変わってきている。全国高校駅伝の男子では毎年40番台が定位置だったが、2021年に北山高校(今帰仁村)が27位に入り、40年ぶりに県勢最高順位を更新。当時のエースだった上原琉翔はまだ大学1年生ながら、今年1月の箱根で総合4位に入った強豪の國學院大で7区を走り、区間6位の好成績を収めた。
今回の宮古島駅伝で沖縄選抜の1区を走った一般選手の宮城壱成(東海大出身)は「若い選手だと1人でこのコースを20キロ走るのは相当きついとは思いますが、今沖縄の長距離は少しずつ盛り上がってきているので、本当は現役の沖縄出身の学生たちがこのメンバーと走れたらいいですね。いい刺激になると思います」と語った。
■安全確保に課題も
大会に対してポジティブな声が多かった一方で、課題もあった。レース中、各ランナーの前後は大会車両と警察車両が挟んでいたものの、その後ろから選手を追い掛けて車内から写真を撮っている一般車両がいたり、中継所では道路にコーンを置いて片側通行とした時に通過車両の交通整理に戸惑う場面が見られたりした。
ある大学のコーチは「今後もっと大学を呼びたいという気持ちはあると思いますが、その分運営は大変になってきます。追っ掛けの観客も危なかったので、しっかり管理をしないと警察から注意が入ってしまうかもしれません」と安全性に懸念を示した。本村実行委員長も「準備万端のつもりではあったけど、後半はバタバタしてしまいました」と反省を口にし、来年以降に向けて「もっと早い時期から準備に取り組み、関係者が連携を密にして万全な体制で開催したいです」と改善を誓った。
来年に向け、既に箱根でシードを獲得するレベルの他大学も参加に意欲を示しているという宮古島駅伝。新チームとなったばかりのタイミングで、気候的な暑さもあるため、各大学が全力で競い合う大会になる事は難しいかもしれない。それでも、毎年2月に沖縄各地の球場で行われているプロ野球キャンプで球団同士が頻繁に練習試合を行うように、強豪大学同士が調整を兼ねて出場する「第4の大学駅伝」として定着する可能性は十分にありそうだ。
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文●長嶺真輝(ながみね・まき)