1月29日、愛媛県・松山市の坊っちゃんスタジアムで「世界身体障害者野球大会」日本代表の結団式並びにエキシビジョンマッチが開催された。今年3月に行われるWorld Baseball Classic(WBC)に続き、9月に行われる”もうひとつの…

1月29日、愛媛県・松山市の坊っちゃんスタジアムで「世界身体障害者野球大会」日本代表の結団式並びにエキシビジョンマッチが開催された。

今年3月に行われるWorld Baseball Classic(WBC)に続き、9月に行われる”もうひとつのWBC”。野球が命名されたとされる地・松山で身体障害者野球の日本代表が本格始動した。

(取材協力:日本身体障害者野球連盟 写真 / 文:白石怜平)

9月に名古屋で行われる”もうひとつのWBC”

今回は、9月に行われる「世界身体障害者野球大会」開催に向けたイベントである。

同大会は、9月9日〜10日にバンテリンドームナゴヤにて開催予定で、そこに向けた代表メンバー15名と監督・コーチ5名の計20名が昨年11月に発表された。

「世界身体障害者野球大会」は、その名の通り身体障害者野球の世界大会。

06年の第1回WBCで世界一に輝いた日本の提案で、同年11月に神戸・スカイマークスタジアム(現:ほっともっとフィールド神戸)で初めて開催された。

以降は4年に一度行われ、昨年は新型コロナウイルスの感染拡大状況を鑑みて1年延期し、今年第5回を名古屋で行われることになった。

本大会は日本と韓国・台湾、アメリカに加え、14年の第3回大会からはプエルトリコの計5カ国・地域が参加して、”もうひとつのWBC”と呼ばれている

日本か国別最多の3度世界一に輝いている(提供:NPO法人 日本身体障害者野球連盟)

結団式で決意表明した選手たちの持つ”力”

この日は、「野球伝来150年イベントin 松山」が坊っちゃんスタジアムで行われた。

内容は身体障害者野球日本代表の結団式、地元の新田高校女子硬式野球部とのエキシビジョンマッチ、そして日本プロ野球名球会と初代セ・リーグ覇者「松竹ロビンス」を復刻した芸能人選抜チームとの試合という豪華プログラムだった。

松山市は、日本を代表する俳人・正岡子規によってベースボールを日本では「野球(のぼーる)」と命名された地とされている。野球の原点とも言える場所で、日本代表が船出を迎えることになった。

10時に結団式が開始。紺地に赤で「JAPAN」と記されたユニフォームを身にまとった代表メンバーが横一列に整列した。

今回選抜された日本代表の選手たち

1人1人場内アナウンスによる紹介を終えると、今大会で日本代表の指揮を執る山内啓一郎監督がマイクの前に立った。球場に集まったファン、そしてこの日配信されたYouTubeのライブ配信で試聴している方々に向けて挨拶した。

「NPO法人日本身体障害者野球連盟」の理事長も務めている山内監督。40年以上続く身体障害者野球のルーツから現在、そして世界大会の応援をチームを代表する1人として呼びかけた。

日本代表を率いる山内啓一郎監督

「身体障害者野球は、神戸が発祥の地と言われています。それは、神戸にあります医療施設に当時、阪急ブレーブスの選手の皆さまが毎年訪問して下さっていました。

その中に、”世界の盗塁王”福本豊さんがルーキー時代から何度も来ていただいて、野球の楽しさ・面白さを教えていただきました。それをきっかけに神戸チームができ、関西を中心に広まりました。(中略)

新型コロナの影響で1年延期しましたが、第5回の世界大会『World Dream Baseball』が9月、バンテリンドームナゴヤで開催されます。

大会に向けて代表チームが一丸となって世界一を目指しますので、ご声援よろしくお願いします。少しでも多くの方々に身体障害者野球への関心を持っていただければ幸いです」

会の最後には、選手代表として日本代表の主将・松元剛選手が前に立った。

毎年5月に行われる身体障害者野球の全国大会の1つ、「全国身体障害者野球大会」で2連覇中の「名古屋ビクトリー」でも主力を張る50歳。

決意表明を行った松元主将

松元主将は力強い声で決意表明を行った。

「我々も皆さまと協力して素晴らしい大会にしたいと思っております。(中略)

皆さまに向けましては、スポーツの力・明日への活力。それを発信する力が我々にはあると思っております。一生懸命、熱くプレーをさせていただきます。引き続き応援をよろしくお願いします」

地元の新田高校女子硬式野球部とエキシビジョンマッチ

続いては日本代表と新田高校女子硬式野球部との試合が行われた。

新田高校は地元松山市の私立高校で、県内唯一の女子硬式野球チーム。松山市が「女子野球のメッカにしたい」という想いから同校へ依頼したことから18年に発足した。

ルールは身体障害者野球では軟式球を使用するため、この試合では軟式球を使用した。加えて身体障害者野球にある打者代走制度(※)を適用。イニングは最大5イニングで、1時間の時間制で行われた。

(※)主に下肢障害で打撃後に走塁が困難と認められた選手に適用する制度。三塁と本塁を結ぶファールラインの延長線から後方1m地点をスタートラインとし、打ったと同時にスタートする。

身体障害者野球のルールの1つである打者代走制度

普段はライバルである2人の投手リレー

10:15にプレーボール。日本代表が先攻で始まった。

日本代表の先発は、早嶋健太。毎年秋に開催されている「全国身体障害者野球選手権大会」2連覇中の強豪「岡山桃太郎」のエースで、17年・昨年と年間MVPに輝くなど、日本を代表する投手。

この試合に先発した前回大会MVPの早嶋健太

前回の世界大会でもMVPを獲得する活躍を見せ、本大会でも中心を担う選手として期待されている。早嶋は投ゴロを軽快なフィールディングで捌くなど、1回を1安打無失点に抑えた。

2回からは、名古屋の藤川泰行が登板。藤川は名古屋のエースそして打線でも中軸を打っており、上述の2連覇の原動力となっている。

藤川と早嶋は春と秋の全国大会決勝で先発し合っている”ライバル同士”。この2年で4試合投げ合って2勝2敗と五分の戦いを繰り広げてきた。

ここでも藤川は早嶋に負けない投球でこの回を3人で抑えた。

2番手でマウンドに上がった藤川泰行

日本代表が3回に一挙5点を先取

試合は3回に動いた。表の日本代表の攻撃で1アウト1・2塁とチャンスをつくると、この日2番で入った槙原淳幹(じゅんき)がライト前にタイムリーを放ち先制。続く3番の・浅野僚也(ともに岡山)もレフト前ヒットで続き、まず2点を挙げた。

2番・槙原(写真上)と3番・浅野(同下)の連打で先制点を挙げた

さらにチャンスは続き、迎えるは5番の主将・松元。

打席では右腕1本で立つ松元は遊撃へのゴロながら諦めずに一塁へ全力疾走。

内野安打となり、その間に2人がホームイン。さらに高月秀明(岡山)も続きこの回一挙5得点をマークした。

松元は結団式での宣言通り、熱いプレーでチームを鼓舞した。

主将・松元(写真上)の全力疾走で内野安打となり、浅野(同下)らがホームイン

一気にリードした日本代表は、守りでも内野陣を中心に堅い守りで投手陣を助ける。藤川が3回・4回も続投し、新田高校打線を無失点に抑えた。藤川は3イニング投げ1本の安打も許さない完璧な投球だった。

4イニングを終えたところで、この日の規定である1時間が経過しゲームセット。5−0で日本代表が初陣を飾った。

代表チームとしての初戦を勝利でスタートさせた

この日の松山の平均気温は5℃台。寒さもある中で両チームともそれを吹き飛ばす大きな声とハツラツとしたプレーでスタンドのファンを魅了した。この試合では選手交代を積極的に行い、短い時間ながら15名全員が出場することができた。

山内監督は試合をこう振り返った。

「多くの観客の中で、障害者野球を観ていただき大変良かったです。新田高校女子野球部の皆さんには普段の硬球から軟球に持ち変え、身体障害者野球のルールに合わせてもらうハンデがある中で、良い試合をさせてもらいました。とても感謝しています。

試合ではイニング・時間が決まっていましたので、試合前には選手たちに全員出場予定にしていると伝えていました。もう少し選手交代をして色々と見たいところもありましたが、気がついたらあっという間の試合でしたね」

選手交代を告げる山内監督

日本代表選手は、次回代表選手が集まる予定の7月まで所属チームで活動をしつつ、5月に全国大会が神戸で開催される。

そこではライバルとして真剣勝負を行い、その後は再び日の丸を背負う仲間として、世界を舞台に戦うことになる。

1月からさらに進化した姿で迎え、名古屋で世界一を獲得することをファンは楽しみに待っている。