MotoGPのプレシーズンテストは毎年、マレーシアのセパンサーキットからスタートする。今年も例年同様に3日間のスケジュールで、2月10日から12日まで全11チーム22名の選手が参加して行なわれた。 参戦する5メーカーのうち、最大勢力はドゥ…

 MotoGPのプレシーズンテストは毎年、マレーシアのセパンサーキットからスタートする。今年も例年同様に3日間のスケジュールで、2月10日から12日まで全11チーム22名の選手が参加して行なわれた。

 参戦する5メーカーのうち、最大勢力はドゥカティ。今年も8台のマシンをグリッドに並べ、2022年チャンピオンのフランチェスコ・バニャイア(Ducati Lenovo Team)はバイクにナンバー1をつけてシーズンに臨む。ライダーの固定ナンバーが慣例になっていたMotoGPで、チャンピオンナンバーの1番が使用されるのは2012年シーズンのケーシー・ストーナー以来だ。



参戦4年目でMotoGP王者に輝いた26歳のバニャイア

 新王者のバニャイアは、このテストで実りのあるテストメニューを消化。初日を終えた際には「昨年はシーズン前にあれこれ試しすぎて、それが序盤戦の苦戦を招いてしまった。今回は、バイクのベースセットアップを煮詰める作業に集中し、初日で既に昨年のテストで記録したベストよりもいいタイムで走ることができた」と話した。

 また、雨に見舞われた2日目は、ウェットコンディションでも良好なフィーリングを得ることができた、とポジティブなコメントを述べ、最終日の3日目にはタイムアタックで全体の2番目となる1分57秒969を記録した。

「今年初めてのタイムアタックでもフィーリングよく攻めることができた。23年型マシンの進むべき方向性も明確に見えた。ハンドリングだけは22年型よりもナーバスなので、次のテストではそこを詰めていきたい」と、満ち足りた表情で3日間の成果を振り返った。

 ほかのドゥカティ勢も総じて好調で、総合トップはバレンティーノ・ロッシの弟、ルカ・マリーニ(Mooney VR46 Racing Team)。バニャイアに0.080秒差をつけ、彼ら2名以外にもドゥカティ勢8名のうち7名が上位トップ10に入る力強さを見せつけた。



チャンピオンナンバー1番の使用は2012年シーズン以来

 ドゥカティと同じく欧州メーカー勢のアプリリアは、昨年のレースでアレイシ・エスパルガロ(Aprilia Racing)とマーベリック・ビニャーレス(Aprilia Racing)が何度も表彰台を獲得する活躍を披露した。特にエスパルガロは、チャンピオン争いに絡む目覚ましい走りを見せたが、後半戦に調子を乱してタイトル争い争いから脱落した。

 今回のテストでは、エスパルガロが「今年のバイクは冷却系がかなりよくなった」と大きな手応えを強調した。

「昨年はこの部分が悪夢のようで、そのために(熱帯の)タイGPやここマレーシアGPの終盤戦に大苦戦を強いられた。今年のマシンはチームがすばらしい仕事をしてくれて、バイクがとてもよく走っている。ストレートも速くなったし、切り返しもスムーズ。全体的に少しずつよくなっているのは、とてもいい兆候」

 エスパルガロは、マリーニから0.418秒差の総合6番手。ビニャーレスはさらにその上をゆく総合3番手。ラップタイムではマリーニの0.147秒背後で、トップスピードはバニャイアと並ぶ最上位の337.5km/hを記録した。

 今シーズンのアプリリアはサテライトチームを獲得し、2チーム4台体制になっている。データ収集面でも昨年以上の充実が見込まれるため、戦闘力はますます向上していきそうだ。ただ、エスパルガロは「今のところドゥカティが最もいいバイクで、どのライダーたちも総じて速い」とも述べており、この正直なコメントに現状の勢力関係が現れていると言えそうだ。

 一方、日本メーカー勢は、スズキが昨年かぎりでレースから撤退したため、2023年シーズンはホンダがファクトリーとサテライトの計2チームで4名の選手、ヤマハがファクトリーチームのみの1チーム2名体制というラインナップで、数の上では欧州陣営と比較すると劣勢を強いられる格好になっている。



2021年王者のクアルタラロは昨年総合2位

 ヤマハは、2021年のチャンピオン、ファビオ・クアルタラロ(Monster Energy Yamaha MotoGP)がテスト初日から良好さをアピールした。トップスピードの遅さが積年の課題で、ライバル勢と戦う際にもこれが原因で苦戦を強いられてきたが、今回のテストでは初日から昨年のレース時よりも高いトップスピードを記録。

「昨年は、テストを始める前からどの仕様でシーズンを戦うか決まっていた。今年はたくさんのオプションがあって、そこから絞り込む作業をしている。メニューがたくさんあるので大変だけど、レースキャリアで初めて、テストらしいテストになっている」と充実した表情で話した。

 ただし、3日目のタイムアタックでは、新品タイヤを装着してタイムアタックに挑むとうまく走れない状態に陥った、と明かした。

「22周以上を走ったタイヤでも2分00秒台を維持できるけれども、新品を入れて攻めるとなぜかタイムを出せない。この原因を究明して次のテストに臨みたい」

 そう話すとおり、今回の総合順位はマリーニまで1.054秒差の19番手。好調なスタートを見せた初日から、3日目に次の宿題が見えてきた格好で今回のテストを終えた。

 日本メーカー勢のもう一翼、ホンダは2022年に彼らのグランプリ史上でかつてないほどの苦戦を強いられた。メーカー間のランキングでは最下位、全12チームのランキングでもファクトリーのRepsol Honda Teamが9位、サテライトのLCR Hondaが10位、という惨憺たる状況だった。

 2023年は、負傷から本格復帰してタイトル奪還を目指すマルク・マルケス(Repsol Honda Team)のチームメイトとして、2020年のチャンピオン、ジョアン・ミルが加入。LCR Honda Castrolには、昨年の最終戦で劇的な勝利を挙げたアレックス・リンスが入り、中上貴晶(LCR Honda IDEMITSU)のチームメイトになった。



7度目の年間チャンピオンを目指すマルケス

 ミルとリンスはともにスズキがMotoGPから撤退したことに伴うホンダ移籍だが、彼らにとって心強いのは、スズキで技術監督を勤めていた河内健が同社を退社し、HRCのテクニカルマネージャーに就任したことだ。

「ケンさんは段取りがうまく、スズキ時代はそれがとても成功していた。彼のアイデアとやり方をホンダがうまく取り入れて、ミックスさせてもらいたい。ケンさんが来たら一気にバイクがよくなるというものではないし、今のMotoGPでは0.5秒を詰めるのは大変な作業だけど、皆が着実に取り組んでいる」(ミル)

「ホンダにいいものをもたらしてくれると思う。経験と知識が豊富な人なので、それをホンダにうまく合わせこんでいってもらえれば、きっとうまくいくはず。去年のホンダは厳しいシーズンで、バイクを改善するために全員が懸命に頑張っているので、少しずつ速くなっていくと信じている」(リンス)

 と、両選手ともに、旧知の日本人熟練技術者と再び仕事に取り組める期待感を述べた。

 完全復活とタイトル争い復帰を目指すマルケスも、今回はHRCの新体制構築に協力して徹底的に走り込んだ、と3日間のテストを振り返った。

「新しいテクニカルマネージャーは(バイクに対する)理解を深めることが必要なので、そのためにさまざまなことを試した。だから、『なぜこれを試すのか』とこちらから訊ねるようなことはせず、言われるまま走ってコメントを提供することに徹した。この3日間のテストで収集した情報を有効に生かしてもらって、次のテストで前進を果たしたい。

 今回は数年ぶりにいい体調で臨めたので、コメント内容も正確なものを提供できた。初日に4台のマシンからスタートして、2日目は3台に絞り込み、3日目には2台を選んだ。そのどちらがいいかという方向性もすでに決めている。何よりいい体調で走れたという意味で重要なテストだった。バイクは複数用意できるけれども、カラダはひとつしかないのだから」



記者を囲んでテストの手応えを話すマルケス

 マルケスの総合順位はトップから0.777秒差の10番手。プレシーズンの最初のテストだけで、一年の趨勢をすべて予測できるものではない。とはいえ、今回のマレーシアテスト3日間を見るかぎり、ホンダとヤマハが3月下旬の開幕時にドゥカティと互角に戦える状態へ持って行くところまでには、まだ少しの距離がありそうにも思える。

 次回のテスト地は、開幕戦が行なわれるポルトガル・ポルティマオサーキットで、3月11日と12日の2日間行なわれる。そのテスト結果次第で、2023年の勢力関係がかなり明らかになってくるだろう。