2月2~5日、千葉ポートアリーナ(千葉市)で「2023ジャパンパラ車いすラグビー競技大会」が開催された。同大会としては4年半ぶりに海外チームを招聘して行われ、アメリカ(世界ランキング1位 ※2022年10月17日現在)、オーストラリア(同2…

  1. 2月2~5日、千葉ポートアリーナ(千葉市)で「2023ジャパンパラ車いすラグビー競技大会」が開催された。同大会としては4年半ぶりに海外チームを招聘して行われ、アメリカ(世界ランキング1位 ※2022年10月17日現在)、オーストラリア(同2位)、フランス(同5位)、そして日本(同4位)の4カ国が出場した。この大会で日本は、全チームの総当たり戦を2回行う予選ラウンド6試合と決勝戦の7試合すべてで勝利を飾り、完全優勝を果たした。

全勝優勝した車いすラグビー日本代表。今年最大の目標は「パリへの切符をつかむ」ことだ

パリ大会の前年となる今年は、パラリンピック出場権をかけた予選が各大陸で行われる。日本が所属するアジア・オセアニア地域では、6月29日~7月2日に東京体育館で開催される「2023 ワールド車いすラグビー アジア・オセアニア チャンピオンシップ(AOC)」がパラリンピック予選を兼ねており、同地域に与えられた「1枠」をめぐり、火花を散らす熱い戦いが繰り広げられる。“パリへの第1関門”とも言うべきAOCの前の貴重な実戦の機会がこの日の「ジャパンパラ」だった。

  「全員ラグビー」で勝ち取った優勝

優勝の大きな要因としてまず挙げられるのが、日本代表・島川慎一の言葉を借りれば「全員がコートに入って戦えるチームになった」ことだ。ラインナップ(コート上4選手の組み合わせ)の豊富なバリエーションに加え、各ラインナップの成長がそれを可能とし、ラインナップを次々と入れ替える「ローテーション」は日本の新たな強みとなった。


絶好調だったチーム最年長の島川慎一

東京パラリンピックでの各選手のプレータイムを振り返ると、キャプテン・池透暢の出場時間が突出している。予選リーグから3位決定戦までの5試合160分中、実に142分34秒もの時間コートに立ち続けた。世界トップクラスの池の「高さ」と「正確なパス」は日本の大きな武器で、攻撃の起点となるインバウンド(コートの外からボールを入れるプレー)シチュエーションには欠かすことができず、またゲームメークにおける絶対的な信頼感からも、タフなゲームになるほど、池をベンチに下げられない状況にあった。

しかし、今大会では池が長くベンチにいたことが印象的で、ケビン・オアー日本代表ヘッドコーチ(HC)はこのことについて、次のように語った。「過去においては池に頼ってしまう部分があり、池を下げる時は休憩を与えるためという意味合いが多かったが、今は池を下げても他の選手でゲームを終わらせることができるので、単純に休ませる目的で替えるということがなくなってきている」

今大会での日本の戦いを見ると、2~3分置きにラインナップが入れ替わっており、これはコート上の選手が常にフレッシュな状態で戦えるだけでなく、戦略においても幅や選択肢を広げている。

相手がこちらのラインナップに適応する前に交代する「早いローテーション」は、自分たちのリズム、自分たちのペースで試合を動かせるほか、各ラインナップの強みや特徴を活かした意図的かつ能動的な交代を仕掛けることで主導権を握ることができる。相手を惑わせるような攻撃パターンの多彩さは、スターティングラインナップを見るだけでも明らかで、各国と2回ずつ対戦した予選ラウンドでは、アメリカ、フランス、オーストラリアのどの国に対しても、2試合で違うラインナップを起用した。

オアーHCは、相手が交代をしようとするタイミングで、すかさずそれに対抗するラインナップをコートに送り込むなど、采配の手腕にも定評があるが、そうした交代ができるのは、それぞれが信頼のおけるラインナップへと成長したからに他ならない。

さらには、選手同士のコミュニケーションが増えたことで各ラインナップの連係に磨きがかかり、また、個々のレベルアップによってラインナップごとの戦術の幅がどんどん広がっている。なかでも、長谷川勇基―小川仁士―島川慎一―橋本勝也のラインナップの成長スピードに驚かされる。


ラインナップに合わせ頭のスイッチを切り替えることを意識したという長谷川勇基(左)

ミスマッチを作るディフェンスに水球のプレー経験からボールハンドリングにも定評がある長谷川、パワーのあるトラップに加えトライも奪う小川、スピードとタックルの破壊力はワールドクラスの島川、そして、今や日本のエースへと成長した橋本。昨年のCANADA CUPではクローズを任され、延長戦へともつれ込んだ大接戦で勝ち切ったことで「自信」が生まれた。代表の中で一番歳の差が大きいラインだが、先輩後輩に関わらずなんでも意見し合える風通しのよさが成長に拍車をかけている。さらに新たな武器として今大会では、これまであまり見ることのなかった島川のロングパスでも魅せ、試合の流れを変えるラインナップ、そして世界に脅威を与えるラインナップとしての存在感を示した。

 「8強」時代にパリへの切符を掴め!

車いすラグビーは、世界「4強」時代から、強豪ひしめく「8強」時代へとステージを移している。それを強く印象づけたのが、昨年10月に開催された世界選手権だ。ここ数年は大会ごとに優勝国が入れ替わり、試合は1点を争う大接戦。延長戦にもつれこむことも珍しくない。

日本も2016年リオパラリンピックでの銅メダル獲得以降、WWR(ワールド車いすラグビー)主催の公式戦で常にトップ3の成績を収めている。銅メダルだった昨年の世界選手権以来の実戦の場となった今大会でつかんだ全勝優勝。ここで得た手応え、そして勝つ喜びは、来たるパラリンピック予選に向け、大きな追い風となるだろう。

「優勝が自信につながった。ただ、これで満足している選手はいない。常に高みを目指し、パリパラリンピックの出場権を獲得することに照準を合わせて、チーム一丸となって取り組んでいきたい」力強く語った池崎大輔の言葉が、心に響いた。

7月、パリへの切符を掴むため、車いすラグビー日本代表は進み続ける。