第40回全農日本カーリング選手権は、2022年北京五輪で銀メダルを獲得し、大会連覇を狙うロコ・ソラーレをどこが止めるのか――いわゆる『stop the ロコ』が"裏テーマ"にあるような大会だった。 たとえば、昨年準優勝の中部電力はプレーオ…

 第40回全農日本カーリング選手権は、2022年北京五輪で銀メダルを獲得し、大会連覇を狙うロコ・ソラーレをどこが止めるのか――いわゆる『stop the ロコ』が"裏テーマ"にあるような大会だった。

 たとえば、昨年準優勝の中部電力はプレーオフのロコ・ソラーレ戦、センターライン付近を軸に展開するセンター戦を徹底した。「世界の主流になっているセンター戦で勝負したかった」とは、フォース・北澤育恵の談話だ。最終的には4-7で敗れたものの、5エンド終了までに2点のリードを奪うことに成功している。

 初のファイナル進出を果たしたSC軽井沢クラブも、スキップの金井亜翠香が「石を溜めてチャンスを待ちたい」と語っていたように、ロコ・ソラーレ相手にも臆さずに撃ち合う戦いを選択する。ラウンドロビン(総当たりの予選)こそ4-15と大敗を喫したが、決勝では5-7と僅差の勝負を演じた。

 ラウンドロビンでロコ・ソラーレに土をつけた北海道銀行やフィロシーク青森も同様だった。いたずらに石を排除せず、混み合ったハウスを作り出した。トラブルが起こり得る状況を常に作り上げ、ロコ・ソラーレにプレッシャーをかけ続けた。

 実際、北海道銀行とフィロシーク青森の両スキップ、田畑百葉と田中美咲はラストショットを着実に決めて金星を奪っている。ラウンドロビンでロコ・ソラーレが2敗したのは、スキップの藤澤五月が加入した2016年大会以来、初めてのことだ。

 センターガードの裏に石を溜めて"カオス"を作り、何かを起こしたい。チームによって細かな戦術は違っても、それが、各チームに共通した"ロコ対策"だったのかもしれない。

 それでも最後に勝ったのは、やはりロコ・ソラーレだった。



日本カーリング選手権で連覇を達成したロコ・ソラーレ

 冒頭で触れたプレーオフ初戦の中部電力戦では、劣勢を強いられながらも挫けることなく、我慢強く戦った。サードの吉田知那美は大会中、「ゾンビみたいに......」と独特の表現で振り返ったが、相手のショットが上回っても、自分たちにミスが出ようとも、最少失点で抑えて、最後までしぶとく相手に食らいついていった。

 同時に、どの試合でも自分たちがやるべきことを決して怠らなかった。スイープひとつをとっても、リードの吉田夕梨花とセカンドの鈴木夕湖のスイーパーコンビは、仮に「ウォー」(履くな)の指示が出ていても、いつ「イエス」(履け)がかかってもいいように臨戦態勢で進むストーンに張りついていた。

 吉田知と藤澤のバックエンドは、どの試合も持ち時間を有効に消費しながら、クリーンなハウスだったとしても、自分たちの最低限と最高の結果を常に照らし合わせ、相手が最もやりたいことだけでなく、次善の策までも封じるために、思考を止めなかった。

「ハウス内に石を溜めるのは、当然リスクも高いので、精度にこだわらないといけない。『あと1センチだけロールしていれば』『あと1秒早くスイープしておけば』――それで、勝敗が変わる。もっと細かく石の動かし方を煮詰めないといけないと感じました」

 大会後、そう反省の弁を口にしたのは中部電力の北澤だ。

 逆に言えば、ロコ・ソラーレはその1センチと1秒の齟齬(そご)を、細かく素早いコミュニケーションで埋めてきた。苦戦や敗戦を糧に、修正と改善を重ね、ファイナルに進んだ時はほぼ仕上がった状態だった。それこそ、強いチームの特徴だ。

 情報収集と分析、活用。加えて、精度の高さと集中力と緊張の持続性において、ロコ・ソラーレはどこよりも上回っていた。まさに勝つべき強いチームの姿を見せつけて、再び女王の座に就いた。

 この結果、ロコ・ソラーレは日本代表として、7年ぶり2度目の世界選手権(3月/スウェーデン・サンドビーケン )に挑む。あまり馴染みのないヨーロッパのアイスだが、"ゾンビみたい"にしぶとく戦いつつ、持ち前の情報収集のスピードと活用能力を駆使し、チーム全員がそれぞれのすべきことを熟知、遂行できる愚直さがあれば、優勝も見えてくるだろう。

 世界の頂点へ、過去最高に期待できるチームだ。